●平成19(ネ)10073 著作権侵害差止等請求控訴事件(1)

 本日は、『平成19(ネ)10073 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟チャップリン格安DVD販売差止め」平成20年02月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080304135652.pdf)について取り上げます。


 本件は、チャップリン映画の著作権の存続期間は満了していないので、控訴人らの行為は被控訴人が有する複製権及び頒布権を侵害するとして,本件DVD商品等の複製及び頒布の差止めや、商品等の廃棄、約1000万円等の支払を認容した一審判決の取消しを求めて控訴し、一審判決と同様に棄却された事案です。


 本日は、チャップリン9作品の著作権の存続期間の判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 宍戸充、裁判官 柴田義明、裁判官 澁谷勝海)は、


2 本件9作品の著作権の存続期間について


(1) 証拠(各作品ごとに摘示する。)によれば,本件9作品について,次の事実が認められる。

 ・・・省略・・・

(2) 本件9作品は,いずれも,昭和45年改正法施行(昭和46年1月1日)の前に公表された著作物であるところ,その後,同法が施行されたが,同法附則7条において,「この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については,当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第二章第四節の規定による期間より長いときは,なお従前の例による。」と規定されているので,まず,旧法による著作権の存続期間について検討し,次に,昭和45年改正法第二章第四節の規定による存続期間についての検討をする。


 旧法22条の3は,「活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸,学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス其ノ保護ノ期間ニ付テハ独創性ヲ有スルモノニ在リテハ第三条乃至第六条及第九条ノ規定ヲ適用シ之ヲ欠クモノニ在リテハ第二十三条ノ規定ヲ適用ス」と規定している。同規定によれば,映画著作物についても,文芸,学術又は美術の範囲に属する一般的な著作物と同様に,実際に著作活動をした者を著作者としているものと解される。


 ここに「独創性ヲ有スルモノ」とは,精神面又は技術面で創作性のある映画をいい,「独創性ヲ欠クモノ」とは,わずかな創作性が認められるにすぎないものをいうと解されるところ,上記(1)によれば,本件9作品は,いずれも独創的な作品であって,精神面又は技術面で高い創作性があると認められるから,「独創性ヲ有スルモノ」に該当し,保護期間は,旧法3条ないし6条(9条は期間の計算に関する規定である。)の適用を受けることとなる。


(3) 旧法3条ないし6条の適用について

ア 保護期間に関する旧法3条ないし6条をみると,旧法3条1項は「発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ著作者ノ生存間及其ノ死後三十年間継続ス」と,旧法4条は「作者ノ死後発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と,旧法5条本文は「無名又ハ変名著作物ノ著作権ハ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」,同条ただし書は「其ノ期間内ニ著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキハ第三条ノ規定ニ従フ」と,旧法6条は「官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物ノ著作権ノ発行又ハ興行ノトキヨリ三十年間継続ス」と規定している。ここに「発行又ハ興行」とは,著作物の公表を意味するものと解される。


 旧法3条の上記規定によれば,著作者の生死により保護期間を定めているから,旧法3条にいう「著作者」は,自然人を意味することが明らかである。また,旧法5条ただし書が「著作者其ノ実名ノ登録ヲ受ケタルトキ」は旧法3条の規定に従うとしていることからすると,旧法3条は,自然人である著作者が実名で公表される場合の保護期間を規定したものと解される。


 一方,旧法6条は,上記のとおり,「官公衙学校社寺協会会社其ノ他団体ニ於テ著作ノ名義ヲ以テ発行又ハ興行シタル著作物」と規定しているが,旧法3条が実名義の著作者の公表であること,旧法5条が「無名又ハ変名著作物」,すなわち,無名又は変名で著作者が何者かを識別できない形態での著作物の公表であることに照らせば,旧法6条は,団体の著作名義での著作物の公表の場合の保護期間を規定したものと解するのが相当である。


イ なお,旧法6条の解釈として,同条が法人著作を認めた規定であるとする考え方がある。


 しかし,上記のとおり,旧法6条は,保護期間に関する旧法3条ないし6条のうちの1つであって,旧法があえてこのような位置に法人著作の規定を置いたとは考えにくい。しかも,旧法において,旧法6条のほかに「団体」について触れた規定はない。


