●平成19(ネ)10097 損害賠償請求控訴事件 意匠権 「やすり」

Nbenrishi2008-03-31

 本日は、『平成19(ネ)10097 損害賠償請求控訴事件 意匠権 民事訴訟「やすり」平成20年03月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080328131928.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠権の損害賠償請求控訴事件で、その控訴が棄却された事案です。


 つまり、知財高裁(裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大鷹一郎、裁判官 嶋末和秀)は、


『当裁判所も,被告意匠は本件登録意匠と類似せず,控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。

 その理由は,次のとおり,訂正付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1(原判決4頁15行目から8頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

 ・・・省略・・・

2 当審における控訴人の主張に対する判断

(1) 控訴人は,本件登録意匠のやすりの柄部の折曲げは,「やすり」という物品の性質,目的,用途,使用形態に照らして,被告商品の柄部の折曲げと共通の特徴を有し,本件登録意匠のように「へ」の字に折曲するか,被告商品(被告意匠)のように2点で折曲するかに形状の違い(原判決認定の相違点ク)はあるとしても,その違いは設計上の微差にすぎず,それのみをもって両意匠は類似しないと判断することは妥当でない旨主張する。


 しかし,控訴人の主張は,以下のとおり理由がない。


ア 本件登録意匠(甲1の2)と被告意匠(甲10)とを対比すると,前記引用に係る原判決認定のとおり,本件登録意匠のやすり部は,柄の前端部近くで折曲され,全体として平面視略「へ」字状を形成しているのに対し,被告意匠のやすり部は,柄の前端部近くと柄からやや離れた位置の2か所で折曲され,平面視略クランク状を呈する態様に形成されている点で差異(相違点ク)がある。


 そして,被加工物の表面を平らに削ったり,角落しなどに用いる工具である「やすり」において,需要者は,やすり部の形状に着目することに照らすならば,両意匠のやすり部の折曲部の上記構成態様は,需要者が最も注目を引く意匠の構成部分(要部)であるといえる。


 本件登録意匠において,全体として平面視略「へ」字状の折曲部を備えた構成態様は,創作的工夫がされた斬新な形態であり,需要者に対して視覚を通じて独自の美感を与える,本件登録意匠の特徴的部分であるといえる。これに対して,被告意匠において,折曲部の構成態様は,2か所で折曲され,平面視略クランク状の形態を有するものであり,本件登録意匠の上記特徴的部分を有しない点において大きく異なり,需要者の視覚を通じて与える美感(印象)も異なる。


 確かに,両意匠においては,基本的な構成態様における共通点(「ア全体がやすり部と柄からなる。」点及び「イやすり部について,正面視を略細長二等辺三角形状とし,柄の前端部近くで折曲され,やすり部が柄に対して傾斜して設けられている。」点),及び具体的態様における共通点(「ウやすり部の二等辺三角形状について,高さを底辺の略6倍としている。」点,「エやすり部の先端にわずかな丸みを持たせている。」点,「オやすり部の形状について,正面側を弧状曲面とし,背面側を平面としている。」点,「カやすり部と柄との間には歯付けのない部分が形成されている。」点,「キ柄については,後端部の幅を漸次狭くするとともに,後端部を略半円状に形成したものであり,やすり部からの延長部分を2枚の板状体で挟み,2か所でかしめ,後端部付近に貫通孔を形成した。」点)が存在するが,それらの共通点はいずれも,需要者に対して与える美感の点では,さほど強い印象を与える要素ということはできない。


 そうすると,両意匠は,最も強い印象を与える,相違点クによって,全体として類似しないというべきである。


イ 上記アの認定事実に照らすならば,両意匠のやすり部の折曲部の構成態様に係る相違点クは,設計上の微差にすぎないとの控訴人の主張は,採用することができない。また,相違点クに係る形状の相違のみをもって,被告意匠と本件登録意匠と類似しないと判断することは妥当でないとする控訴人の主張も採用することができない。


(2) 控訴人は,「やすり」の取引業者である被控訴人らが,控訴人の警告を受けて被告商品の販売を中止したことは,取引業者において,被告意匠と本件登録意匠が同一又は類似するとの理解があったことにほかならず,まして,一般の需要者であれば,両意匠の形状は同一であると解し,その違いに気づかないから,両意匠は類似する旨主張する。


 しかし,被控訴人らは本訴において両意匠が類似するとの控訴人の主張を一貫して争っていることに照らしても,被控訴人らが控訴人の警告を受けて被告商品の販売を中止した経緯があるからといって,取引者において,両意匠が類似するとの共通した理解があるということはできない。また,本件登録意匠(甲1の2)と被告意匠(甲10)とを対比すると,両意匠に相違点クがあり,両意匠の形状が異なることは一見して明らかであり,一般の需要者は,両意匠の形状の違いに気づかないとの控訴人の主張も採用することができない。


以上のとおり,被告意匠は本件登録意匠とは類似しない。


3 結論

 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。
よって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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