●平成17(ネ)10103 特許権 民事訴訟「施工面敷設ブロック」(1)

 本日は、2年少し前に出された判決ですが、取り上げていなかった『平成17(ネ)10103 特許権 民事訴訟「施工面敷設ブロック」平成17年12月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/592E621A83157EFE492570E500245013.pdf)について取り上げます。


 本件では、特許請求の範囲中の用語の「ブロック」にイ号の「自然石」が含まれるのか否かが問題になり、争点1では文言侵害、争点2では均等侵害が争われました。


 そして、争点1の文言侵害では、知財高裁は、特許発明の技術的範囲の解釈は、明細書の記載を参酌して判断するのが原則であり、リパーゼ最高裁は出願人が特許を受けようとする発明として特許請求の範囲に記載して提示した発明の要旨の認定について判示したもので、特許発明の技術的範囲の解釈に結び付けられるべきものではないと判示しています。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官  篠原勝美、裁判官 宍戸充、裁判官 青柳馨)は、


1 争点1(被控訴人製品の構成は,本件発明の構成要件Aを充足するか)について

(1)特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ,その際には,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきである(平成14年法律24号による改正前の特許法70条〔以下「特許法旧70条」という。〕1項及び2項)。


 この点について,控訴人は,最高裁平成3年3月8日判決の「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない」との判示を引用して,発明の詳細な説明に記載された事項をもって特許請求の範囲を限定すべきではない旨主張する。


 しかしながら,上記判決は,控訴人引用部分の直前に,「特許法29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。」との記載があるとおり,特許庁が特許処分を行う前提として,出願人が特許を受けようとする発明として特許請求の範囲に記載して提示した発明の要旨の認定について判示したものであり,直ちに特許発明の技術的範囲の解釈に結び付けられるべきものではない。


 そして,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないが,その記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として明細書の他の部分にされている発明の構成及び作用効果を考慮することは,なんら差し支えないものと解すべきであり(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・判時781号69頁参照),特許法旧70条2項は,その当然のことを明確にしたものと解すべきである。


 そもそも,特許明細書の用語,文章は,(i)明細書の技術用語は学術用語を用いること,(ii)用語はその有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すること,(iii)特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用すること,(iv)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とは矛盾してはならず,字句は統一して使用することが必要であるところ(特許法施行規則様式29〔備考〕7,8,14イ),特許発明の技術的範囲の解釈に当たり,特許請求の範囲の用語,文章を理解し,正しく技術的意義を把握するためには,明細書の発明の詳細な説明等を検討せざるを得ないものである。


 もっとも,ある種の化学物質のように,構造式によって一義的に特定することができることがあり,そのような場合は,特許発明の技術的範囲を確定するために明細書の記載を考慮する余地はないが,こうした例外的な場合を除けば,明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈することは,なんら差し支えないものと解すべきである。


(2) 本件についてみると,特許請求の範囲には,「ネットの経糸又は緯糸にブロックの敷設面に設けた引留具を通し掛けにして多数のブロックをネットに結合し」と規定されているところ,「ブロック」は,「(i)かたまり。角塊。(vii)コンクリート−ブロックの略。コンクリートで作った工事材料」(広辞苑第2版),「かたまり。角塊。『コンクリート‐―』」(広辞苑第3版),「かたまり。角塊。『コンクリート‐―』『―塀』」(広辞苑第4版,甲21),「(i)かたまり。角塊。『―肉』(ii)コンクリートブロックの略。『―塀』」(広辞苑第5版,乙12−2),「(i)(ア)かたまり,(イ)コンクリート−ブロックのこと(大辞林第1版,第2版),「かたまりのもの。(イ)四角な石材。またはコンクリートのかたまり。」(岩波国語辞典第4版,乙12−1)等といった意味のものとされ,多義的な意味を有するが,少なくとも,「ブロック」が「コンクリートブロック」の略称の意味を有することは,本件出願当時,本件の技術分野のみならず一般的にも周知の事項であったということができ,この事実は,当裁判所に顕著である。それに,本件発明の技術分野が土木工事であることを考慮すると,「ブロック」といえば,まずは「コンクリートブロック」の意味と考えるのが通常であるというべきである。


 控訴人は,本件発明の「ブロック」は,上位概念として「かたまり」の語義を有し,その下位概念として「コンクリートブロック」すなわち「コンクリートのかたまり」,「自然石ブロック」すなわち「自然石のかたまり」が位置付けられるとし,本件発明の「ブロック」の語は,第一義的に「かたまり」と解すべきである旨主張する。


 しかし,上記「ブロック」の用語例に従うと,「コンクリートブロック」は,「かたまり」と同列の後順位にあるものであって,「かたまり」の下位概念ではない。そして,少なくとも,上記用語例をみる限り,「ブロック」には,「自然石ブロック」あるいは「自然石のかたまり」の意味は含まれていないから,「自然石ブロック」を「かたまり」の下位概念とするのも誤っているというべきである。結局,控訴人の上記主張は,既にその前提において失当であるというほかない。


 なお,控訴人は,広辞苑第5版が平成10年に発行されたものであり,その発行の時点で,「ブロック」の項に,「(ii)コンクリートブロックの略」の意味を追加したものであるとし,本件出願当時の発明者及び出願人の思考は,それ以前に発行されている辞典に従い,「ブロック」が「かたまり」を意味するものと解して特定したものと解するのが自然である旨主張する。


 しかしながら,上記のとおり,広辞苑第2版では,「ブロック」の項に,「(vii)コンクリート−ブロックの略」の記載があり,それを,広辞苑第3版,第4版では,「コンクリート‐―」の記載としていたところ,広辞苑第5版において,再び,「(v)コンクリート−ブロックの略」の記載を復活させたものであって,広辞苑の上記変遷は,「ブロック」が「コンクリートブロック」の略称の意味を有することが,本件出願当時,本件の技術分野のみならず一般的にも周知の事項であったとの事実を少しも損なうものではない。したがって,控訴人の主張は,その前提を欠くものであって,採用の限りでない。 』


 と判示されました。


 明日に続きます。