 なお,昭和45年改正法15条は,「法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物・・・で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」との職務著作に関する規定を置いているところ,同法附則4条は,「新法第十五条及び第十六条の規定は,この法律の施行前に創作された著作物については,適用しない。」と規定している。


 以上によれば,旧法においては,原則に戻って,自然人が著作者となると解するほかなく,旧法6条が法人著作を認めた規定とはいいがたい。


ウ なお,旧法1条は,「文書演述図画建築彫刻模型写真演奏歌唱其ノ他文芸学術若ハ美術(音楽ヲ含ム以下之ニ同ジ)ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者ハ其ノ著作物ヲ複製スルノ権利ヲ専有ス」と規定し,旧法13条1項は,「数人ノ合著作ニ係ル著作物ノ著作権ハ各著作者ノ共有ニ属ス」と規定しているが,「著作物ノ著作者」としているのみである。元来,著作物とは,自然人である著作者が実際にした著作活動によって創作された文芸,学術,美術等の作品をいい,著作者とは,実際に著作活動をした者をいい,著作とは著作物を創作することをいうのであって,この点は旧法,昭和45年改正法を通じて変わりがないものというべきである。


(4) 本件9作品の著作者について


ア 昭和45年改正法16条は,映画著作物につき,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定しているが,同法附則4条は,「新法第十五条及び第十六条の規定は,この法律の施行前に創作された著作物については,適用しない。」と規定している。


 ところで,一般に,映画の著作物の場合,その製作において,脚本,制作,監督,演出,俳優,撮影,美術,音楽,録音,編集の担当者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であり,その中に,関与した多数の者の個別的な著作物をも包含するものであるが,映画として一つのまとまった作品を創り出しているのであるから,旧法においても,映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者が映画著作物の著作者であるというべきであり,この者が旧法3条の「著作者」に当たるものと解すべきである。


イ これを本件9作品についてみると,前記(1)認定のとおり,いずれも,チャップリンが原作,脚本,制作ないし監督,演出,主役(「巴里の女性」を除く。)等を1人数役で行っており,上記作品は,その発案(「殺人狂時代」を除く。)から完成に至るまでの制作活動のほとんど又は大半をチャップリンが行っているところ,その内容においても,チャップリン自身の演技(「巴里の女性」を除く。),演出等を通じて,チャップリンの思想・感情が顕著に表れているものであるから,映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者はチャップリンであり,チャップリンが旧法3条の「著作者」に当たるものというべきである。


(5) 旧法3条の実名による著作者の公表について

ア 上記(1)アないしカのとおり,「サニーサイド」,「偽牧師」,「巴里の女性」,「黄金狂時代」,「街の灯」及び「モダン・タイムス」は,米国著作権局の登録においてチャップリンが著作者とされているところ,公表された画像においても,チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されているから,旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認められる。


イ 上記(1)キないしケのとおり,「独裁者」,「殺人狂時代」及び「ライムライト」は,米国著作権局の登録において,それぞれ「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」,「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」,「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」が著作者とされており,法人名義の著作者登録となっているので,旧法6条の適用があるか否かが一応問題となる。


 しかし,上記のとおり,保護期間に関する旧法3条ないし6条において,旧法3条は,自然人である著作者が実名で公表される場合の規定であり,旧法5条が無名又は変名で著作者が何者かを識別できない形態での著作物の公表される場合の規定であることに照らせば,これらと併置された旧法6条の団体の著作名義での著作物の公表は,自然人の実名義での公表,無名又は変名での著作物の公表に当たらない場合をいうものと解するのが相当である。


 そうすると,「独裁者」,「殺人狂時代」及び「ライムライト」は,公表された画像において,チャップリンが上記各映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であることが示されている以上,旧法3条の実名による著作者の公表があるものと認めるのが相当である。


