●平成19(行ケ)10358審決取消請求事件 特許権「貫流容積測定装置」

Nbenrishi2008-03-29

 今日は、上野公園や隅田川に花見に行ってきました。少し風はありましたが、絶好の花見日和でしたね!


さて、本日は、『平成19(行ケ)10358 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟貫流容積測定装置」平成20年03月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080328132648.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、無効審決において特許法29条1項3号の無効理由のために引用した証拠(パンフレット)が本件特許の優先日より前に頒布された事実の認定を、別件判決の判決書の理由中の記載事項のみをもって認定等した点で、違法であると判断されています。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大鷹一郎、裁判官 嶋末和秀)は、


1 取消事由1(本件刊行物の頒布時期の認定の誤り)について

(1) 審決の事実認定の当否

ア 事実認定の内容

(ア) 審決は,別件判決の判決書(甲8)のみを根拠に挙げて,本件刊行物(甲7)が本件特許の優先日前に頒布されたものであるとの事実認定をし,本件発明は,本件刊行物に記載された発明と同一であると判断した。


 すなわち,審決は,別件判決の判決書の理由の記載部分〔「第4当裁判所の判断」,「1 争点1(2)」,「(1) 本件パンフレットの記載について」及び「(2) 本件パンフレットの配布について」欄の記載(審決書7頁28行〜10頁18行)〕を根拠として,(i) 本件刊行物(甲7)は,別件判決に言及されている「本件パンフレット」と同一の内容が記載されたパンフレットであると推認することが可能である(同10頁28行〜11頁2行),(ii) 別件判決は,和解によって終局したため確定してはいないが,別件判決において,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の平成5年7月ころまでには,既に公知であったと認定した点について,これを否定する証拠は現在に至るまでどこにも示されてはいない(同10頁28行〜11頁2行),(iii) したがって,本件刊行物は,「本件パンフレット」によって,本件特許の優先日前に頒布されたことが認められる(同11頁10行〜11行)旨認定,判断した。なお,審決は,別件判決の判決書以外の証拠は何ら摘示していない。


(イ) 甲8(別件判決の判決書)によれば,別件判決は,別件訴訟で証拠調べのされた書証(別件訴訟乙19,20,30,31等)及び人証(証人【C】,証人【D】)と弁論の全趣旨を基礎として,「原告は,平成5年7月ころまでには,本件パンフレットを取引先等に配布したものと認められる。」(審決書10頁13行〜14行)と認定したことが認められる。

イ 事実認定の当否

 上記を前提に,審決のした事実認定の当否について判断する。


(ア) 本件審判における立証の対象となる事実は,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布されたか否か,本件刊行物の記載内容がどのようなものであったか,そして,本件発明が特許法29条1項3号に該当するか否か等である。


 本件審判において,上記の立証対象事実が存在するとの認定をするためには,少なくとも直接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料又は間接的な事実を合理的に認定するに足りる証拠資料を取り調べた上,審判体自ら,各証拠の信用性を総合的な観点から,吟味検討し,あるいは取捨選択して,立証対象事実の存否に関する心証を形成することを要するというべきであって,そのような審理ないし検討を一切することなく,他者の認定判断に依拠して,事実が存在すると認定することは合理性を欠く。


 これを本件についてみると,本件刊行物が,本件特許の優先日である平成5年9月1日より前に頒布された事実が存在すると認定するためには,少なくとも,別件判決が認定の基礎とした書証や人証を自ら取り調べるか,そのような証拠を取り調べることができない場合には,代替的な証拠を取り調べる必要があるというべきである。


 しかし,本件審判手続において,審判体が,当事者から上記書証や上記人証に係る証人尋問調書の提出を受け,又はこれらを取り寄せるなどして上記検討をした形跡は一切認められない。


(イ) そして,審決は,別件判決の判決書の理由中の記載事項のみをもって,「原告は,平成5年7月ころまでには,本件パンフレットを取引先等に配布した」との事実を認定したものであり,このような事実認定には合理性がなく,到底是認されるものでない。


(ウ) 以上のとおり,審決が,「本件パンフレット」が本件特許の優先日である平成5年9月1日より前の「平成5年7月ころまでには」すでに公知であったとし,「本件パンフレット」と同一内容が記載された本件刊行物が,本件特許の優先日前に頒布されたものと認定したことには,誤りがある。


(2) 被告の主張に対する判断


 被告は,(i)審決は,別件判決の判決書の認定を信用力あるものとして,積極的に本件刊行物の頒布時期の認定判断の根拠として採用したものであり,また,上記判決書の認定は,きめ細かく,説得力のあるものであるから,審決が上記判決書の認定を根拠としたことに何ら不合理な点はない,(ii)別件判決は,確定していないが,事実認定の専門家である3人の裁判官によって証人尋問等を経て認定判断されたものであるから,それ自体十分な証明力があり,一般の書証に比較して証明力は高いなどと主張する。


 しかし,上記(1)イ記載のとおり,本件発明が特許法29条1項3号に該当する事実の存否について,少なくとも,別件訴訟で取り調べられたのと同様の書証,人証を取り調べた上で,それらの証拠の信用性について総合的に検討することを要するというべきであるが,本件審判手続において,その検討はされていない(なお,別件訴訟の終了後に受訴裁判所に保管された書証の写し,証人尋問調書等の訴訟記録は,保存期間経過のため,既に廃棄されている。)。


 また,原告は,別件判決を不服として控訴し,別件判決のした「本件パンフレット」の頒布時期の事実認定を争っていたこと,別件訴訟は,原告が東京フローメータ研究所に対して提起した本件特許権の侵害に基づく差止め及び損害賠償請求訴訟であり(前記第2の1(2)),別件訴訟と本件審判とは,当事者が異なること,別件判決は確定していないこと等に照らすならば,別件判決の何らかの効力が本件審判の当事者に及ぶこともない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


(3) 小括


 以上によれば,審決における本件刊行物の頒布時期の認定の誤りをいう原告主張の取消事由1は理由がある。


2 結論


 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。


 よって,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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