●平成17(ネ)10103 特許権 民事訴訟「施工面敷設ブロック」(2)

 本日も、昨日に続いて『平成17(ネ)10103 特許権 民事訴訟「施工面敷設ブロック」平成17年12月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/592E621A83157EFE492570E500245013.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点1の文言侵害の残りについて取り上げます。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官  篠原 勝美、裁判官 宍戸 充、裁判官 青柳馨)は、


1 争点1(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか)について

・・・

(3)次に,本件明細書において,「ブロック」の語の技術的意義を探究するために,本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面について検討すると,次のとおりの記載がある(甲2の1)。


ア 【産業上の利用分野】

 「この発明は施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する。」(段落【0001】)

イ 【従来の技術】
 「従来,土地造成,道路開設,或いは土手の工事等においては,傾斜面や路面をコンクリートブロックにて覆工する工事が行なわれている。また・・・」(段落【0002】)

ウ 【発明が解決しようとする問題点】
 「この発明は施工面に対するブロック敷設が極めて簡単で,従って短い工期,工費で敷設でき,植物育成も活性にする,更には製造の簡単な施工面敷設ブロックを提供する。」(段落【0004】)

エ 【作用】
 「ネットにブロックに設けた引留具を通し掛けにするのみで多数のブロックをネットに結合した敷設ブロックが容易に形成でき,ネットとブロックは互いに結合しながら,その界面において実質的に互いに遊離した状態を形成できる。」(段落【0006】)

オ 【実施例】

 「以下本発明の実施例を図1乃至図4に基いて説明する。1はネット,2は施工面覆工用のブロックであり,ブロック2には上記ネット1の経糸又は緯糸1aを通し掛けにする引留具3を設けて,多数のブロック2をネット1に結合する。ネット1は例えば合成樹脂製ネットであり,又ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。上記ブロック2の成形時に引留具3を一体成形したものを準備し,このブロック2の引留具3にネット1の経糸又は緯糸1aを引通し,ネット1に多数のブロック2を結合する。」(段落【0008】〜【0011】)


カ 【発明の効果】

 「上記施工面敷設ブロックによれば,ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合する構成としたので,施工面に対する馴染性が極めて良好であり,施工面の凹凸を吸収して密着施工が行なえ,又広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易且つ迅速に行なえる。又ネットに結合された個々のブロック間における植物育成も助長することができる。又ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けするのみで,ネットに多数のブロックを結合する敷設ブロックが容易に製造できる。」(段落【0015】)


キ 図1ないし図4には,人工素材による成形品としてのブロックに引留具を一体成形し,その引通し孔にネットの経糸及び緯糸を引き通し,これにより多数のブロックをネットに結合したものが図示されており,自然石を使用したものは図示されていない。


(4) 本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面の上記記載によれば,本件発明は,施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する発明であるから,施工面をコンクリートブロックで覆工するに当たって,そのために用いるブロックが「コンクリートブロック」であることは明らかである。そして,発明の詳細な説明の本件発明自体についての記載(実施例以外の記載)において,「ブロック」の語が「コンクリートブロック」の意味と矛盾するものは見当たらない。


 実施例の上記記載によれば,「金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したもの」,「タイル」,「レンガブロック」,「木質製又は合成樹脂製ブロック」をも本件発明の「ブロック」としているが,その他は何らの記載もなく,具体的にどのようなブロックをいうのかについて明らかでなく,要するに,上記実施例の記載は,「コンクリートブロック」が主体であるが,「コンクリートブロック」のみとするのではなく,それに類するものを排除しないという趣旨と理解するほかない。


 そして,「コンクリートブロック」は,主として,セメントと砂の混練物から成るのであり,実施例に列挙されたそれに類するものもいずれも人工素材から成る成形品である。その一方で,本件発明の「ブロック」に自然石が含まれるかについては,本件明細書の発明の詳細な説明にも本件図面にも記載がなく,示唆もされていない。


 また,本件発明の構成要件Aは,「ブロックの敷設面に設けた引留具」に「ネットの経糸又は緯糸」を「通し掛けにして多数のブロックをネットに結合」するものであるところ,上記(3)カのとおり,本件明細書の【発明の効果】欄に,「ネットの経糸又は緯糸にブロックに設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合する構成としたので,施工面に対する馴染性が極めて良好であり,施工面の凹凸を吸収して密着施工が行なえ,又広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易且つ迅速に行なえる。」と記載されていることからすると,広域の施工面に対するブロック覆工作業が極めて容易かつ迅速に行われるとの効果は,引留具にネットの経糸又は緯糸を通し掛けするのみで多数のブロックをネットに結合することができる構成としていることに基づくものと認められる。これに対し,自然石をブロックとして用いる場合には,自然石の敷設面に引留具を設けるために,自然石を加工しなければならないところ,コンクリートブロックとは形状,硬度が異なり,また,自然石ごとにも,形状,硬度,その他加工上の特性が異なるので,引留具の取付方法において,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されているブロック覆工作業とは異質な技術を必要とすることになり(乙1,13〜15,19),そのため,ブロックに関する特許や実用新案の出願に当たっては,当該特許発明ないし考案が自然石を対象とするものであるか否かが明示されることが多く,自然石とコンクリートブロックの両方を対象とする場合にもその旨が明記されることが多い(甲31−1〜6,32−1〜3,35−1,乙20〜22)。


