●平成11(ワ)6516 特許権 民事訴訟「携帯用定容積比率混合容器」

 本日は、『平成11(ワ)6516 特許権 民事訴訟「携帯用定容積比率混合容器」平成12年06月29日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/CCCEFE2612455FDE49256A77000EC363.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害訴訟を請求したもので、その請求が棄却された事案です。


 本件でも、均等侵害の判断等が参考になります。


 なお、本件特許発明(特許請求の範囲第1項)は、以下のように分説されます。

「a 容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定であるような、少なくとも二つの室と
 b 前記室内へ各組成成分を注入するために、前記各室の略頂部に各々各室毎に別個に設けられた開口部と
 c 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と
 d 前記室相互間を連通せしめるための連通手段よりなる、二以上の組成成分を定量比率にて混合することのできる容器」


つまり、大阪地裁(第二一民事部 裁判長裁判官 小松一雄、裁判官 阿多麻子、裁判官 前田郁勝)は、


『 一 争点1(イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属するか)について


  1 イ号物件の構成を本件発明の構成要件と対比すると、構成(ロ)が構成要件bに、構成(ハ)が構成要件cにそれぞれ一致していること、構成(イ)は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛一〜二・五リットルまでの範囲において、両室の横断面積比率が一定であるという限度で、構成要件aに合致し、構成(ニ)も、「室相互間を連通せしめるための連通手段より成る二つの組成成分を混合することのできる容器」という限度で、構成要件dに合致していることが認められる。


 しかしながら、イ号物件は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲(甲部分)においては、第一室Aと第二室Bの相互の横断面積比率が一定に保たれているものの、別紙イ号図面のとおり、第一室Aが目盛二・五ないし四・五リットルの範囲(乙部分)において、内側に凹型に陥没する形状を呈して段部を形成していることから、第一室Aの目盛が二・五リットルを越えた部分では、第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率が、第一室Aの目盛一ないし二・五リットルの範囲における第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率と比べて小さいことが認められる(検甲二。甲部分と乙部分における第一室Aと第二室Bの横断面積比率の差が無視し得るような微小のものともいえない。)。


 したがって、イ号物件は、構成要件aのうち「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定である」という部分を充足せず、その結果、構成(ニ)も、構成要件dのうち「定量比率」という部分を満たしていないといえる。被告らは、イ号物件の構造は単に甲部分に乙部分を付加したものにすぎないと主張するが、構成要件aは、二つの室の断面積比率が「実質上如何なるレベルにおいても一定である」ことを要するから、甲乙両部分を通じて第一室Aと第二室Bの横断面積比率が一定でなければならず、乙部分を単に甲部分の付加であるとみることはできない。


 よって、イ号物件は、本件発明の構成要件のうち、構成要件a及びdを充足していないというべきである。


  2 原告は、イ号物件に、文言上本件発明の構成要件と異なる部分があるとしても、イ号物件は、均等として本件発明の技術的範囲に属すると主張するので、以下、この点について検討する。


(一) 原告も主張するとおり、特許請求の範囲に記載された構成中に、対象製品等と異なる部分が存する場合でも、
(i)右部分が特許発明の本質的部分ではなく、
(ii)右部分を対象製品等におけるものと置換しても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであり、
(iii)右のように置き換えることに、当業者が対象製品等の製造時点において容易に想到することができ、
(iv)対象製品等が、特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、
(v)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。


 その際、右要件(i)にいう「特許発明の本質的部分」とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、当該特許発明特有の作用効果を生じさせるための特徴的部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。


(二) 本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄には、本件発明は、「2以上の組成成分を定量比率にて混合するための容器に関する」ものであり(本件公報2欄3〜4行)、発明の目的は、「従来ガソリンとオイル、薬品と希釈用水等、異なる液体等の組成成分を一定比率で混合するには、各々をメスシリンダ等により計量し、混合器内で撹拌混合する必要があり、その手数が煩雑で且つ計量器の携帯等が必要であった」ことから、「別個の計量器等を要することなく、液体、粉体、粒状体等の組成成分を定量比率にて混合することのできる小型の容器を提供すること」(本件公報2欄6〜14行)にあるとされている(甲一)。