(6) 控訴人らの主張について


ア 控訴人らは,旧法下において,映画の著作者はだれであるかに関して,映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と,映画は映画製作者,すなわち,映画会社,プロダクション等の単独の著作物であるとする考え方に分かれていたことを指摘した上で,映画は映画製作者の単独の著作物であるとする考え方に立てば,映画製作者である団体の著作物であるから旧法6条の適用を受ける旨主張するので,検討する。


(ア) 証拠(乙17,19,21)によれば,次の事実が認められる。

a 昭和37年に文部大臣の諮問機関として設置された著作権制度審議会第4小委員会が昭和40年5月21日に提出した審議結果報告には,映画の著作物の著作者がだれかという問題について,?シナリオの著作者,音楽の著作者,監督,プロデューサー(映画製作の全体を企画・指揮する者)の映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と,?映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方が併記された。


b その後,主査会議の意向を受け,関係者の意見をも参考にして,上記審議結果報告を再検討した結果,昭和41年3月9日の第4小委員会再審議結果報告では,2つの考え方を併記するという従来の結論を改め,(i)の考え方を採用し,(ii)の考え方は少数意見として付記するにとどめられた。ただし,シナリオと音楽の著作者については,映画の著作者から除外して原作者として扱うことにし,また,映画著作物の著作者の範囲を特定することをやめて,「映画の全体的形成に創作的に関与した者」とし,だれが著作者になるかは個々の映画ごとの判断に委ねることとした。


著作権制度審議会は,上記小委員会の審議結果報告やこれに対して関係団体から提出された意見,専門委員会審議結果報告などを総合的に検討した結果,昭和41年4月20日の文部大臣への答申では,「映画の著作者は,『映画の全体的形成に創作的に関与した者』とする。著作者には,監督,プロデューサー,カメラマン,美術監督などが該当し,俳優も映画の全体的形成に創作的に関与したと認められるものである限り,映画の著作者たり得ると考えるが,著作者を法文上例示することはしないものとする。」(乙21の8頁)と述べ,答申説明書では,「ある著作物については法人等を著作者とすることが合理的である場合もあるが,映画のように関与者個々人の創作的寄与が明白であり,また,製作者と関与者との契約が個々にさまざまの形態をとるものに,画一的に法人著作,職務著作の考え方をとり入れて製作者を映画の著作者そのものであるとすることは,無理であると考えられる。」(乙19の180頁)と説明している。


d 同答申を受けて著作権法案が作成され,第63回国会に提出されて,昭和45年4月28日,昭和45年改正法が成立した。


(イ) 上記認定の事実によれば,昭和45年改正法の施行前,映画の著作物の著作者がだれかという問題について,?シナリオの著作者,音楽の著作者,監督,プロデューサーの映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と,?映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方があったが,昭和40年5月21日に提出された審議結果報告では?の考え方を少数意見とし,昭和41年3月9日の再審議結果報告では?が削除され,昭和41年4月20日の文部大臣への答申でも再審議結果報告を踏襲するとともに,答申説明で?を採用することは無理であるとされている。


 したがって,旧法下において,映画の著作者はだれであるかに関して,映画は映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるとする考え方と,映画は原始的に映画製作者の単独の著作物であるとする考え方に分かれていたことは,控訴人らの指摘するとおりであるといえる。


(ウ) しかし,前記(3)イのとおり,旧法において,「団体」の著作物に関する規定を置いていない以上,原則に戻って,自然人が映画著作物の著作者となるものと解すべきである。


 また,昭和45年改正法29条1項は,「映画の著作物(第十五条第一項,次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定しているが,同法附則5条1項は,「この法律の施行前に創作された新法第二十九条に規定する映画の著作物の著作権の帰属については,なお従前の例による。」としているところである。


(エ) したがって,旧法の解釈として,映画が映画会社,プロダクション等の映画製作者の単独の著作物であるとする考え方を採用することはできないから,控訴人らの上記主張は,採用の限りでない。


イ 控訴人らは,映画がその製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方を採用したとしても,流通性のある共同著作物であるから,その利用が円満に行われるためには,多数の著作者の権利主張によってその利用が阻害されないことが必須であり,旧法の適用又は法解釈としては,団体著作権に係る旧法6条によって,一律に公表から30年ないし33年間を存続期間とすべきである旨主張する。