 これらの事情に照らすと,本件発明の「ブロック」に人工素材から成る成形品のみならず「自然石」を含めるのであれば,その旨を本件明細書に明記した上で,自然石から成るブロックに対する「引留具」の取付方法についても,人工素材から成るブロックの場合とは区別して,本件明細書に記載すべきものである。ところが,本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面に,「自然石」を「ブロック」として使用する場合に生じる特有の技術的事項,例えば,どのような手法,手順で「自然石ブロック」の敷設面に引留具を設けるのか等について何らの記載や示唆もない。


(5) 以上によれば,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品であって,人工素材とはいえない「自然石」を包含しないものと解すべきである。


 これに対し,控訴人製品は,いずれも自然石を使用するものである。すなわち,長野物件は,原判決別紙物件目録の長野物件説明書記載のとおり,多数の自然石にアンカ孔を設け,この孔に,スリーブとアンカピンから成るアンカ部材を打ち込み,このアンカ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金具を自然石に固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させることにより,多数の自然石を亀甲金網と結合するものであり,岩手物件も,原判決別紙物件目録の岩手物件説明書記載のとおり,自然石にアンカ孔を設け,この孔に,スリーブ部材とテーパ状とボルトから成るアンカ部材を打ち込み,このアンカ部材に固定金具を固定することにより,金網把持部を備えた固定金具を自然石に固定し,その際にこの金網把持部により亀甲金網のねじり部を把持させることにより,多数の自然石を亀甲金網と結合するものである。


 「自然石」が「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品といえないことは上記認定のとおりであるから,被控訴人製品は,いずれも本件発明の構成要件Aを充足するものといえない。


(6)控訴人のその余の主張について


ア 控訴人は,原判決が,本件発明の「ブロック」を「人工素材による成形品としてのブロック」であると認定したことについて,特許発明の技術的範囲を発明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈するものであって,本件明細書の記載並びに本件図面の参酌の範囲を著しく逸脱しており,特許法70条2項の立法趣旨に違背するなどと主張する。


 しかし,本件発明の「ブロック」が「人工素材から成る成形品としてのブロック」であるとの認定は,上記のとおり,発明の詳細な説明の本件発明自体に関する記載及び実施例の記載の解釈から導かれるものであり,実施例に限定して解釈したものではないことは,上記判示から明らかである。


 なお,控訴人は,平成6年改正工業所有権法の解説の記述を引用して,原判決の判断が特許法旧70条2項に違背する旨主張するが,上記(5)のとおり,合理的な理由により,本件発明の「ブロック」が「人工素材による成形品としてのブロック」であると認定されているのであるから,控訴人の上記主張は,失当である。


イ 控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】)の記載の趣旨は,「ブロック」にはコンクリートブロック以外の種々の材質のブロックが含まれる趣旨を表現していると解すべきであり,上記「ブロック」の種々の例示,記載趣旨に基づき,請求項1に「ブロック」と規定し,「ブロック」の概念に含まれるコンクリートのかたまり(コンクリートブロック)や,「石」(自然石)のかたまり,すなわち,自然石ブロックを含む趣旨である旨主張する。


 しかし,上記(5)に判示したとおり,本件発明の「ブロック」は「自然石」を包含しないから,控訴人の主張は,採用の限りでない。


 また,控訴人は,発明の詳細な説明の段落【0010】に例示している「木質製ブロック」には,木材又は間伐材等の立ち木そのものを輪切りにしてブロック化した木ブロックが包含され,このような「木質製ブロック」の代表例である木ブロックは,「人工素材から成る成形品としてのブロック」ではない旨主張する。


 しかし,発明の詳細な説明には,「木質製ブロック」という記載があるのみであり,それがどのようなものであるかについての記載は皆無であるから,控訴人は,本件明細書の記載に基づかない主張をするものであるばかりでなく,「木質」とは,木の性質を有することであり,「木質製」とは,その意味は必ずしも明確ではないが,「木質」のものから製造されたといった程度の意味と解されるところ,立ち木そのものを輪切りにしてブロック化したものは,正に「木」そのものであって「木質製」といえないものと解される。


