●平成18(ワ)8621商標権侵害差止等請求事件「マイクロクロス」(4)

  本日も、『平成18(ワ)8621 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「マイクロクロス」平成19年12月13日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071213154152.pdf)について取り上げます。


 本日は、争点(4)の「原告らの損害額」について取り上げます。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官山田知司 裁判官高松宏之 裁判官村上誠子)は、


5 争点(4)(損害額)について

(1) 原告マイクロクロス社の損害賠償請求は上記のとおり理由がないから,原告ワンズハートの損害額についてのみ判断する。


(2) 原告ワンズハートは,商標使用料相当額による損害額を主張しており,これは商標法38条3項に基づく主張をするものと解される。そして,同原告は,本件商標権の使用許諾をする際には商品1個当たり500円の使用料を徴収しているとして,ジャパンケミテックとの使用許諾契約の例を挙げている。


 原告ワンズハートとジャパンケミテックとの間の「商標権使用契約書」と題する書面(甲16)には「, 商標権使用料は製品1個につき金500円の使用料とする。」との記載がある。また,ジャパンケミテック宛の原告マイクロクロス社作成の2006年(平成18年)8月3日付けの請求書(甲29)には,平成18年7月分の本件商標権の使用料として商品1個当たり500円で計算された金額が記載されており,原告マイクロクロス社の口座名義の預金通帳(甲30)によれば,平成18年8月8日に同請求書記載の請求金額が原告マイクロクロス社の普通預金口座に振り込まれたことが認められる。


 しかし,まず,上記契約書については,原告らは,当初,ジャパンケミテックとの間の商標権使用契約書であるとして甲第16号証を提出し(平成19年4月27日付原告第4準備書面),そこには上記のとおりの商標使用料の記載があるが,原告らは後にこれを訂正し,契約当初の平成17年6月1日に作成された契約書は甲第27号証のものであったが,そこには商標使用料の定めが記載されていなかったため,平成19年2月末に追加の形で作成したのが甲第16号証であると主張するに至った(平成19年5月31日付原告第6準備書面)。商標使用料の定めは,商標権の使用許諾契約において最も重要な事柄であるから,当初に作成した契約書(甲27)においてその定めがないというのはいかにも不自然である。

 
 また,ジャパンケミテックによる「マイクロクロス」標章の使用の実情について見ると,同社のホームページ上では,平成19年5月7日の時点では「専用極細繊維クロス」の商品名の商品はあっても,「マイクロクロス」の標章を使用した商品は掲載されていなかった(乙34)。ところが,同年6月19日の時点では,上記「専用極細繊維クロス」の商品が「専用極細マイクロクロス」との商品名に変更されている(甲28。なお同商品のメーカー小売希望価格は2730円とされている。)。このことからして,ジャパンケミテックが平成19年5月以前の時期に本件登録商標を使用していたとは認められないが,そうだとすると,前記平成18年8月8日の金銭支払が商標使用料として支払われたのかについても,疑問を抱かざるを得ない。


 さらに,原告ワンズハートが主張するような製品1個当たり500円という商標使用料は,ジャパンケミテックの「専用極細マイクロクロス」のメーカー小売希望価格(2730円)に対して約18%にも上っており,通常の経済取引における商標使用料としてはおよそ考え難いところがある。加えて,原告ワンズハートが使用許諾している他1社との間の商標使用料を示す証拠も全く提出されていない。


 以上の諸点に鑑みると,本件において原告ワンズハートがジャパンケミテックに対する商標使用料を実際に製品1個当たり500円としてきたとは認めるに足りないというべきである。


(3) そこで,あらためて本件において原告ワンズハートが受けるべき商標使用料相当額について検討するに,本件登録商標は,マイクロファイバー製の布という商品の内容そのものを示すものでないことは前記のとおりであるが,同商品について使用されて,商品の特徴とともに広告されるときには,商品の内容を暗示するものであることから記憶に残りやすく,また「マイクロ」と「クロス」の「クロ」が連続して小気味良い語感もある点で,商標として優れた面があるとはいえる。


 しかし,商標権は,特許権等とは異なり,商品に創作的価値を付与するものではなく,業務上の信用を化体し顧客吸引力を蓄積することによってその価値が高められていくものであるところ,本件登録商標は,その全体の使用実績も明らかでなく(原告マイクロクロス社の使用実績が窺われる甲第13ないし15号証の各号によれば,合計560個の販売にすぎない。),また,宣伝広告も平成15年10月22日に類似標章である「MICRO CLOTH」を使用した商品について1回広告が掲載され,原告マイクロクロス社ホームページが開設されている(甲18ないし22)だけで,特段の周知性を有するとは認められない。この点について原告らは,他社の「マイクロクロス」商品についてのクレームが原告マイクロクロス社に寄せられる点を指摘するが,その数は不明であり,また他社製品を購入した者が原告マイクロクロス社にクレームを寄せてきた経緯も不明であるので,この点から本件登録商標に周知性があるともいえない。


 また,原告ワンズハートは,本件登録商標を独占使用しているわけではなく,原告マイクロクロス社を含めた3社に使用許諾をしている。原告らは,原告ワンズハートは安価な商品や低品質の商品には本件登録商標の使用を断ってきていると主張しているが,原告マイクロクロス社が使用する商品として示された甲第10号証記載の商品は,いわゆるノベルティ用の販促商品であって,少なくとも高価な商品に限定して使用していることは窺えない。


 以上を勘案すると,本件において原告ワンズハートが受けるべき商標使用料相当額は,被告の売上額の3パーセントとするのが相当である。


(4) そうすると,被告による「マイクロクロス」標章を付した被告商品の売上額は,合計636万3656円である(乙30の各号)であるので,本件において原告ワンズハートが受けるべき商標使用料相当額は,その3パーセントに当たる19万0909円となる。


6 まとめ

 以上によれば,原告らの本件請求は,原告ワンズハートが被告に対して,「マイクロクロス」標章を付した被告商品の販売の差止めと,商標権侵害に基づく19万0909円及びこれに対する侵害行為後の平成18年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(原告ワンズハートは年29.2パーセントの割合による遅延損害金を請求するが,民法419条1項,404条により年5分の限度で認められる。)の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求はいずれも理由がない。


 よって,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新に出された知財判決>

●『衝撃のコピーフリー受信機「フリーオ」、その仕組みをひもとく』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071217/289646/
●『』●『ノーテル、ボネージを特許権侵害で提訴』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djBXQ9309.html
●『百度:間もなく特許検索サービスを開始へ』http://www.chinapress.jp/it/7274/
●『米国特許市場最新レポート:“特許の買い手”を理解する(1)』http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q4/555574/
●『EPC2000が発効、欧州の特許審査制度が簡略化(欧州特許庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2385