●平成19(行ケ)10243 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「AJ」

 本日は、『平成19(行ケ)10243 審決取消請求事件 商標権「AJ」平成20年03月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080327155703.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、審決書には本願商標が法3条1項5号に該当するとの理由は記載されており、その判断内容にも誤りはないものの、本願商標には自他商品識別機能がなく法3条2項に該当しないとの理由は実質的に記載されていないものと判断され、審決は理由不備の違法があるものと判断し、その上で審理促進の観点から、原告主張に係る取消事由1についての判断をあらかじめ示しました。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 三村量一、裁判官 上田洋幸)は、


1 審決の理由不備の有無について

 当裁判所は,審決書には,本願商標が法3条1項5号に該当するとの理由は記載されているが(その判断内容にも誤りはないものと解する。),本願商標に自他商品識別機能がなく法3条2項に該当しないとの理由は,実質的に記載されていないものと判断する。したがって,審決は,理由不備の違法があるものとして,取り消されるべきものと解する(原告は,「AJ」の文字が「ARMANI JEANS」の欧文字とは別に,シャツ及びマフラーに大きく単独で表示されているものがあるにもかかわらず,審決においてそれらを看過している旨主張しているが,それは審決における法3条2項の判断に関する理由不備をも指摘するものと理解される。)。


 その理由は,以下のとおりである。


(1) 審判手続は,特許,商標等のそれぞれの専門知識を有する複数の審判官が,特許法等が規定する特定の事件について,裁判手続に準じた厳格な手続よって審理を行い,判断をするものであって,いわゆる準司法手続の一つである。審判体において審判手続を経て得られた最終判断は,審決として示される。審決は,行政処分として対世的な効力を有すると同時に,高等裁判所の判決等によらなければ取り消されることがないという点で判決類似の効力を有する。審決は,このような点に鑑み,文書によって「結論」を記載することが求められている外,結論に至る判断の論理過程を「理由」として記載すると定められている。また,審決に対する訴えは,地方裁判所の審級が省略され,知的財産高等裁判所が第一審としての管轄を有するという特別な手続的観点からの手当がされている(特許法157条2項,商標法56条,63条)。上記のような審判の手続及び効力における性質に照らすならば,審決に記載すべき理由は,(i)当該事件の適用に関係する法律の根拠及びその解釈,(ii)当事者が提出し,又は職権で調査した証拠に基づいて認定した事実,(iii)認定した事実を法律に適用した場合の論理過程及び判断結果等を過不足なく記載することが不可欠である。


(2) 上記の観点から,本件審決の実質的な「理由」記載の有無について検討する。


ア 審決には,以下のとおり理由が付されている。

「                     理 由
1 本願商標
本願商標は,「AJ」の欧文字を別掲のとおりに書してなり,第25類「Clothing,footwear,headgear」を指定商品とし,2004年(平成16年)10月25日を事後指定の日とするものである。

2 原査定の拒絶理由

 本願商標は,本願指定商品の分野においては,商品の規格や,製造表示等を表すものとして類型的に使用されている欧文字二文字の「AJ」を,普通に用いられる方法で書してなるにすぎないものであるから,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標と認める。したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第5号に該当する。

3 当審の判断

 本願商標は,前記のとおり,黒塗り長方形の中に,「AJ」の欧文字を白抜きにし,別掲のとおりの構成で書してなるものである。そして,欧文字二文字は,商品の品番,型式を表示するための記号,符号として,取引上普通一般に使用されているものであって,長方形は,ありふれた形状であることから,本願商標のかかる構成は,簡単,かつ,ありふれた商標というのが相当である。


 本願指定商品との関係において欧文字二文字は,例えば,衣料品について,女性向け商品のサイズ(体型)等を表すものとして,「AR」や,男性向け商品のサイズ(体型)等を表すものとして,「YA」「AB」や「BE」等と表示しているものが見受けられる。


 また,靴のサイズを表すものとして,「EE」等もあり,これらによれば,本願指定商品との関係において欧文字二文字は,商品の品番,型式等を表示する一類型として使用され,かつ,取引者,需要者に認識されているものである。


 したがって,本願商標は,簡単,かつ,ありふれた標章のみからなる商標であり,自他商品の識別標識としての機能を有しないものであるから,商標法第3条第1項第5号に該当するとして拒絶した原査定は妥当であって,取り消すことはできない。


 なお,請求人は,世界的に著名なイタリアのデザイナー「GIORGIO ARMANI」(ジョルジオアルマーニ)の設立した会社で,「ARMANI」の著名性について述べ,「AJ」は,「アルマーニジーンズ」を示すものとして,自他商品識別機能を有している旨,主張している。


 しかしながら,本願商標については,前記のとおり判断するのが相当であって,かつ,請求人提出にかかる甲第39号証ないし同第41号証及び同第43号証によれば,本願商標の「AJ」の欧文字は,「ARMANI JEANS」の欧文字とともに使用されているものであり,これらを本願商標の使用ということはできず,他に本願商標の使用を示す証拠を見いだすことはできない。

