●平成19(ネ)10061 特許権譲渡対価請求控訴事件「職務発明対価」

 本日は、『平成19(ネ)10061 特許権譲渡対価請求控訴事件 民事訴訟職務発明対価」 平成20年02月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080226134108.pdf)について取り上げます。


 本件は、1審被告の従業員であった1審原告が、1審被告に対し、1審被告在職中に単独で発明したものと主張して,改正前特許法35条3項に基づいて相当の対価の支払を受ける権利の一部等を請求し一部認容された原判決を不服として当事者双方が控訴を提起し、棄却された事案です。


 本件では、解決課題が化学分野に関する場合の発明者の認定や、改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」や、改正前特許法35条4項には,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」の判断について、参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田洋幸)は、

『 当裁判所も,1審原告の1審被告に対する本訴請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「争点に対する当裁判所の判断」(原判決53頁11行から81頁6行)記載のとおりであるから,これを引用する。


1 原判決の付加訂正

 ・・・

 原判決64頁8行目の「解される。」の後に,次のとおり加える。

「そして,当該発明の課題解決に係る技術思想に至った者は,当該発明に係る技術的思想の創作をした者,すなわち発明者ということができる。もっとも,本件発明のように,課題解決に係る技術が化学分野に関する場合は,その作用効果を事前に予測することは困難であるから,課題解決に係る技術思想を直接発見した者のみならず,課題解決に至るまでの予測を立てたり手法を提供した者や,課題解決に係る技術思想の具体化に寄与した者も発明者と解するのが相当である。

 本件発明に係る明細書の「発明者」の欄には,1審原告の氏名のみが記載されている。しかし,上記・で認定した事実によると,当時の本件特許出願を担当した電子特許課では,願書における発明者の記載は,提案書の発明者欄の記載をそのまま転記していたこと,本件特許出願に先立つ第1ないし第4の出願では,その内容が本件発明とほぼ同一のものであるにもかかわらず,その発明者欄には1審原告及びAを共同発明者と記載されていたこと,本件発明に係る出願も,1審原告のみを発明者とする社内提案の記載に基づいて行なわれたこと等の経緯に照らすと,本件発明に係る明細書の記載のみによって,1審原告を単独の発明者を認定することはできない。結局,上記・で認定した本件発明に至る関与の経緯に即して,本件発明に係る発明者を認定するのが相当である。」


 原判決69頁11行から70頁19行までを次のとおり改める。

「ア 改正前特許法35条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該職務発明に係る特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことから,使用者等が,従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を受けた場合には,特許発明の実施を排他的に独占することによって得られる利益をいう。そして,使用者等は,特許を受ける権利を承継しない場合であっても無償の通常実施権を取得することの対比からすれば,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許発明を自ら実施している場合は,これにより実際に上げた利益のうち,当該特許の排他的効力により第三者の実施を排除して独占的に実施することにより得られた利益,すなわち,使用者等が実際に受ける利益の額から通常実施権を実施することにより得られる利益の額を控除した額をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」というべきである(外国の特許を受ける権利の承継による相当の対価の請求についても,改正前特許法35条4項が類推適用される以上,同様に解すべきものといえる。)。


イ 上記第2,1 (7)のとおり,本件において,1審被告は,本件発明について,専ら自ら実施し,第三者に実施許諾をしたことはない。


 このように,発明が自社でのみ実施されている場合における独占の利益を算定する方法としては,(i)本件発明を第三者に実施許諾した場合に得られるであろう実施料収入を想定して算定するという方法や(ii)使用者等が超過売上高から得るであろう利益を算定する方法などが考えられるところである。


 この点,1審原告は,上記(i)の算定方法に基づいて,第三者に実施させた場合の当該第三者の売上げを1審被告の売上げの2分の1として,その10パーセントとすべきである旨主張する(判決注:当審においては,20パーセントと主張する。)。


 しかし,本件において,1審原告は,本件発明を第三者に実施させて実施料を取得した場合を想定した場合に,当該第三者が取得し得る売上げの多寡に影響を与える諸事情,すなわち,例えば市場全体の規模,動向,実施品であるX線イメージ管の性質,内容,市場における優位性等の諸事情について,具体的な主張,立証をしていない。実施許諾を受けた第三者が,1審被告の売上げの2分の1の売上げを得ることを推認させるような事情も認められない。したがって,1審原告の主張に係る上記?の算定方法を採用することはできない。


 ところで,1審被告は,1審被告の市場シェアを算定し,それに基づいて1審被告の超過シェアを算定する方法を前提として,1審被告の主張に係る市場シェアについては,1審被告におけるX線イメージ管の製造本数及び競業他社の推定製造本数から,1審被告の国内シェアを推測する算定方法によるべきであると主張し,1審被告社内の調査に基づいて1審被告の国外シェアを推測した1審被告従業員の報告書(乙81)を提出している。1審原告の主張に係る算定方法に合理性がない本件においては,1審被告の主張に係る上記?の算定方法によるのが相当であるというべきである。


 そうすると,独占の利益は,1審被告の売上高に,上記によって計算した超過シェアを乗じて超過部分の売上高を算定し,これに利益率を乗じて超過利益を算定した上で,売上高がX線イメージ管に関するものであることから,さらに,X線イメージ管の売上げに対する本件発明の寄与割合を乗じて算定することとする。」


 原判決71頁19行目から20行目の「あるといわざるを得ず,時機に後れた攻撃防御方法として,却下されるべきものである。」を「あるといわざるを得ない。そうすると,1審原告の上記主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃の方法であり,この主張の追加により,本件各特許の出願公開時から設定登録までの間の売上高及び本件日本特許権の存続期間満了までの将来分を含む売上高に関して,1審被告の主張立証が予想され,これにより訴訟の完結を遅延させることとなる。したがって,1審原告の上記主張は,民訴法157条1項によりこれを却下することとする。」と改める。


 原判決77頁2行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。

改正前特許法35条4項には,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが,前記のとおり,特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合において考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には,使用者等が「その発明がされるについて」貢献した程度のほか,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。


 すなわち,「使用者等が貢献した程度」には,その発明がされるについての貢献度のみならず,その発明を出願し権利化し,特許を維持するについての貢献度,実施製品の開発及びその売上げの原因となった販売契約を締結するについての貢献度,発明者の処遇その他諸般の事情等が含まれるものと解するのが相当である。


 発明者の使用者等に対する「相当の対価」の請求権はその特許を受ける権利の譲渡時に発生するものであるが,「相当の対価」の算定の基礎となる「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は特許を受ける権利の承継後に使用者が実施した超過売上高によるものとする以上,その超過売上高が発生するに至った一切の事情を考慮しないとするのは衡平の理念に反するというべきである。」 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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