●平成19(行ケ)10286 審決取消請求事件 商標権「STAR」

  本日は、『平成19(行ケ)10286 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「STAR」平成20年01月30日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080131112643.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法4条1項11号による拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類比判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 田中信義、裁判官 石原直樹、裁判官 杜下弘記)は、


『1 本願商標と引用商標の各構成,本願商標から「スター」の称呼及び「星」等の観念が生ずること並びに両商標に係る指定役務が類似するものであることは,いずれも当事者間に争いがない。


 したがって,本件の争点は,引用商標の称呼が「ザスター」であり,その観念が「その星,あの星等」であることに加え,本願商標から生ずる上記の称呼及び観念,すなわち,「スター」,「星」等が生ずるか否かである。


2 引用商標の称呼及び観念

(1) 引用商標の「THE STAR」の構成は,「THE」と「STAR」の間に1文字の空白があり,かつ,「THE」及び「STAR」は共に中学校において学習する程度の基本語と位置付けられている(乙第1,2号証)ように,我が国において,英語学習の初期に修得する極めて親しみやすい単語であり,両語ともその称呼及び観念が国民の間に広く浸透し親しまれていることは公知の事実であるから,引用商標に接した需用者,取引者がこれを英語の「THE」と「STAR」の2語からなるものと認識するであろうことは容易に推認することができるといわなければならない。


 そして,引用商標の構成中「THE」の部分は,その代表的語義が「その,例の,問題の」であるように,次に続く名詞中の特定のものを限定する機能を有する定冠詞であり,「強いて訳さないでよい場合が多い」とされている(乙第2号証)ように,次に続く名詞に対する限定性ないしは指示性の弱い語である。


 そして,上記認定のとおり,「THE」(the)の語が英語の初歩的な基本語として国民の間に広く浸透していることからすると,引用商標の構成中,「THE」の部分が有する限定性は弱く,同部分の自他商品識別機能は薄弱であって,引用商標に係る需用者,取引者が,「THE STAR」のうち「STAR」の部分のみに着目することは十分あり得るものというべきである。


 引用商標から,その構成に即して,「ザスター」の称呼及び「その星,その星形のもの,その運勢」との観念が生じることは明らかであるが,以上に説示したところに照らすならば,それに止まらず,単に「スター」との称呼及び「星,星形のもの,運勢」との観念を生じることを否定することは困難であるといわざるを得ない。


(2) 原告の主張について

 原告は,わずか7文字のアルファベットを用いる標準文字から構成される引用商標から「STAR」の部分のみを分離抽出すべき理由はないと主張するが,前項に説示した引用商標の構成,各構成語の称呼及び観念並びに各構成語の我が国における浸透度等に照らすと,引用商標から本願商標と同様の称呼及び観念が生ずることを否定することは困難であるから,原告の主張は失当である。


 また,原告は,「THE」自体は特に意味を有さない語として知られているとしても,後につづく語を限定,特定等する意味,機能を有するものであり,特に,最近の商標選択の傾向としては,英語の定冠詞「THE」又はこれに通じる日本語「ザ」を名詞の前に添加して格別のニュアンスを持たせ,単なる名詞とは区別して使用している事例が数多く存在し,同旨の判断をする審決例(平成11年審判第35213号(甲第1号証),昭和59年審判第14810号(甲第2号証))もあると主張する。


 確かに,原告の挙げる上記審決例は,「The Class」なる文字部分が商品の出所標識としての機能を果たし得ることを認めた上で,上記2文字の不可分一体性は強く,「ザクラス」の称呼を生ずるものである旨説示しているところである。しかし,その理由付けは必ずしも首肯するに足りるものとはいえず,これをもって前記(1)の判断を左右するには足りない。また,原告が引用する甲第2号証の登録異議の決定においては,「ザ・デイナー」の文字部分から「ザデイナー」の称呼のみが生ずる旨認定しているところであるが,この例においては,英語の定冠詞「The」を「ザ・」と表示している点において本件とは異なるから,これを同列に論ずることは相当ではない。したがって,上記の原告主張は採用することができない。


 さらに,原告は,引用商標に先行していずれも「スター」の称呼を生じ,かつ,これらの商標の指定役務と引用商標の指定役務とは明らかに同一又は類似の商標についての商標登録が存在することからすると,引用商標はこれら商標とは非類似のもの,すなわち引用商標の称呼は「ザスター」であり,「スター」の称呼を生じないと判断されたものと考えるべきであると主張する。


 しかし,仮に,上記のような推認が可能であるとしても,これをもって,上記2(1)で説示した引用商標から「スター」の称呼及び観念が生ずる旨の認定判断を左右するには足りないから,原告の上記主張を採用することはできない。


 加えて,原告は,仮に引用商標から「スター」の称呼を生じるとするのであれば,引用商標が登録されたことと整合的に説明できないとも主張する。


 確かに,商標の登録査定において類否の判断が整合的に行われることは重要な行政的要請であることは原告の主張するとおりであるところ,引用商標の称呼に関する原告の上記推認を前提とするならば,引用商標に係る称呼の認定判断に整合性を欠いた事態も否定できないこととなるが,かかる事態の存在をもって,前記2(1)で説示した引用商標の称呼及び観念に関する認定判断を左右することはできないから,この点に関する原告主張も採用することはできない。


3 上記1及び2によると,本願商標と引用商標は,称呼及び観念を共通にするものであるから,本願商標と引用商標は類似の商標であるというほかはなく,これと同旨の審決の認定判断に誤りはない。


第6 結論


 以上のとおり,審決取消事由は理由がないから,原告の請求を棄却するべきである。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。