●平成19(ワ)12522 職務発明の対価請求事件 特許権(2)

 本日も、昨日に続いて『平成19(ワ)12522 職務発明の対価請求事件 特許権 民事訴訟 平成20年02月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080310141925.pdf)について取り上げます。


 本件では、さらに、本件特許報奨取扱い規則についても判断しているので、本日はそれについて取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第47部 阿部正幸裁判長裁判官、平田直人裁判官、柵木澄子裁判官)は、


3 本件特許報奨取扱い規則について

(1) 原告は,本件特許報奨取扱い規則は実績補償について支払時期を定めた規定であり,原告が相当の対価請求権を行使する上で法律上の障害となっている旨主張する。


 前記当事者間に争いのない事実等に記載のとおり,原告は,平成8年3月31日に,被告を退職し,さらに,平成9年6月27日に,被告の理事を退任した者である。他方,本件特許報奨取扱い規則は,平成13年に制定され,同年11月21日から施行されたものである(甲9,乙7)。


 上記事実に照らせば,仮に,本件特許報奨取扱い規則中に,実績補償について支払時期を定める規定が含まれていると解し得るとしても,同規則が制定・施行されたのは,既に原告が被告を退社し,あるいは,遅くとも,被告の理事を退任した後のことであるから,少なくとも,同規則中の支払時期の定めが原告に適用されることはないものと解される。


 すなわち,本件発明等取扱規則によれば,本件発明1及び同2についての実績補償の支払時期は,特許発明等の実施開始時又は特許権の設定登録時のいずれか遅い時点であるとされていると解すべきことは既に説示したとおりであり,原告の主張によれば,その支払時期が本件特許報奨取扱い規則によって,後の時期に延長されることになる。このような支払時期の延長は,消滅時効の起算点を遅らせるという点では従業者等に有利である反面,従前の規定では行使が可能であった従業者等の権利について,使用者等に期限の利益を与えるものである点においては従業者等に不利な定めであり,当該従業者が退職した後に使用者が一方的に上記のような定めを設けたからといって,使用者が,従前の規定によれば,既に期限が到来している対価請求権を行使してきた退職者に対し,期限の利益を主張して支払を拒み得ると解することができないことは明らかである。このような定めが従業者と使用者との法律関係の内容となるものと解することはできない。


 なお,原告は,被告が本件特許報奨取扱い規則の施行前に退職した者に対しても,同規則に基づく報奨金を支払った例があることを,原告に対して同規則が適用されることの根拠として挙げる。


 しかしながら,被告による上記支払は,本件特許報奨取扱い規則に基づく報奨金の性質によっては,その支払を受けた元従業員との間で,時効の中断事由,あるいは,信義則上,消滅時効の援用権を喪失する事由となり得るものであることは格別,原告と被告との間で,本件特許報奨取扱い規則中の支払時期の定めが原告に適用されることの根拠となるものではない。


(2) 仮に,本件特許報奨取扱い規則が実績補償を定めた規定であると解し,かつ,本件特許1及び同2が同規則に基づく報奨の候補となる特許に該当し得るとしても,前記当事者間に争いのない事実等によれば,同規則は,「特許選定基準」を満たす特許について必ず報奨金を支払うことを内容とするものではなく,当該特許の「対象事業」の所管部門が,当該特許の「対象発明者」について報奨の申請をした場合に(なお,同規則において,上記所管部門は必ず報奨の申請をしなければならないと規定されてはおらず,「報奨の申請を毎年10月1日付にて行うことができる。」と規定されている(第3条1項)。),社内選考委員会と社外選考委員会とから成る選考委員会における審査を経て,その判断により報奨金が支払われるか否かが決定されることなどを内容とするものであるから(第5条1項ないし3項),被告が本件特許報奨取扱い規則を制定・施行したことをもって,被告において,既に支払時期が到来し,消滅時効の進行が開始していた本件発明に係る相当の対価の支払債務を承認したものである(時効中断事由に当たる,あるいは,信義則上,消滅時効の援用権を喪失する事由に当たる)ということはできない。


4 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。