●平成18(ネ)10072肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求控訴事件

 本日も、『平成18(ネ)10072 肖像権に基づく使用許諾権不存在確認請求控訴事件 その他 民事訴訟 平成20年02月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080303104615.pdf)について取り上げます。


 本日は、契約条項による契約は不合理な附合契約であり民法90条に違反し無効であるかの判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 今井弘晃、裁判官 田中孝一)は、


4 本件契約条項による契約は不合理な附合契約であり民法90条に違反し無効であるかについて

(1) 当裁判所も本件契約条項が不合理な附合契約として民法90条により無効となるものではないと解するものであり,その理由は,原判決99頁17行〜109頁16行記載のとおりである。なお,当審における控訴人らの主張にかんがみ,以下のとおり付加する。


(2)ア 本件契約条項に相当する規定は,統一契約書様式の一部であるところ,前記2(4)イで認定したとおり,統一契約書様式について,第11条(傷害補償)の規定に関し,昭和50年,昭和55年,昭和60年,平成3年,平成7年,平成8年と改訂され,順次選手らに対する補償金額が見直されているほか,第31条(契約の更新)についても,平成5年度〔1993年度〕の選手契約からは,「次年度契約における参稼報酬の金額は,選手の同意がない限り,本契約書第三条の参稼報酬の金額から25パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。」との条項(甲96の4。古田敦也の1993年度選手契約)がおかれ,これは後に平成10年度〔1998年度〕に「次年度契約における参稼報酬の金額は,選手の同意がない限り,本契約書第3条の参稼報酬の金額から,同参稼報酬の金額が1億円を超えている場合は30パーセント,同参稼報酬の金額が1億円以下の場合は25パーセントに相当する金額を超えて減額されることはない。」(甲96の9。古田敦也の1998年度選手契約)と改められるなどの改正がされている。


イ 上記のほか,統一契約書様式中の第31条(契約の更新)に関しては,昭和47年,昭和48年,昭和50年,平成3年にも改正がされている。その他にも,第24条(移転費)に関して昭和50年,昭和54年2月8日,昭和54年9月4日,昭和60年に改正がされている。


 さらに,平成10年には,第35条(任意引退選手)として,参稼期間中または契約保留期間中であっても,選手が引退を希望した場合に,任意引退選手として公示されるための手続きに関する規定が追加された(平成10年11月18日追加)。任意引退選手となりリストに入れられると,平成10年12月15日に調印発効となった「日米間選手契約に関する協定」により米国大リーグ球団と契約可能となる場合もある(乙51)。


ウ さらに,野球協約中の規定には,前記のとおり,第13条(実行委員会の構成),第17条(審議事項),第18条(専門委員会),第19条(特別委員会)の各規定がある。


エ 上記アの傷害補償額の引き上げについては,平成7年〔1995年〕の第2回選手関係委員会・日本プロ野球選手会会合(甲18),平成8年〔1996年〕の第1回選手関係委員会(甲19)等で採り上げられ,選手の希望する方向での補償の充実が実現している。参稼報酬の金額の減額制限についても,平成6年〔1996年〕の第2回選手関係委員会等で選手側と野球機構側との間で規定の内容,改正の方向等についてそれぞれが意見を出した上での話合いがされている(甲20)。


オ 上記認定の事実及び前記2で認定した各事実によれば,(i)本件契約条項は,2項における分配金の定めとともに,写真出演等に関する選手の肖像権等が球団に属し,宣伝目的のためこれを球団において使用することができることを定めるにすぎず,その規定自体から不合理かつ不公正で公序良俗に反する内容であるとは言い難いこと,(ii)本件契約条項に相当する規定の置かれている統一選手契約様式についても,毎年選手との間で契約が締結ないし更新されることを前提として,上記ア,イのとおり,傷害補償・移転費等,選手に必要な補償,費用等について選手にとって有利な形で何回も改正されてきているほか,参稼報酬減額の場合の制限,選手が希望した場合の任意引退の規定など,選手契約の根本に係る部分についても規定が追加されてきていること,(iii)上記エで認定したとおり,選手会野球機構らとの間で選手関係委員会等の会合が継続的に開かれ,そこにおいて選手契約と係わる部分についても話合いがされ,統一契約書様式の改訂に実現したものもあること,(iv)被控訴人タイガースとR元選手との間の肖像権等についての契約によれば,契約に当たって球団の事前の承認は要求されているものの,R選手の企画会社に同選手の肖像権,著作権等に関しての企画紹介業務を行うことを許容していること(乙94,98,126),等の事情もあり,これらに照らせば,本件契約条項を前提とすると選手が肖像権管理に関し全く関与することができないと認めることもできない。


 以上によれば,本件契約条項が民法90条により無効であるとは到底いうことができない。


(3) 控訴人らの主張に対する判断


ア 控訴人らは,選手において氏名及び肖像の利用に関する特約を締結することが不可能であり,そうした事例がないとしながら特約の締結も不可能ではないとした点に原判決の誤りがあると主張する。


 確かに,選手契約において,選手の氏名ないし肖像の利用に関する特約が締結された事例は証拠上見当たらず,また野球協約47条2項には,野球協約の規定及び統一契約書の条項に反しない範囲での特約の記入が認められているにすぎないとはいえる。


 しかし,そもそも氏名及び肖像の選手の使用に関する特約について,何らの形でも特約の締結が不可能であるとは統一契約書様式,野球協約の規定から認めることはできない。


 控訴人らの主張する氏名及び肖像に関する特約が,あくまで控訴人らの主張し要求している内容,すなわち複数球団にまたがる選手肖像の利用について選手会にその権限の委任を可能とする内容,すなわち本件契約条項の内容に反することを前提とするものであれば,そうした内容での特約の締結は,個々の選手契約を前提として可能といえないのは,上記野球協約の規定からすればむしろ当然ということになるが,これは,上記のとおり統一契約書様式が数度にわたり改訂されていることによると,その改訂等に関する問題というほかなく,特約の締結可能性の問題とはいえない。


 控訴人らの主張は採用することができない。


イ また,控訴人らは,金銭(分配金)が支払われたとしても,選手の意思が反映されない点で依然として問題が残るとも主張する。


 しかし,控訴人らが問題とするゲームソフト,野球カードについての肖像権等の使用許諾は,商業的利用に関するもので,それ自体金銭の受領が本質的な問題であるから,選手に対して分配金が支払われていることを本件契約条項の有効性の判断についての補強理由の一部とした原判決の認定に何ら問題はない。

 控訴人らの主張は採用することができない。


ウ さらに控訴人らは,球団が肖像権を管理すべき合理性はないとして原判決を論難する。


 しかし,選手が商業的利用も含め自らの肖像権を生来的に有することは所論のとおりであるが,これを自らの判断で契約により球団等の第三者にその管理を委ねることも許されるのであり,本件は,前記のとおり,そのような意味における肖像権が選手から球団に対し契約により独占的利用を許諾したと認めることができるのである。そして,選手の肖像ないし氏名の宣伝目的での使用を球団が一括管理することを前提とした本件契約条項の内容が,それ自体として不合理といえないことも前記のとおりである。

 したがって,控訴人らの主張は採用することができない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。