●平成18(ワ)13803 損害賠償請求事件 著作権「パズル」(3)

 本日も、『平成18(ワ)13803 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟「パズル」平成20年01月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080220103513.pdf)について取り上げます。


 本日は、複製権又は翻案権の侵害が認められなかったパズルK、Lと、争点3(損害)について取り上げます。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 設樂隆一、裁判官 関根澄子、裁判官 古庄研)は、


(12) 原告パズルKについて


 原告パズルKは,「山があるのに登れない」,「海があるのに泳げない」,「川があるのに渡れない」などという条件を満たすのは,地図の中ともう一つはどこかを問う問題である。これは,地図と力士のしこ名においては,「山」や「海」など特定の場所が登場するのに,そこで通常行うことのできる行為(例えば,「山」であれば「登る」,「海」であれば「泳ぐ」こと)はできないということに着想を得た問題である。


 これに対し,被告パズルKは,「山があるのに登れない」,「川もあるのに泳げない「道にまよわない」, ものは,なあに?」と問う問題であり,答えは「地図」である。


 このような着想によるパズル又はなぞなぞは,本件訴訟に顕れた証拠で見る限り,平成4年発表の原告パズルK以前には見当たらない。


 以上を踏まえて検討するに,原告パズルKと被告パズルKとで共通している点は,地図において,「山」や「海」あるいは「川」など特定の場所が登場するのに,そこで通常行うことのできる行為(例えば,「山」であれば「登る」,「海」であれば「泳ぐ」こと)ができないという着想をパズル又はなぞなぞとして表現する点である。このような着想をパズル又はなぞなぞとして表現する場合,「特定の場所」が登場することと「そこで通常行うことのできる行為」ができないこととを組み合わせる必要があり,そして,地図において,「山」や「海」あるいは「川」などを特定の場所として選択して,「登れない」,「泳げない」などと表現することはごく平凡でありふれたものであって,その共通する点だけでは,作者の個性が表現された創作的な表現であるとは認められない。したがって,このような場合に,上記の着想と一部のありふれた表現が共通している被告パズルKを原告パズルKの複製あるいは翻案と認めるのは相当ではない。


 また,原告パズルKは,「山」,「海」,「田」,「川」,「花」を組み合わせ,かつ,着想しやすい「地図」を敢えて明らかにして,「地図」以外の解答を求めている点において,作者の個性が表現された創作的な表現であると認められるものの,被告パズルKは,「海」,「田」,「花」を素材としていない点,原告パズルKが「川」を「渡る」と組み合わせているのに対し,「泳ぐ」と組み合わせている点,原告パズルKが「それはどこだろう?1つは地図の中,もう1つは……」という出題形式であるのに対し,「道にまよわないためのものは,なあに?」という出題形式にしている点において,原告パズルKと相違するものであり,原告パズルKと実質的に同一といえないことは明らかであり,原告パズルKの表現上の本質的な特徴を直接感得することもできないというべきである。


 したがって,いずれにしても,被告パズルKは,原告パズルKの複製にも,翻案にも当たらないから,複製権侵害も,翻案権侵害も認められない。


(13) 原告パズルLについて


 原告パズルLは,「良い女」,「木の上に立って見ている人」,「田の下の力持ちとして生きる」人が,それぞれどんな人かを問う問題である。これは,「娘」,「親」,「甥」という漢字が,複数の漢字の組合せ(例えば,「親」であれば,「立」と「木」と「見」)から成り立っていることに着想を得たなぞなぞである。


 これに対し,被告パズルLは,「田んぼをもち上げている力もちはだあれ?」,「木の上に立って見ている人はだあれ?」を問うものであり,その答えは,「男」,「親」である。


 このような着想によるパズル又はなぞなぞは,本件訴訟に顕れた証拠で見る限り,平成9年発表の原告パズルL以前には見当たらない。


  以上を踏まえて検討するに,原告パズルLと被告パズルLとで共通している点は,ある漢字が複数の漢字の組合せから成り立っている場合に,これを人にたとえて問い,その漢字を答えさせるというものであり,具体的には,「親」という漢字についての問いは共通しているものの,その余は対象とする漢字を異にするものである。


 しかし,漢字が複数の漢字の組合せから成り立っている場合に,これを人にたとえて問うということ自体は,アイデアであり,このアイデア自体を特定の者に独占させるのが相当ではないことは明らかである。


また,両者は,具体的には,「親」という漢字においてのみ共通の問いを発するものであるものの,「立」・「木」・「見」という漢字の組合せから成る「親」という漢字を,人にたとえるなら,類似の表現にならざるを得ないのであり,その表現に作者の個性が表れているとみることもできない。したがって,被告パズルLを原告パズルLの複製あるいは翻案と認めることはできない。


(14) 以上によれば,被告パズルA,E,Fは,それぞれ原告パズルA,E,Fについての原告の複製権あるいは翻案権を侵害したものと認められ,その余の原告各パズルについての原告の複製権侵害及び翻案権侵害の主張は,いずれも理由がない。


2 争点3(損害額)について

(1) 著作権法114条2項に基づく損害について

ア 上記認定の事実によれば,「右脳を鍛える大人のパズル」の執筆により,被告が得た利益は,原稿料25万円と印税110万1820円(619円×2%×8万9000部)の合計135万1820円である(上記第2の1(10)(12))。同書籍には80問が収録されており(弁論の全趣旨),そのうち被告が原告の複製権を侵害したのは被告パズルAのみであるから,被告が原告の複製権侵害の行為により受けた利益は,上記135万1820円に80分の1を乗じた1万6897円とみるのが相当である。

イ上記認定の事実によれば,「左脳を鍛える大人のパズル」の執筆により,被告が得た利益は,原稿料25万円と印税92万8500円(619円×2%×7万5000部)の合計117万8500円である(上記第2の1(11)(13))。同書籍には83問が収録されており(弁論の全趣旨),そのうち被告が原告の複製権を侵害したのは被告パズルE及びFであるから,被告が原告の複製権侵害の行為により受けた利益は,上記117万8500円に83分の2を乗じた2万8397円とみるのが相当である。

(2) 慰謝料について

 被告が原告パズルA,E,Fを複製又は翻案した被告パズルA,E,Fを著作者である原告の氏名を表示することなく「右脳を鍛える大人のパズル」及び「左脳を鍛える大人のパズル」に掲載したことにより,原告は,原告パズルA,E,Fについて有する氏名表示権を侵害されている。また,被告パズルA,E,Fは原告に無断で原告パズルA,E,Fに改変を加えたものであり,原告が有する同一性保持権をも侵害している。そして,本件訴訟に顕れた事情を総合すれば,氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害に基づき原告が被った精神的苦痛を慰謝するには,20万円をもって相当と認める。


3 結論


 よって,原告の本訴請求は,主文掲記の限度で理由があり,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


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