●平成19(行ケ)10113 審決取消請求事件「INTELLASSET」

  本日は、『平成19(行ケ)10113 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「INTELLASSET」平成19年12月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071221113702.pdf)について取り上げます。


  本件は、商標法4条1項8号等違反等を理由とする商標登録無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。
 

 本件では、商標法4条1項8号の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官田中信義 裁判官古閑裕二 裁判官浅井憲)は、


1 取消事由4(商標法4条1項8号該当性判断の誤り)について

(1) 外観

 本件商標は,別紙1の構成から成るものであり,両端をぼかして描いた朱色の水平線を介して,その上部に「INTELLASSET」の文字(以下「本件商標の文字部分」という。)が等間隔に,その下部の中央部に本件商標の文字部分より小さく「GROUP」の文字が等間隔にそれぞれ配されている。また,本件商標の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている。


 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は,「Intel Corporation」であることが認められる。


 なお,引用商標は,別紙2ないし12のとおりの構成から成り,引用商標1,2,4,5,7,10及び11は,英字の「INTEL」を大文字のみで綴ったものであり,引用商標3,8及び9は,英字の「intel」を小文字のみで綴って,「e」の文字を他の文字より低く配置したものであり,引用商標6は,片仮名で「インテル」と綴ったものである(以下,引用商標1ないし5及び7ないし11を総称して「英字引用商標」という。)。引用商標は,いずれも文字のみで構成され,各文字は等間隔に配置されている。


 これらを対比して考察すると,本件商標の文字部分はローマ字11文字から成り,英字引用商標はローマ字5文字から成るが,本件商標の文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字が英字引用商標「INTEL」及び原告の名称の冒頭部分と同一である。すなわち,本件商標の文字部分の冒頭には,英字引用商標及び原告の名称の一部の文字が包含されている。


(2) 称呼

 本件商標の「INTELLASSET」の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,「ASSET」は英語の既存の単語として存在することからすれば,「ASSET」の部分から,その単語の発音に従い,「アセット」の称呼が生ずることまでは直ちに認識される。次に,「INTELL」は既存の語ではないため,各表音文字の音に従い,「インテル」の称呼が生じる。そして,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はないから,「INTELLASSET」を連続して発音すれば,「インテラセット」の称呼が生じ得るが,「I」と「A」の文字が他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている点に着目すれば,2語から構成されるものとして,「INTELL」の後で一旦切って,次の「ASSET」を発音する称呼も生ずると考えられ,この場合は「インテルアセット」の称呼を生ずるものと認められる。


 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は「Intel Corporation」であり,「インテルコーポレーション」の称呼を生ずる。


 なお,引用商標は,別紙2ないし12の構成から成るものであり,引用商標6の称呼は「インテル」であり,英字引用商標の「INTEL」は既存の単語にはないため,各表音文字の音に従い,いずれも「インテル」と称呼される。


 本件商標から「インテルアセット」との称呼も生じ得ることからすれば,本件商標の冒頭部分の称呼の4音が引用商標の称呼及び原告の名称の冒頭部分と同一である場合があり,この場合には,本件商標の冒頭には,引用商標及び原告の名称の一部の称呼が包含される。


(3) 観念

ア 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれているから,本件商標は,「INTELL」と「ASSET」の2語から成るものとして,「ASSET」の部分を既存の英単語として認識することができ,「ASSET」の意味として一般に親しまれている「資産,財産」の観念が生じ得る。しかし,「INTELL」は,既存の英単語にないから,この部分から特定の観念が生ずるものとはいえない。


イ 被告は,本件商標が「intelligent asset」からの造語であると主張し,「INTELL」から「intelligent」や「intellectual」を連想するのが自然であると主張する。


 乙第22号証によれば,「intell」で始まる英単語はいずれも,名詞の「intellect」又は「intelligence」と語幹を同じくする語又はこれらを含む派生語であることが認められる。しかし,乙第22号証は英和辞典であり,上記の点は辞書による検索の結果初めて認識されるものであって,語頭が「intelli」ならばともかく,「INTELL」という綴りに接しただけでは,需要者が「intelligent」や「intellectual」を直ちに連想するものと認めるに足りる証拠はない。


 他方,甲第15号証によれば,引用商標の「INTEL」は,「INTegrated ELectronics」の下線部分の文字を語源とするものであり,「intelligent」や「intellectual」の語とは無関係に作られた造語であることが認められる。しかし,この点も,需要者が一語となった「INTEL」という綴りに接しただけで認識し得るものとはいえない。


ウ 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,かつ,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)がないことに着目すると,「INTELLASSET」は,「INTELL」と「ASSET」とを合わせて1語とした造語であると認識され,「ASSET」が「資産,財産」の意味の名詞であるから,需要者には,「INTELL」は「ASSET」の修飾語であると認識され,「INTELL」の意味が不明でも,「『INTELL』な資産,財産」という観念までは生ずると認められる。


 原告は,出所識別標識として語頭部分が重要であり,「ASSET」の語は「資産,財産」を意味する普通名詞であるから,「ASSET」の部分の自他識別力の程度は極めて弱く,「INTELLASSET」のうち,冒頭の「INTEL」の文字が引用商標及び原告の名称の冒頭部分と一致する点を重視すべきであると主張する。


 確かに,「ASSET」の語は「資産,財産」を意味する普通名詞ではあるが,「資産,財産」という語自体が財産的価値のあるものを総称していうときの抽象的一般的概念を表わすものであり,特定の資産や財産を意味するものではない。また,「ASSET」の語は,「BANK」や「INSURANCE」のように特定の業種や役務を表わすものともいえないから,「ASSET」の部分の自他識別力の程度が極めて弱いともいえない。