 しかし,前記(3)イのとおり,旧法6条は,団体著作を認めた規定といえない上,共同著作物である映画の利用が円満に行われる必要性があるという政策的な問題があるからといって,このような政策論から,直ちに,旧法6条の適用に結び付けるのは,論理の飛躍であり,失当である。


 また,控訴人らは,映画「シェーン」についての東京地裁判決を挙げて,昭和28年(1953年)に公表された同映画について旧法6条を適用し,同映画の映画監督の死亡による保護期間を適用していない旨主張する。


 上記判決において,映画「シェーン」が,米国法人の著作名義をもって公表された著作物であるとして旧法6条を適用されていることは,当裁判所に顕著である。


 しかし,前記(4)イ認定のとおり,本件9作品は,いずれも,チャップリンが映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であって,チャップリンが旧法3条の「著作者」に当たるものというべきであり,しかも,団体の著作名義をもって公表された著作物であるともいえないから,映画「シェーン」の場合とは事案を異にするものであって,これと同列に論ずることはできない。


ウ 控訴人らは,本件においては,著作権者として団体を示している表示があり,映画著作者が団体の映画製作者である場合であるから,団体著作権として存続期間を決定すべきである旨主張する。


 前記(1)によると,「独裁者」,「殺人狂時代」,「ライムライト」は,米国著作権局において,原著作権請求者を,それぞれ,「チャールズ・チャップリン・フィルム・コーポレーション」,「ザ・チャップリン・スタジオ・インク」,「セレブレイテッド・フィルムズ・コーポレーション」として登録されており,また,証拠(乙3,検甲7〜9)によれば,上記各作品の映像においても,それぞれ同様の名義の著作権表示があるが,前記(5)イのとおり,法人の著作者名義で公表されたといえないから,控訴人らの上記主張は,採用することができない。


エ 控訴人らは,原判決は,チャップリンが本件9作品の少なくとも著作者の1人であるという事実から,直ちに映画製作者であり,著作権を有するとしているのであって,とうてい納得できない旨主張する。


 しかし,前記(4)イのとおり,本件9作品は,いずれも,チャップリンが原作,脚本,制作ないし監督,演出,主役(「巴里の女性」を除く。)等を1人数役で行っており,同作品は,その発案(「殺人狂時代」を除く。)から完成に至るまでの制作活動のほとんど又は大半をチャップリンが行っているところ,その内容においても,チャップリン自身の演技(「巴里の女性」を除く。),演出等を通じて,チャップリンの思想・感情が顕著に表れているものであり,映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者はチャップリンである


 前記のとおり,一般に,映画の著作物は,その製作に脚本,制作,監督,演出,俳優,撮影,美術,音楽,録音,編集の担当者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であり,本件9作品についても,映画製作の技術的な側面からみると,チャップリン以外にも出演している複数の俳優がおり,また,チャップリン以外の者が撮影,録音等を行っていることが証拠上明らかである(検甲1〜9)。


 しかし,著作物の本質である思想・感情の表現という側面からみると,本件9作品は,正にチャップリンによる映画というほかなく,この側面においてチャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的に寄与した者がいるとの証拠を見いだすことができない。したがって,チャップリンが,単に本件9作品の著作者の1人にすぎないとはいえない。


 また,仮に,チャップリン以外に映画著作物の全体的形成に創作的になにがしかの寄与をした者がいるとしても,前記第2の「2 前提となる事実等」の「(2) 本件9作品の著作権登録及び著作権の譲渡」に摘示のとおり,被控訴人が唯一の著作権者である。


 いずれにせよ,控訴人らの上記主張は,失当である。


(7) 旧法による保護期間


 旧法3条は,著作物の保護期間について,著作者の生存間及びその死後30年間と定めているところ,旧法52条1項は,附則として,「第三条乃至第五条中三十年トアルハ演奏歌唱ノ著作権及第二十二条ノ七ニ規定スル著作権ヲ除ク外当分ノ間三十八年トス」と規定している。また,旧法9条は,期間の計算について,「前六条ノ場合ニ於テ著作権ノ期間ヲ計算スルニハ著作者死亡ノ年又ハ著作物ヲ発行又ハ興行シタル年ノ翌年ヨリ起算ス」と規定している。


