●平成18(行ケ)10448 審決取消請求事件「エアーフィルター用不織布

 本日は、『平成18(行ケ)10448 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「エアーフィルター用不織布およびそれを用いてなるエアーフィルター装置」平成20年03月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080310113528.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、訂正後の発明の特許法第36条第6項1号のサポート要件違反の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一、裁判官 宍戸充、裁判官 柴田義明)は、


『1 取消事由1(Ra値の測定方法等についての認定判断の誤り)について

(1) 審決は,本件訂正明細書の記載からは,JIS B0601規格を参照しても,算術平均粗さ(Ra)をどのように求めるかが十分に把握できず,2.5mmのカットオフ値,評価長さ8mmで測定することが,圧着部面積が,0.5〜1.5mm で,その個数が25〜35個/cm の範囲内すべての不織布に対して適切2 2であるとはいえないとした(前記第2の3(2)カ)のに対し,原告は,その判断を争う。


 ・・・省略・・・


(8) 原告は,エアーフィルターとして用いられる際に受ける粉塵や金網との擦過による毛羽立ちは,圧着部以外の部分すなわち圧着部の間にわたって存在するフィラメント(圧着部以外の平坦な部分に存在するフィラメント)が切断されて起こり,くぼみの深さが大きい不織布は,熱圧着部の間にわたって存在するフィラメントの長さが長いので,切断されやすくなって,毛羽立ちが発生しやすくなり,本件訂正発明1は,Ra値を60μm以下とすることによって,この毛羽立ちを抑制し得たものである旨主張する。


 しかし,熱圧着部の間のフィラメントの長さは,圧着部面積,個数,配列によりまず規定されるところ,本件訂正発明1は,圧着部面積,個数ともに幅を有し,その配列も定まらないもので,本件訂正発明1がフィラメントの長さを規定するものとは解されないし,また,原告の主張は,Ra値が大きいものは,くぼみが深いため,熱圧着部の間のフィラメントの長さが長いことを前提とするものと解されるが,本件訂正発明1において規定されている条件に照らせば,圧着部のくぼみの深さの違いは,圧着部間のフィラメントの長さの違いにわずかな差を与えるだけであり,本件訂正発明1では,圧着部面積,個数ともに幅を有し,その配列も定まらないものであることも考えると,その深さの違いにより,毛羽立ちの効果が原告が主張するように異なると直ちに認めることはできない。


 そして,エアーフィルター用不織布において,一般に毛羽立ちの発生やその程度は,融着の程度に大きく左右されることが技術常識であり,乙1実験や甲12実験においても,Ra値の変化ではなく,融着の程度に影響を与える他の条件が毛羽立ちの特性に影響を与えることが示唆されているともいえる。


(9) 以上によれば,本件訂正発明1は,Ra値が60μm以下であることを特徴とする不織布の発明であって,明細書の発明の詳細な説明には,不織布の融着部のくぼみの深さとフィルター機材の毛羽立ちとが関係が深く,さらに,くぼみの平均深さが,一定の条件で測定されるRa値と密接に関係し,Ra値を60μmとすることで,従来の不織布に比べ大幅にフィルター機材の毛羽立ちを抑制し,逆にRa値が60μmを超すと,フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき,エアーフィルターとして適さなくなることを見出してされたものと記載されている。


 しかし,乙1実験及び甲12実験の結果によれば,上記の明細書に記載された関係を認めることができず,また,不織布のRa値が60μm以下であり,本件訂正発明1に含まれるものであっても,毛羽立ちの特性が悪いものがあり,さらに,技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の内容を,特許請求の範囲に記載された範囲について,一般化することができない。


 そうすると,本件訂正発明1は,特許法36条6項1号の要件を満たさないものということができ,このことをいう審決に誤りはない。


(10) 原告は,甲31実験及び甲32実験の結果を提出するが,一定の条件下において明細書の発明の詳細な説明に記載されているのと同様の効果を奏しているとしても,それを直ちに,特許請求の範囲に記載されている発明に一般化することはできず,本件については,技術常識や原告が主張する本件訂正発明1の効果が生ずる原理によっては,上記の一般化をすることはできない。


 また,発明の詳細な説明とは異なる結果を示す乙1実験及び甲12実験について,原告は実験として不適切である旨主張するのであるが,上記(6)及び(7)のとおり,これらの実験が発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲に記載されている発明に一般化することはできないことを指摘する実験として不適切であるとは認められず,原告の主張は,採用できない。


3 以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がないから,原告の請求は棄却を免れない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。