 いずれにせよ,控訴人の上記主張は失当である。


ウ 控訴人は,本件明細書において,「コンクリートブロック」の用語と「ブロック」の用語とを明確に使い分け,材質を意味するコンクリートを冠しない「ブロック」の用語をもって発明を特定しているから,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても,本件発明の「ブロック」は,「コンクリートブロック」に限定されず,自然石ブロックも含まれる旨主張する。


 しかしながら,上記(1)のとおり,特許明細書の用語はその有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すること,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することが求められているところ,本件明細書の発明の詳細な説明において,「ブロック」と「コンクリートブロック」とが区別して使い分けられているとはいい難く,また,使い分けるための定義も見当たらない。


 かえって,例えば,上記(3)アの「この発明は施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する敷設ブロックに関する。」(段落【0001】)の記載をみると,施工面をコンクリートブロックで覆工する場合に使用する「敷設ブロック」は「コンクリートブロック」以外にはないことが明らかである。その他,上記(3)オの【実施例】欄の「ブロック2はセメントと砂の混練物を主材とする。又はこのブロック2は金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したものを使用する。又このブロック2はタイルやレンガブロックである。又このブロックは木質製又は合成樹脂製ブロックである。」との記載は,上記(4)のとおり,「コンクリートブロック」以外の人工素材から成る成形品を含んでいるものと認められるが,「タイルやレンガブロック」あるいは「木質製又は合成樹脂製ブロック」とされており,「コンクリートブロック」ではないことが明確にされている。


 したがって,本件明細書において「コンクリートブロック」の用語と「ブロック」の用語とを使い分けているとする,控訴人の上記主張は,何らの根拠もないものというほかなく,失当である。


エ 控訴人は,覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」や「自然石」を用いることは,本件出願当時,当業者に自明であり,「ブロック」の意味が,法面覆工の代表的工法に用いられる「コンクリートブロック」と「自然石」を含むものとして当業者に普通に認識されていたから,本件発明の「ブロック」も,この当業者の通常の認識に従って解すべきであると主張する。


 確かに,証拠(甲31−1,乙3,14,15)及び弁論の全趣旨によれば,河川等の護岸工事における法面覆工の工法としては,コンクリートブロックを用いる工法と自然石を用いる工法とが,その代表的な例として存在し,覆工ブロックとして,「コンクリートブロック」及び「自然石」を用いる方法があることは,本件出願当時,当業者において自明であったと認められる。


 しかし,このように「コンクリートブロック」及び「自然石」を用いる方法があり,それがどのようなものであるかを知っている当業者であれば,かえって,「コンクリートブロック」と「自然石」とを混同することはないはずであって,本件明細書の発明の詳細な説明の上記(3)の記載から,本件発明が「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品を用いる覆工ブロックに係る発明であって,「自然石」を用いる覆工ブロックに係る発明ではないと理解するものと認めるのが相当であり,控訴人の主張は,採用の限りでない。


オ 控訴人は,本件特許の本質的特徴が,ネットの経糸又は緯糸にブロックを通し掛けにすることで,それまでのネットにブロックを接着剤で固定していたものより,容易かつ迅速にブロック敷設が出来るようになったということであるから,ブロックとして何を用い,そのブロックに引留具をどのように取り付けるかということと,ネットに引留具を通し掛けにすることは何らの関係もなく,自然石に引留具を一体成形できないからといって,通し掛けが複雑,困難になるわけではないと主張する。


 しかし,上記(3)〜(5)で認定したとおり,本件発明の構成要件Aの「ブロック」は,「コンクリートブロック」及びそれに類する人工素材から成る成形品であって,人工素材とはいえない「自然石」を包含しないのであり,仮に,本件明細書から,直ちに,ブロックの成形時に引留具を一体成形できるものでなければならないとはいえないとしても,そのことによって,本件発明の構成要件Aの「ブロック」に自然石が含まれないとの判断を左右するものとはなり得ない。


 控訴人は,「ブロック」に「引留具」を事前に取り付けて事後的に「ネット」に引き通しする場合と,「ネット」に「引留具」を事前に引き通して「ブロック」に事後的に取り付ける場合とでは,「引留具」の取り付け手順が異なるのみで,上記本件発明の本質的特徴においては全く異なることがないなどとも主張するが,そのことが,本件発明の構成要件Aの「ブロック」に自然石が含まれないとの判断を左右するものとはなり得ないことは,上記判示と同様である。


カ 控訴人は,その他にもるる主張するが,上述してきたところに照らし,すべて失当である。


(7) 以上によれば,被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足せず,被控訴人製品は,本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。 』


 と判示されました。
  
 争点2の均等侵害は、明日、取り上げます。