 ところで,チャップリンが1977年(昭和52年)12月25日に死亡したことは前記前提となる事実等の「当事者等」に摘示のとおりであるから,旧法の規定による本件9作品の著作権の存続期間は,昭和53年(1978年)1月1日から起算して38年間,すなわち,平成27年(2015年)12月31日までとなる。


(8) 昭和45年改正法54条1項による存続期間

ア 昭和45年改正法54条1項は,「映画の著作物の著作権は,その著作物の公表後50年(その著作物がその創作後50年以内に公表されなかったときは,その創作後50年)を経過するまでの間,存続する。」と規定しているところ,本件9作品の公表時期は,前記第2の「2 前提となる事実等」の「(2) 本件9作品の著作権登録及び著作権の譲渡」に摘示のとおりであるから,本件9作品について,同条により算定される存続期間をみると,次のとおりとなる。

 ・・・省略・・・

イ 旧法による存続期間と昭和45年改正法54条1項による存続期間とを比較すると,前者の方が長いので,同法附則7条により,本件9作品の著作権の存続期間については,平成27年(2015年)12月31日までとなる。


(9) 平成15年法律第85号による改正後の著作権法(以下「平成15年改正法」という。)54条1項の適用


ア 本件9作品は,平成15年改正法が施行された平成16年1月1日において著作権が存するものであるところ,同法附則2条は,「改正後の著作権法(次条において「新法」という。)第五十四条第一項の規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による。」と規定するから,本件9作品については,同法附則2条により,同法54条1項が適用される。


イ 平成15年改正法54条は,「映画の著作物の著作権は,その著作物の公表後七十年(その著作物がその創作後七十年以内に公表されなかったときは,その創作後七十年)を経過するまでの間,存続する。」と規定するから,本件9作品の著作権の存続期間は次のとおりとなる。

 ・・・省略・・・

ウ 本件9作品は,上記(8)イのとおり,昭和45年改正法附則7条の規定により旧法上の存続期間の規定が適用されるところ,平成15年改正法附則3条の「著作権法の施行前に創作された映画の著作物であって,同法附則第七条の規定によりなお従前の例によることとされるものの著作権の存続期間は,旧著作権法(明治三十二年法律第三十九号)による著作権の存続期間の満了する日が新法第五十四条第一項の規定による期間の満了する日後の日であるときは,同項の規定にかかわらず,旧著作権法による著作権の存続期間の満了する日までの間とする。」の規定によれば,旧法による著作権の存続期間の満了する日が平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日後の日であるものについては,同項の規定にかかわらず,旧法による著作権の存続期間の満了する日までが存続期間となる。


 そこで,本件9作品についてみる。


(ア) 「サニーサイド」,「偽牧師」,「巴里の女性」,「黄金狂時代」,「街の灯」,「モダン・タイムス」及び「独裁者」については,旧法による著作権の存続期間の満了する日(平成27年〔2015年〕12月31日)が,平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日(上記(i)ないし(vii)のとおり)後の日であるから,同法附則3条により,旧法による著作権の存続期間の満了する日までが存続期間となる。


(イ) 「殺人狂時代」及び「ライムライト」については,旧法による著作権の存続期間の満了する日(平成27年〔2015年〕12月31日)が,平成15年改正法54条1項の規定による期間の満了する日(「殺人狂時代」について平成29年〔2017年〕12月31日,「ライムライト」について平成34年〔2022年〕12月31日)よりも前の日となるので,同法附則3条は適用されず,上記イ(viii)及び(ix)のとおり,同法54条1項の規定による存続期間の満了する日までが存続期間となる。


(10) そうすると,日本国との平和条約15条(c)及びそれに基づく連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律による戦時加算日数を考慮するまでもなく,本件9作品は,いずれも,その著作権の存続期間が満了していない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。