 よって,結論のとおり審決する。  」


イ 審決には,以下の点で理由不備があるというべきである。

(ア) すなわち,審判手続において提出された証拠に照らすならば,本件における主要な争点は,本願商標の法3条2項の該当性の有無であると理解できる。このような場合,審判体としては,審判手続の中で,当該争点に着目した審理(適切に釈明権を行使することを含む。)を行うべきであって,審決書に,理由及び結論を記載するに当たっても,(i)法3条2項所定の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができる」との条文の文言についての審判体の解釈,(ii)証拠によって認定された事実の経緯,(iii)法律に認定事実を適用した場合に得られる結論に至るまでの論理過程を示すことが必要であるといえる。


(イ) 法が,同条2項所定の場合に登録をすることができるとした趣旨は,(i)当該商標が,本来であれば,自他商品の識別力を持たないとされる標章であっても,特定人が当該商標をその業務に係る商品に使用した結果,当該商標から,商品の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に,広く知られるに至った場合には,登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること,(ii)当該商標の使用によって,商品の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者等に,当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。


 したがって,本願商標について自他商品の識別力を有するに至ったか否かを検討するに当たって,使用に係る商標及び商品の性質・態様,本願商標との類否,使用した期間・地域,当該商品の販売数量・程度,宣伝広告の程度・方法などの諸事情を総合考慮して判断すべきことは不可欠であるといえる。


(ウ) 「AJ」の使用例に関しては,具体的使用態様の詳細はさておき,少なくとも,審判手続(甲55以降は当審において提出)において,証拠が提出されている。すなわち,甲20(ベルトに,黒色又は白色の「AJ」の文字が付されている例),甲21(シャツに,黒色の「AJ」の文字が付されている例),・・・に関する証拠が提出されている。


 しかし,審決書には,「AJ」が「ARMANI JEANS」の欧文字と共に使用されている点を形式的に挙げて,本願商標の使用に当たらないとしているのみで,「AJ」が使用されている商品等に関する証拠の評価,具体的な使用状況等に関する事実認定,法律を事実に適用した判断過程は何ら記載されておらず,本件の審判手続において,法3条2項に着目した審理を実施した形跡もない。


(エ) したがって,審決には,法3条2項に該当するか否かという重要な争点についての実質的な理由が付されていないから,その余の点を判断するまでもなく,理由不備(商標法56条,特許法157条2項)の違法があるというべきである。


2 法3条1項5号の該当性についての補足的判断


 上記のとおり,審決には理由不備の違法がある。したがって,再開される審判手続において,本願商標の法3条1項5号及び2項の該当性について審理を行うことになるが,審理促進の観点から,原告主張に係る取消事由1についての判断を,あらかじめ示すこととする。


(1) 本願商標は,黒色横長方形内に「AJ」の欧文字を白抜きに表記したものであり,このうち白抜き部分である「AJ」は,欧文字の「A」と「J」の文字の組合せたものである。各文字は,「モダンローマン」字体で記載され,デザイン性は優れているものの,格別特徴のある字体ではなく,また,特別の図形的な特徴を連想するものとはいえない(乙5の1,2)。黒色長方形内に白抜きで文字を配置する構成についても,商品の品番等の表示において長方形内に白抜き文字とする事例があることに照らすならば,さほど特徴のある構成ということはできない(乙2の1,乙7の1ないし7,乙8)。


 そうすると,本願商標は,商標法3条1項5号の「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当するとした審決の認定に誤りはない。


(2) この点について,原告は,デザイナーの名称のイニシャルの欧文字2文字が商標登録されている例(甲17ないし19)があると主張する。しかし,原告の指摘する商標は,合衆国の国旗を連想するデザインと組み合わせた例(甲17),欧文字のデザインに特徴のある例(甲18),2文字を大きさを変化させた例(甲19)であって,いずれも,本願商標とは基本的構成を異にするもので,本願商標についての前記認定判断を左右するとはいえない。


 また,原告は,欧文字2文字で商標登録された例(甲148,149)を挙げるが,甲148に係る商標の構成は「PS」及び「ピーエス」の文字を二段に書してなるものであり,欧文字2文字のみではなく,また,甲149に係る商標については「FF」の2文字であるが,その自他商品の識別力は,その使用態様等によって異なるものであるから,この登録例をもって,本願商標についての前記認定判断を左右するものとはいえない。


3 結論

 以上のとおりであり,審決には,本願商標が法3条2項に該当するか否かについて,理由不備の違法があるから,これを取り消すこととし,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 なお、以前、確か2回ほど、知財高裁の判決文に「付言」が付され、審決の審理に不十分な点があると指摘されたことがあったように覚えています。


 追伸;<気になった記事>

●『Rambus、DRAM特許訴訟で白星』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/27/news038.html
●『ラムバス、メモリーチップ技術めぐる特許訴訟に勝利』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCBR2180.html
●『ラムバス、有利な陪審評決を勝ち取る--メモリ特許訴訟』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20370239,00.htm
●『米ラムバス、特許をめぐる訴訟で有利な評決』http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-31017920080327
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