●平成19(行ケ)10159 審決取消請求事件「プラズマ処理装置及びプラ

 本日は、『平成19(行ケ)10159 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法」平成20年03月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080326111316.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、拒絶査定時に新規事項追加(特許法第17条の2第3項)違反の拒絶理由を解消するため、拒絶査定に対する審判請求をするとともに、その新規事項の追加部分を削除する補正をしましたが、かかる補正は特許法第17条の2第4項各号のいずれにも該当しないとして補正を却下し(特許法第53条)、拒絶をした特許庁の審決を支持した点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 古閑裕二、裁判官 浅井憲)は、


1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)について

 原告は,特許請求の範囲における新規事項の追加状態を解消する補正は,記載不備状態を解消するためのもので,第三者に不測の不利益を与えることもないから,特許請求の範囲の不明りょうな記載を明りょうな記載にする補正として取り扱うべきであり,本件補正は「明りょうでない記載の釈明」を目的とした補正に該当し,補正の要件を満たすものであると主張する。


(1) 拒絶査定(甲第11号証)には,次の記載がある。

 この出願については,平成16年5月14日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をすべきものである。


 なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。

                   備 考
・理由2
・請求項1−16
出願人は意見書で,拒絶理由通知で提示した特開平03−079025号公報(以下,引用例1という)には,「ガス噴射孔と前記被処理体との間の垂直方向の距離が65mm以上に設定されていること」は,何ら記載がないから,引用例1から容易に発明できない旨主張している。


 しかしながら,被処理体の周縁部からガス噴射孔までの垂直方向の距離を最適な数値とすることは,当業者の通常の創作能力の発揮であると認められるから,当該距離の数値限定に格別の困難性を認めることができない。

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 現時点において,以下の拒絶の理由が存在する。

特許法第17条の2第3項の違反
・請求項1−16

 平成16年7月26日付けの手続補正によって,請求項1−16及び【0011】,【0012】,【0062】に「ガス噴射孔と前記処理体との間の垂直方向の距離が65mm以上に設定されている」点を,また,【0013】に「前記ガス噴射孔の先端と前記処理体のエッジとの間の水平方向の距離は,膜厚の面内均一性を5%以下にするために0〜70mmの範囲内に設定される」ことを付加している。しかし,上記事項は,膜厚の面内均一性の上限値を5%以下とするという出願当初明細書に記載のない,新たな発明を記載したものである。つまり,出願当初明細書の何れの記載を検討しても,膜厚の面内均一性の上限値を5%という数値で区切るという記載も示唆もない。


 よって,上記補正によって付加された事項は,出願当初明細書の記載の範囲内において行われた事項とは認められない。


 上記の記載によれば,拒絶査定をした審査官は,前回補正の内容を検討したが,進歩性を有しないという先に通知した拒絶理由は覆らないという理由で,拒絶査定をしたことが明らかである。そして,拒絶査定の上記横線以下の記載(以下「付言」という。)は,前回補正により付加された事項は,出願当初明細書に記載された事項の範囲内においてされたものではなく,特許法17条の2第3項の規定に反することを指摘しているものと解される。


(2) 原告は,上記の付言を審査官による補正の示唆と解し,本件補正をしたと主張しているが,拒絶査定の理由は,付言より前に記載された部分であることは明らかであり,付言は,出願人が分割出願をする場合を考慮して,記載されたものと解される。すなわち,付言は,拒絶査定の理由を解消しても,なお付言に記載した拒絶理由があることを指摘したものである。したがって,これと異なる理解に立って審決の判断を非難する原告の主張を採用することはできない。


 原告は,審査官が前置報告書において,本件補正が請求の範囲の拡張であると述べていないと主張するが,前置報告書(甲第14号証)には,請求項3については,特許法17条の2第3項の規定に反することが指摘されている(前置報告書3頁)から,原告の上記主張は,失当である。


(3) さらに,原告は,新規事項の追加状態を解消する補正は,記載不備状態を解消するためのものであり,第三者に不測の不利益を与えることもないから,特許請求の範囲の不明りょうな記載を明りょうな記載に補正するものとして取り扱うべきであると主張する。


 しかし,特許法17条の2第4項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しているから,「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正は,法律上,審査官が拒絶理由中で特許請求の範囲が明りょうでない旨を指摘した事項について,その記載を明りょうにする補正を行う場合に限られており,原告の主張する「新規事項の追加状態を解消する」目的の補正が特許法17条の2第4項4号に該当する余地はない。


(4) 本件補正は,補正前の請求項3の「前記ガス噴射孔の先端と前記被処理体のエッジとの間の水平方向の距離は,膜厚の面内均一性を5%以下にするために0〜70mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。」を「前記ガス噴出孔の先端と前記被処理体のエッジとの間の水平方向の距離は,0〜70mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。」に変更するものである。


 本件補正は,補正前の請求項3から,発明の内容を規定する「膜厚の面内均一性を5%以下にするために」という文言を削除するものであるから,「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」補正に該当しないことは明らかであり,特許法17条の2第4項2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当しない。


(5) 以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第4項各号のいずれにも当たらないから,同項の規定に違反するものとして却下されるべきであるとした審決の判断に誤りはない。  』

 と判示されました。


 確かに今回の知財高裁の判断は、法律的には間違っていませんが、補正が新規事項の追加違反のまま拒絶査定になった場合に、審判請求時に新規事項追加違反の部分を削除する補正は、原則として特許請求の範囲の拡大になり認められないとすると、分割出願するしかなくなります。これは、以前、本日記でも取り上げた、最初の拒絶理由通知時に新規事項追加の補正をして最後の拒絶理由を受けた場合、その新規事項の追加部分を削除できなくなる場合と同様です。


 でも、新規事項の追加補正が却下されて拒絶査定になった場合には、その新事項追加補正前の新規事項部分がない請求項を基準に補正できたり、さらには審判請求後に最後でない拒絶理由をもらった場合、17条の2第4項各号の目的の制限がない状態で補正が可能であり、かかる場合を考えると、今回の事例のような場合でも、分割出願しないで救えないものかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸;<気になった記事>

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●『弁理士会と東大、専門職育成へ知財プログラムの開発に着手(日刊工業新聞)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=3109
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