●平成19(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権「整畦機」

Nbenrishi2008-03-30

 本日は、『平成19(行ケ)10279 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「整畦機」平成20年03月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080328133720.pdf)について取り上げます。


 本件は、無効審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、無効理由であった特許法第29条の2の判断の点で参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大鷹一郎、裁判官 嶋末和秀)は、


『当裁判所は,以下のとおり,審決には,本件発明と先願発明とが実質的に同一であるとした判断の誤りがあり,原告主張の取消事由は理由があると判断する。

1 先願発明の構成に関する認定の誤りの有無

(1) まず,相違点に係る本件発明の構成が,先願明細書に記載,開示されているか否かの点について判断する。

ア 先願明細書の記載

(ア) 先願明細書(甲1)には,次のような記載がある。

 ・・・省略・・・

イ 記載内容の検討

(ア) 上記によれば,先願明細書には,以下の点が記載,開示されている。すなわち,
(i)特開平6−22604号公報(甲2)に記載された従来の整畦機(「畦塗り機」)は,「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状」の構成であるため,「畦の上部及び畦肩部を十分に締め固めることができず,畦肩部から畦が崩れ易く長期に耐える畦を畦塗り整畦する上で好ましくない,という問題」があったこと,


(ii)この問題を解決するため,先願明細書記載の整畦機においては,畦塗り体(「回転体」ないし「回転整畦体」)について,「前記旧畦の側部を下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体」と,「この側面修復体の縮径端部に連設されこの縮径端部から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦の上部を水平状面に修復する円錐形状の上面修復体」とを有する構成とし,畦塗り体の配置について,「側面修復体」により「前記旧畦の側部を傾斜面に修復可能」にかつ「上面修復体」により「前記旧畦の上部を水平状面に修復可能」になるように「前記畦塗り体を前記旧畦に対して所定の角度に傾斜して配設」する構成としたこと,


(iii) 先願明細書記載の整畦機は,畦塗り体の上記構成により,「旧畦は側部及び上部はもとより肩部を十分に締め固めて修復することができ,肩部から畦が崩れ難く旧畦を長期に耐え得る畦に確実に修復することができる畦塗り機を提供できる」効果を奏することが記載されていることが認められる。


(イ) しかし,先願明細書には,畦塗り体の駆動軸と畦塗り体を回転させる回転機構との配置構成について,特許請求の範囲に記載はない。 また,先願明細書には,実施例として(上記(ア)g),畦塗り体30を旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して配設するために,回転伝達機構(第2の伝動フレーム22内に設けられた第2の出力軸23,伝動ケース26内に設けられたスプロケット37,無端チェーン39及びスプロケット38)の下部に,畦塗り体30の回転軸31を連設(具体的には,伝動ケース26及びブラケット27により回転軸31を軸架して連設)した構成が記載されているが,同構成では,畦塗り体30の駆動軸である回転軸31の「上部に」,回転機構(回転伝達機構)が連設されており,相違点に係る本件発明の構成(「駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」構成)とは,配置構成が異なる。そして,先願明細書には,畦塗り体の駆動軸と回転機構との配置構成について,上記実施例記載の構成以外の記載はなく,他の構成を適用できることの明示の示唆もない。


(ウ) もっとも,先願明細書には,甲2(特開平6−22604号公報)記載の従来の整畦機として,「水平状の回転軸に畦上面を形成する円筒状の回転体並びにこの回転体の両端部に畦の内外側面を形成する円錐面を有する内側回転板及び外側回転板を固着する構成」及び「前記水平状の回転軸に外側回転板を省略して前記回転体及びこの回転体の内端部に固着した円錐面を有する内側回転板を固着する構成」が開示されている(上記(ア)c)。しかし,「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状」との構成は,【発明が解決しようとする課題】として言及されているにすぎず(上記(ア)d),先願明細書記載の整畦機が採用した構成と異なることは明らかである。また,上記構成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成のみを切り離して,先願明細書記載の整畦機において適用できることや,これを適用した場合の具体的配置構成についての記載は一切ない。


 そして,上記(イ)のとおり,先願明細書には,先願明細書記載の整畦機の実施例として,畦塗り体30の駆動軸である回転軸31の「上部に」,回転機構(回転伝達機構)が連設された構成以外の構成の記載がなく,他の構成が適用できることを明示的に示唆する記載もないことに照らすならば,先願明細書に接した当業者が,先願明細書記載の整畦機に,甲2記載の従来の整畦機の構成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成,ひいては,審決にいう「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成」が実質的に記載されていると理解すべき事情があるとはいえない。


(エ) これに対し被告は,特許請求の範囲には「両持状態」の構成の記載はないこと,「両持状態」の構成が示されているのは実施例にすぎないことから,相違点に係る本件発明の構成は,先願明細書に記載された事項から当業者が自明な事項として把握できる旨主張する。


 しかし,既に説示したとおり,先願明細書の記載からは,先願明細書記載の整畦機に「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成を備えるもの」が含まれるということはできないから,被告の主張を採用することができない。


ウ小括

 以上のとおりであって,先願明細書には,「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成を備える」整畦機の発明が記載されているので,相違点に係る本件発明の構成も記載されていることは自明であるとした審決の認定は誤りである。


(2) 本件発明の作用効果に関する認定の誤りの有無


ア 前記(1)のとおり,先願明細書に相違点に係る本件発明の構成が記載されていることは自明であるとはいえない。


 また,本件明細書(甲4)の段落【0021】,【0033】等の記載に照らすならば,本件発明は,相違点に係る本件発明の構成を採用することにより,「回転整畦体の垂直方向の高さを低くすることができてそれだけ装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる」との作用効果を奏することが認められ,この点は先願明細書に記載のない作用効果である。

イしたがって,本件発明の作用効果が,「先願明細書に記載された事項から当業者が(自明な事項として)把握できる」との審決の認定は誤りである。

2 結論

 以上のとおり,本件発明は先願発明と実質的に同一であるとした審決の判断は誤りであり,これと同旨の原告主張の取消事由は理由がある。よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。