●平成19(ネ)10073 著作権侵害差止等請求控訴事件(2)

 3/5(水)は、午後から虎ノ門パストラルで開催されたAIPPIの国際シンポジウム「特許制度の国際調和 ―迅速な権利付与に向けた国際協力― 」を聴講してきました。


 米国への出願が急増し年間40万件超えていることや、出願様式の統一が日本においては2009年1月の実行を目指して準備されていること、日米の特許審査ハイウエイの利用が500件を超えたこと、修正実体審査制度など、色々な情報が得られました。とても勉強になりました。


 さて、本日も、昨日に続き、『平成19(ネ)10073 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟チャップリン格安DVD販売差止め」平成20年02月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080304135652.pdf)について取り上げます。


 本日は、被控訴人の損害の不存在等の判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 宍戸充、裁判官 柴田義明、裁判官 澁谷勝海)は、


3 被控訴人の損害の不存在等について


(1)被控訴人の被った損害及び損害額に関する当裁判所の認定判断は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する当裁判所の判断」の「3 争点2(原告の損害の有無及びその額)について」のとおりであるから,これを引用する。


(2) 控訴人らは,本件では著作権の存続期間満了後のパブリックドメインとなった映画の販売等であるから,損害賠償は発生しない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,本件9作品の存続期間はいまだ満了していないから,控訴人らの上記主張は,その前提を欠くものである。


(3) 控訴人らは,同人らの判断が原判決の解釈と異なるからといって,直ちに控訴人らに映画の著作権の所在を判断する点に注意義務違反(予見可能性,回避可能性はない)があるとするのは余りにも不可能を強いることになり,不合理かつ酷である旨主張する。


ア 証拠(甲17の1,2,甲18,甲19の1〜3,甲20の1,2,甲21,甲22の1,2,甲32の1,2)によれば,次の事実が認められる。


(ア) 被控訴人代理人らは,平成16年8月31日,控訴人アートステーション他1名あてに,同人らが発売しようとしているDVDに収録された本件9作品を含む19の映画について,被控訴人が著作権保有しており,控訴人アートステーション他1名の行為は違法であるとし,併せて,当該映画の著作権の存続期間がいまだ満了していない理由も付け加えて,上記映画の利用行為を中止するように求める警告書を発送し,これが同年9月1日控訴人アートステーションに配達された。


(イ) これに対して,控訴人アートステーションは,被控訴人が著作権保有していることを明らかにする資料の提出を求めるとともに,控訴人アートステーションとしては,当該映画の著作権はその存続期間を満了していると解釈している旨の通知書を送付した。


(ウ) その後,上記被控訴人代理人らは,控訴人アートステーションあてに,同年9月14日配達の内容証明郵便で再警告書を送付するとともに,これに前後して,被控訴人が本件9作品を含む映画の著作権保有していることを証明する譲渡証書の写しを送付したところ,控訴人アートステーションは,当該映画の著作権については,「一応,当社としては,Roy Export Company Establishment が,現時点におけるチャップリン映画の著作権保有者ということで,対応させていただきます。」と述べつつ,当該映画の著作権はその存続期間を満了していると解釈している旨の再通知書を送付した。


(エ) さらに,上記被控訴人代理人らは,同月25日配達の控訴人アートステーションあての書留・配達記録郵便でも警告書を送付し,また,平成17年8月29日配達の内容証明郵便で,控訴人コスモ・コーディネートあてにも警告書を送付した。


イ 控訴人アートステーションの上記通知書,再通知書によると,控訴人ら代表者は,当該映画の著作権の存続期間が満了していることを述べているのみで,その根拠が必ずしも明らかではないが,平成19年1月23日付け控訴人ら代表者の陳述書(乙1)に照らすと,旧法が制定された当時に本件9作品のような映画は存在していなかったなどの理由で,旧法の適用があるのはニュース映画,記録映画,カメラマンと演出家兼任でも制作可能な映画に限るとし,本件9作品については昭和45年改正法54条1項が適用され,映画著作物の著作権存続期間について公表後50年と規定されていることを根拠にして,当該映画の著作権存続期間が満了しているものと主張していたものと推認される。


ウ そうすると,控訴人らは,旧法及び昭和45年改正法を独自に解釈し,しかも,被控訴人の警告書における説明に対して,専門家の意見を聞くなどといった格別の調査をした形跡もないのであるから,控訴人らには少なくとも注意義務違反の過失があるものと認められる。


エ 控訴人らは,旧法下で,だれが映画の著作権者であるかは,著作権法上最大の難問の1つであるとされており,その考え方をめぐって多数の学説に別れているところ,このような実情において,十分調査をしたところで原判決のような解釈になるとは限らない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,控訴人ら代表者は,被控訴人からの警告書に対して,格別の調査をした形跡がなく,昭和45年改正法附則7条の経過規定を看過して,本件9作品に旧法の適用がなく,直ちに昭和45年改正法54条1項の適用があると誤信し,本件9作品の著作権の存続期間が満了していると主張していたのであって,法解釈の基本において既に誤っていたというほかはない。


 要するに,控訴人らは,旧法の適用を考慮に入れていないため,だれが映画の著作者であるかという問題意識を持つこともなく,短絡的に本件9作品の著作権の存続期間が満了していると主張していたのである。


 本件9作品が旧法の適用を受けることは昭和45年改正法附則7条から明らかであり,その際,だれを映画の著作権者とするのが適当かという点については考え方が分かれるが,旧法の解釈としては,文芸,学術又は美術の範囲に属する一般的な著作物と同様,実際に著作活動をした者を映画著作物の著作者としているものである。


 したがって,被控訴人の警告を受けた控訴人らが調査を尽くせば,本件9作品の著作権の存続期間が満了しているといえないことを十分に理解し得たということができる。


 そうすると,控訴人らが調査義務を怠ったことは明らかであって,少なくとも過失が成立するものということができ,控訴人らの上記主張は,採用することができない。


4 以上によると,控訴人らの主張はすべて理由がなく,本件9作品の著作権に基づき本件DVD商品及び本件レンタルDVD商品の複製及び頒布の差止め,商品等の廃棄,並びに,損害賠償の一部を認容した原判決は相当であるから,本件控訴は棄却を免れない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。

 
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