●平成18(ネ)10072肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求控訴事件

 本日も、『平成18(ネ)10072 肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成20年02月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080303104615.pdf)について取り上げます。


 本日は、本件契約条項が独占禁止法違反として無効となるかの判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 田中孝一)は、


5 本件契約条項は独占禁止法違反として無効となるかについて

(1) 当裁判所も本件契約条項が独占禁止法の観点からし民法90条により無効となるものではないと解するものであり,その理由は原判決109頁17行〜112頁18行のとおりである。


(2) なお,当審における控訴人らの主張にかんがみ,以下のとおり付加的に判断する。


ア 独占禁止法19条に違反した契約の私法上の効力については,原判決も指摘するように,その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として,同条に反するからとの理由で直ちに無効となると解すべきではない。


 けだし,独占禁止法は,公正かつ自由な競争経済秩序を維持していくことによって一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものであり,同法20条は,専門的機関である公正取引委員会をして,取引行為につき同法19条違反の事実の有無及びその違法性の程度を判定し,その違法状態の具体的かつ妥当な収拾,排除を図るに適した内容の勧告,差止命令を出すなど弾力的な措置をとらしめることによって,同法の目的を達成することを予定しているのであるから,同法条の趣旨にかんがみると,同法19条に違反する不公正な取引方法による行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである(最高裁昭和48年(オ)第1113号同52年6月20日第二小法廷判決・民集第31巻4号449頁参照)。


 そして,本件契約条項が公序良俗に反するとはいえないことは前記4のとおりであり,そうすると,当審における控訴人らの共同の取引拒絶に該当するとの主張も含め,控訴人らの独占禁止法違反の主張については採用の限りではない。


イ 加えて,被控訴人らが選手会に対して肖像権等のライセンスを行うことを拒絶させているとの点についても,前記のとおり,本件契約条項が不当なものとはいえず,これに基づくものであって共同の取引拒絶等には当たるものではないから,控訴人の主張は採用できない。


ウ さらに,控訴人らの独占禁止法違反の主張に関連し,以下の事実が認められる。


(ア) 前記2(9)で認定したとおり,選手会野球機構とは複数回にわたり選手の待遇や野球をめぐる環境の改善等に関して話合いを行ってきているところ,その内容,野球協約の変更等の内容に関しては,既に認定した事実以外に,以下のものがある。


a 平成7年〔1995年〕の第1回選手関係委員会・日本プロ野球選手会会合において,フリーエジェント(FA)資格緩和のための「特例条件」について,試合出場数による緩和措置を要望してきた選手会が,初めて具体的な提案をしてきたものの,(1)野手は800試合,(2)投手は200試合…などとの提案があり,検討が促されたのに対し,野球機構選手関係委員長は,出場数となると,ポジションによって難しい問題が出てくる,むしろ連続して1500日登録のような緩和条件を考えた方がよいのではないかとの提案をし,具体的な成果はなかった(乙73)。


b 当初10年間,年間150日の稼働が要件とされていたFA資格取得のための要件につき,平成10年〔1998年〕にFA資格取得のための稼働年間につき9年に緩和された(甲33)。


c 現在の野球協約では,FA資格の取得条件については,野球協約197条(1)により,年間145日の出場選手登録日数が必要とされることになっており,この197条(1)についても平成13年〔2001年〕9月,平成15年〔2003年〕7月,平成16年〔2004年〕7月にもそれぞれ改正されているほか(乙51),平成16年7月26日の改正後の197条(資格取得条件)(2)の内容は下記のとおりであり,出場選手登録日数についても選手側に配慮した規定が置かれるに至っている(乙51)。


「出場選手登録日数が同年度中に145日に満たないシーズンがある場合は,それらのシーズンの出場選手登録日数をすべて合算し,145日に達したものを1シーズンとして計算する。」


(イ) 選手会は,複数球団選手を含む肖像等の使用についてこれを「包括的使用」とし,これに関しては選手会に委任したことにより球団には使用許諾権がないことを前提とし,野球機構に対し,選手のパブリシティ権選手会が暫定的にライセンスを行う等の提案をしている(甲101)。