 そして、右「発明の詳細な説明」の欄によれば、本件発明は、この発明の課題を解決する原理として、「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定であるような、少なくとも2つの室と 前記室内へ各組成成分を注入するために、前記各室の略頂部に各々各室毎に別個に設けられた開口部と 該開口部をそれぞれ密閉しうるように装着された蓋と 前記室相互間を連通せしめるための連通手段」(本件公報2欄15〜22行)とよりなる構成を採用したものと認められる。


 また、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄及び添付図面第1図ないし第5図には、本件発明の実施例として五種類の容器が示されているが、そのいずれについても、容器を通常の姿勢に置いた場合、容器内の各室相互間の各レベルにおける断面積比率を一定とするものであることが明らかである(甲一)。


 以上によれば、本件発明は、二つ以上の組成成分を計量器等で計量する手数を省き、簡易な手法によって各成分を一定比率で混合することを可能とする混合容器を提供するという発明の課題を解決するために、「容器を通常の姿勢に置いた場合、容器内に形成された二つ以上の各室について、その底部から上部までの各レベルの横断面積比率をすべて同一にする」という解決原理を採用したものと解されるから、本件発明の構成要件aの「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定である」という点は、本件発明の本質的部分に当たるものというべきである。


   (三) 前記1のとおり、イ号物件は、容器を通常の姿勢に置いた場合、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲(甲部分)においては、第一室Aと第二室Bの相互の横断面積比率が一定に保たれているが、第一室Aの目盛が二・五リットルを越えた部分(乙部分)では、第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率が、第一室Aの目盛一ないし二・五リットルの範囲における第一室Aの第二室Bに対する横断面積比率と比べて小さい点で、本件発明と異なっており、かかるイ号物件によって定量比率の混合液を得るためには、第一室Aと第二室Bに各々付された目盛に従って、あらかじめ所定の混合比率になるよう、各組成成分の分量を計量した後、各室相互間を連通せしめる連通部分を通して、二つの組成成分を混合する必要があると認められるから(甲二の1)、両者は技術的思想を異にするものといわざるを得ず、イ号物件と本件発明との相違部分である「第一室Aと第二室Bとの横断面積比率が、第一室Aの目盛が一ないし二・五リットルの範囲と、第一室Aの目盛が二・五ないし四・五リットルの範囲で異なる」点は、まさに、本件発明の本質的部分に関する相違点であるといわざるを得ない。


(三) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件は、本件発明と均等として、その技術的範囲に属するものとは認められない。


二 争点2(被告製品の販売は、不正競争防止法二条一項一号に該当するか)について


 不正競争防止法二条一項一号は、他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器もしくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。)として需要者間に広く知られているものと同一又は類似の商品等表示を使用して、その商品又は営業の出所について混同を生じさせる行為を規制するものであり、商品形態は、本来、商品の出所を示すものではないが、当該商品形態が他の同種商品と比較して特異ないし独特であり、形態が長期間独占的、排他的に利用されるか又は短期間でも強力に宣伝広告されたことなどにより、形態のもつ個別性が取引者又は需要者に認識され、その結果、特定の企業の商品の出所を示す表示として周知性を獲得するに至る場合があり得るものと解される。


 証拠(甲四、六)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発明の特許出願後、本件発明を商品化した原告商品を販売し、また他業者に通常実施権を与えて販売させていること、原告は、平成二年ころ、原告製品の類似品を販売した業者に対し、刑事告訴特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟等の対抗措置を採ったことが認められるが、右事実によっても、「容器内に二つの室を備え、その水平断面積比率が実質上全レベルにおいてほぼ一定であり、両室が連通手段により連通された形状の携帯混合容器」という本件発明を製品化した原告製品の形態が、需要者である一般消費者の間において、商品の出所を示すまでに広く認識されていることを認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。


 三 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<気になった記事>

●『「米国訴訟における電子情報開示(Eディスカバリ)への適切な対応と実例」 』http://www.ipnext.jp/event/houkoku/houkoku_detail080414.html
●『クリーンエネルギーの特許訴訟が増加傾向に(Cleantech Group)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3260
●『◆ 「模倣被害」製造、経由、販売とも中国が最多に(特許庁調査)』http://www.jcci.or.jp/cgi-news/jcci/news.pl?3+20080414110441
●『2007年度模倣被害調査報告書について』http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/puresu/puresu_jittai_2007.htm