●平成13(ネ)4931 民事訴訟「ダービースタリオン事件」東京高裁

 本日は、『平成13(ネ)4931 その他 民事訴訟ダービースタリオン事件」平成14年09月12日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/A730EBEA9CA60D6249256C7F0023A16E.pdf)について取り上げます。


 本件は、3/25の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20080325)で取り上げた『平成10(ワ)23824 その他 民事訴訟ダービースタリオン事件」平成13年08月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/70F743226AA77D4149256AEA001DE52B.pdf)の控訴審で、本件控訴が棄却された事案です。


 つまり、東京高裁(第6民事部 裁判長裁判官  山下和明、裁判官 設樂隆一、裁判官 阿部正幸)は、


『当裁判所は,控訴人らの請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきものである,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」(ただし,原判決12頁3行ないし10行を除く。)のとおりであるから,これを引用する。


1 著名人のパブリシティ権について


 自然人は,もともとその人格権に基づき,正当な理由なく,その氏名,肖像を第三者に使用されない権利を有すると解すべきであるから(商標法4条1項8号参照),著名人も,もともとその人格権に基づき,正当な理由なく,その氏名,肖像を第三者に使用されない権利を有するということができる。


 もっとも,著名人の氏名,肖像を商品の宣伝・広告に使用したり,商品そのものに付したりすることに,当該商品の宣伝・販売促進上の効果があることは,一般によく知られているところである。このような著名人の氏名,肖像は,当該著名人を象徴する個人識別情報として,それ自体が顧客吸引力を備えるものであり,一個の独立した経済的利益ないし価値を有するものである点において,一般人と異なるものである。


 自然人は,一般人であっても,上記のとおり,もともと,その人格権に基づき,正当な理由なく,その氏名,肖像を第三者に利用されない権利を有しているというべきなのであるから,一般人と異なり,その氏名,肖像から顧客吸引力が生じる著名人が,この氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利を有するのは,ある意味では,当然である。


 著名人のこの権利をとらえて,「パブリシティ権」と呼ぶことは可能であるものの,この権利は,もともと人格権に根ざすものというべきである。


 著名人も一般人も,上記のとおり,正当な理由なく,その氏名・肖像を第三者に使用されない権利を有する点において差異はないものの,著名人の場合は,社会的に著名な存在であるがゆえに,第三者がその氏名・肖像等を使用することができる正当な理由の内容及び範囲が一般人と異なってくるのは,当然である。


 すなわち,著名人の場合は,正当な報道目的等のために,その氏名,肖像を利用されることが通常人より広い範囲で許容されることになるのは,この一例である。


 しかし,著名人であっても,上述のとおり,正当な理由なく,その氏名・肖像を第三者により使用されない権利を有するのであり,第三者が,単に経済的利益等を得るために,顧客吸引力を有する著名人の氏名・肖像を無断で使用する行為については,これを正当理由に含める必要はないことが明らかであるから,このような行為は,前述のような,著名人が排他的に支配している,その氏名権・肖像権あるいはそこから生じる経済的利益ないし価値をいたずらに損なう行為として,この行為の中止を求めたり,あるいは,この行為によって被った損害について賠償を求めたりすることができるものと解すべきである。


2 競走馬のパブリシティ権について

 控訴人らは,その所有する本件各競走馬について,その馬名・形態等から想起される競走馬としての顧客吸引力を利用して,商品を製作し,あるいは,対価を得てその商品化を許諾するなど,経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利である,いわゆるパブリシティ権を専有するものである,このパブリシティ権の本質は,顧客吸引力にあるから,その権利が生じ得る場合を人に限定する必要はなく,競走馬という物であっても,顧客吸引力がある場合には,パブリシティ権が生じ得るものというべきである,このパブリシティ権は,所有権や人格権に基づくものではない,と主張する。


 しかし,著名人のパブリシティ権は,前述のとおり,もともと人格権に根ざすものと解すべきであるから,競走馬という物について,人格権に根ざすものとしての,氏名権,肖像権ないしはパブリシティ権を認めることができないことは明らかである。


 また,控訴人らが本件各競走馬について所有権を有し,所有権に基づき,これを直接的に支配している(民法206条)ということはできるものの,単に本件各競走馬の馬名・形態が顧客吸引力を有するという理由だけで,本件各競走馬の馬名,形態等について,その経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利であるパブリシティ権を有している,と認め得る実定法上の根拠はなく,控訴人らの主張を認めることはできない。


 顧客吸引力を有するものの保護一般については,商標法に基づく保護,不正競争防止法に基づく保護等が検討されるべきである。


 しかし,本件において控訴人らがしているパブリシティ権についての主張は,これらの法律に基づく保護を求めるものではなく,単に本件各競走馬の馬名が顧客吸引力を有するものであることのみを根拠として,各競走馬の所有者に,その馬名を使用する排他的権利を認めるべきである,とするものである。


 本件各競走馬の所有者に,物の直接的な支配権である所有権と離れて,このような権利を認めることが,現行法の解釈としてできるものではないことは,上述したところから明らかというべきである(仮に,社会情勢の変化等により,このような権利を認める必要が生じていると考える者があるとしても,権利として認めるべきか否か,認めるとしてどのような形で認めるべきかは,立法的手続の中で幅広く社会の意見を集約した上で,決するにふさわしい問題であるというべきである。)。


3 以上のとおりであるから,控訴人らの主張はいずれも理由がなく,控訴人らの本訴各請求を棄却した原判決は相当であり,本件各控訴は理由がない。そこで,本件各控訴を棄却することとして,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は本判決文を参照してください。