 しかし,それまで球団が行ってきた選手の肖像・氏名に関する管理は,こうしたゲームソフト等の商品に関する使用許諾実務以外にも幅広い業務があり,これをそれまで行ってきた球団に代わって,その一部でも選手ないし選手会において行うとすることについて,選手ないし選手会と球団ないし野球機構とで真摯な話合いがされてきたと認められるかについては疑義がある。


エ(ア) さらに控訴人らは,選手会は肖像権使用料を10%としているのに対し,野球機構の委託する株式会社ピービーエスらはこれを20%としているから,公正な競争が阻害されているとも主張する。しかし,この点に関しては以下の事実が認められる。


選手会は,平成13年3月から,野球ゲーム(ファンタジーベースボール)に関し,これを運営するファンタジー・スポーツジャパン社,スポーツナビゲーション社に選手の肖像権ライセンスを行い,これに関し,選手会は,平成13年7月21日の選手会臨時大会において,ライセンス料を10%とする旨を決議した(甲105)。


b また選手会は,家庭用テレビゲーム機向けの野球ゲームソフトに関して,スクウェア社が平成14年〔2002年〕に発売した「日米間プロ野球ファイナルリーグ」に,また平成14年にメディアカイト社のパソコンゲームソフト「野球道21」にも選手の肖像に関するライセンスを行った(甲93)。


選手会が得た肖像使用料は,選手会大会の決議に基づき,一部を選手会の活動資金に充てた後,各選手に分配している。使用料徴収・分配に関する事務は,選手会事務局とTWIインタラクティブ・インク社とが共同で行っている(甲93,95)。現在のライセンス先は,1社のみとなっている(甲95)。


(イ) しかし,上記2(9)で認定したとおり,野球機構の委託した株式会社バップ及び株式会社ピービーエスの行っている業務内容には,ゲームソフトメーカーと球団との間での映像等のやりとり,ゲーム内容の確認業務等多様なものを含んでおり,これを単純に実施料率の点だけから比較して公正か否かを判断することはできない。したがって,控訴人らの主張は採用することができない。


オ なお控訴人らは,当審において,早稲田大学法学学術院L)教授の意見書を提出し,これによれば,共同の取引拒絶該当性につき,球団は,選手をしてプロ野球選手会ないし他の管理会社等にパブリシティ権のライセンスをさせないようにしており共同の取引拒絶に該当し,目的の正当性等についても疑問があるとする(甲91)。また,控訴人らは,同じく慶應義塾大学産業研究所M)准教授の意見書を提出し,これには,(i)相手方たる所属のプロ野球選手との取引において拘束する条件を付して取引した結果,少なくともプロ野球選手のパブリシティ権の管理受託業務及び第三者への使用許諾(ライセンス)業務においてプロ野球球団と競合関係に立つ日本プロ野球選手会の取引の機会が減少し,他に代わり得る取引先を容易に見出すことができなくなるおそれが生じたものと評価することができるから不当な拘束条件付き取引に該当する,(ii)本件契約条項のように,独占的なパブリシティの使用許諾を求めることを内容とする条件を付す契約は,球団が優越的地位にあったからこそ課すことができる条件であって優越的地位の濫用に該当する,(iii)正当な理由があるかについても,球団の投資の回収及び球団にとって好ましくない態様での肖像等の使用の防止は,各球団にとっての必要性・合理性であって,1条に定める独禁法の目的から正当な目的と是認されるものとはいえないなどとする(甲92)。


 しかし,独占禁止法違反の控訴人らの主張については既に検討したとおりであって,本件契約条項を無効と解することはできない。


6 結論

 
 以上のとおりであるから,控訴人らの請求はいずれも理由がない。


 よってこれと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸;<気になった記事>

●『「著作権は混迷」「ダメと言ってもネットは止まらない」──東大中山教授』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/03/news033.html
●『日独間の特許審査迅速化、25日から試行』http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080303AT3S0301303032008.html
●『日独特許審査ハイウェイの試行開始及び日英特許審査ハイウェイの対象案件の拡大について』http://www.meti.go.jp/press/20080303001/20080303001.html
●『シャープによる訴えで、ITCがサムスン製品の特許侵害調査を開始(ITC)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2936
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