 なお,「アセットマネジメント」との語が用いられていれば,資産の運用に関する業務との観念が生じ得るが,「アセット」だけでこの観念が生ずるとはいえず,「アセット」が「アセットマネジメント」の略称として一般に用いられていると認めるに足りる証拠もない。


 「INTELL」が既製語にはないのに対して,「ASSET」は一般に「資産,財産」の意味であると認識されるから,「INTELLASSET」から生ずる観念としては,「ASSET」を軽視することはできず,何らかの「資産,財産」,少なくとも「資産,財産」に関する何らかの観念が生じるものというべきである。


(4) 原告の略称としての「INTEL」の著名性

ア 原告は,1968年,アメリカ合衆国カリフォルニア州シリコンバレー集積回路の研究・開発・販売を主軸とする半導体製造メーカーとして誕生し,前項イに認定したとおり,社名を「INTegrated Electronics」の2語から造語した「INTEL」とし,1970年にICメモリ1103を,1971年には我が国企業の依頼に基づきマイクロプロセッサ4004をいずれも世界で初めて開発・製造し,以後,MPU(超小型演算処理装置)の分野において常に先進的製品(1993年インテルPentiumプロセッサを,1998年にはインテルCeleronプロセッサを,1999年にはインテルItaniumプロセッサ等)を開発・販売し続ける世界的メーカーとして,半導体製品の売上高において,1992年から2002年まで連続して世界一を達成する(1990年代にMPUの金額ベースの世界市場占有率で約8割に達している。)など世界規模で事業展開を進めている企業である(甲第8,第15及び第16号証)。


 原告は,MPU自体はパソコン内部に組み込まれる部品に過ぎないが,エンドユーザーである消費者に原告社製の高性能・高コスト効率・高信頼性のMPUが使用されているパソコンであることを印象付けるとのブランド戦略に基づき,1991年4月,ウオール・ストリート・ジャーナル紙に掲載されたIBM社製のパソコンの広告に初めて「Intel Inside」の文字の入ったロゴ・マークを採用した。原告は,「Intel Inside」の文字の入ったロゴ・マークを同社のMPUが組み込まれたパソコンの表面に貼り付けるなどし,パソコン製造メーカーには上記ロゴ・マークが貼付されたパソコンの販売台数に応じて報奨金を提供するなど,2000年頃までにその宣伝活動に70億ドル以上の資金を投入した。その結果,「Intel Inside」の文字の入ったロゴ・マークが貼付されたパソコンは,「最新のテクノロジー・最高の品質・信頼性」を備えたものであることを消費者に印象付けることに成功してきた(甲第72,第73,第138及び第139号証)。


 ・・・省略・・・


イ 以上の事実関係からすると,「INTEL」は,本件商標が出願された平成14(2002)年当時において,パソコンを日常生活や業務で使用するなどパソコンに何らかの関係を有する極めて広範囲の国民の間に,「INTEL」といえば原告(インテルコーポレーション)を表わす略称として広く知れ渡っていたものと推認することができる。


 なお,「カタカナ・外来語/略語辞典」67頁(甲第142号証)によれば,「インテル(Intel)」の語には,「活字の行間を適当な広さにするためにはさむ鉛合金板」との意味もあることが認められるが,その意味から明らかなように印刷業の分野における専門用語であり,このような意味を一般国民が認識しているものとはいえない。


(5) 「INTELL」が既製語にはなく,それ自体から特定の観念は生じないものの,上記(4)のとおり,「INTEL」は,原告の略称として広く認識されており,本件商標の文字部分「INTELLASSET」の冒頭には,原告の著名な略称である「INTEL」が包含されることは一見して明らかであるし,また,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれ,「INTELL」と「ASSET」とを分けて認識させることから,「インテルアセット」の称呼も生じ得ることは,前記(2)に説示したとおりである。


 確かに,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はなく,「INTELLASSET」全体を1語として認識することができ,「INTELL」は上記著名な略称と完全には一致せず,本件商標には,文字部分のほかに,朱色の水平線及び「GROUP」の文字も配置されている。


 しかし,「INTELL」と「INTEL」の相違は,最後の「L」1文字にすぎず,微差であり,いずれも「インテル」の称呼を生ずる綴りである。


 また,「GROUP」の部分は,企業又は人の集まりとの観念を生じるにすぎないし,朱色の水平線も本件商標の文字部分に比して目立つものではないから,出所識別に何ら寄与しない。


 被告は,本件商標の文字部分「INTELLASSET」において,「INTELL」は,商標に採択されることの多い「intelligent」や「intellectual」の略語であるから,冒頭の「INTEL」にのみ着目すると,これらの語で始まる全ての商標について,原告の独占を認めることになり,このような広範な独占は,商標法の本来予定するところではないと主張する。


 しかし,「INTELL」が「intelligent」や「intellectual」の略語として,広く定着していると認めるに足りる証拠はないから,被告の主張を採用することはできない。


 これらを総合して判断すれば,本件商標に接した需要者は,その文字部分「INTELLASSET」から「資産,財産」の観念を感得するとともに,原告の著名な略称である「INTEL」をも認識し,ひいては原告を想起すると認められる。


 被告が「INTEL」の使用につき,原告の承諾を得たと認めるに足りる証拠はないから,本件商標は,商標法4条1項8号の商標に該当する。したがって,この点に関する審決の判断は誤りである。


2 結論

 以上に検討したところによれば,本件商標が商標法4条1項8号に該当しないとした審決の判断には誤りがあり,この点に関する取消事由には理由があるから,その余の審決取消事由について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。


 よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。