●平成18(ワ)8621商標権侵害差止等請求事件「マイクロクロス」(1)

  本日は、『平成18(ワ)8621 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「マイクロクロス」平成19年12月13日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071213154152.pdf)について取り上げます。


 本件は、「マイクロクロス」の商標登録に基づく商標権侵害差止等請求事件であり、その請求が認容された事案です。


 本件では、次の4つの争点がありました。

(1) 被告の行為の本件商標権侵害性
 ア 本件登録商標の商標登録は無効審判により無効とされるべきものか。
 イ 被告による「マイクロクロス」標章の使用は,商標法26条1項2号により本件商標権の侵害行為を構成しないものか。
(2) 差止・廃棄請求の可否
(3) 原告マイクロクロス社に対する不法行為の成否
(4) 原告らの損害額


 まずは、争点(1)の「被告の行為の本件商標権侵害性」から取り上げます。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官山田知司 裁判官高松宏之 裁判官村上誠子)は、


1 争点(1)ア(無効理由の有無)について

(1) 本件登録商標は,「マイクロクロス」の標準文字を横書きしてなるものであるが,「マイクロ」は「100万分の1を表す語であり,極小,微小,非常に小さい物」程度の意味を持つ英語であり(乙26の2),「クロス」は「布,布切れ,織物」の意味を持つ英語である(乙18)から,本件登録商標からは「極小・微小の布・織物」といった観念が生じる余地があると認められる。


 ところで,「マイクロ」の語は,上記のとおり物の小ささを表す形容詞にすぎないが,例えば「ミニ」や「スモール」のような単に一般的に小さいことを示す語とは異なり,100万分の1というほどに極小・微小なことを意味するものであることから,布や織物の小ささを示す語としては通常用いられないものである。また,「マイクロクロス」という語が,例えば「マイクロバス」のように慣用語として通常用いられているとも認められない。


 してみれば,本件登録商標が本件商標権1の指定商品である理化学機械器具等のための専用の布,本件商標権2の指定商品である織物等に使用されたとしても,それが商品の品質等を意味するにすぎないとか,自他識別力を欠くとか,商品の品質を誤認させるということはできない。したがって,本件登録商標の商標登録には,商標法3条1項3号及び6号並びに同法4条1項16号に違反する無効理由があるとはいえない。


(2) 以上に対し被告は,本件登録商標からは「マイクロファイバー製の布・布地・織物といった観念」が生じると主張する。そこで,本件登録商標の「マイクロ」の部分から,「マイクロファイバー製である」との認識が生じるかを検討する。


ア 後掲証拠によれば,次の事実が認められる。

(ア) マイクロファイバーについて

 …省略…

(イ) マイクロファイバー製の布製品について

 …省略…

イ 以上に基づき検討する。

 先に認定した各新聞の記載からすると,「マイクロファイバー」は既に平成2年の時点において,日本企業が開発した超極細の合成繊維を指す普通名称として使用されていること,マイクロファイバーを使用した商品は多岐にわたっており,布製品では,昭和62年に東レが眼鏡ふきを発売して以降,各社が競って商品化するようになり,現在では被告商品と同じ各種掃除用ふきんや,洗顔用タオルが商品化されていること,掃除用ふきんにおいては素材であるマイクロファイバーの性質から,汚れを落とす力や吸水性に優れていることが強調されていることが認められる。


 ところで,本件商標権1の指定商品である理化学機械器具等のための専用の布,本件商標権2の指定商品である織物等の需要者は,主として一般消費者であるところ,一般消費者向け(前記ア(ア)aないしcのような産業界向けのものは含まれない。)に超極細繊維を指すのに「マイクロファイバー」の語がどのように使用されているのかを見てみると,商品説明において「マイクロファイバー」の語が単独で使用されている例は前記ア(イ)a,b及びiの3例(e)の「マイクロ繊維」を加えると4例があるが,そのいずれにおいてもマイクロファイバーの構造や性質の説明が付加されている。他方,商品説明において「マイクロファイバー」の語が単独で使用されていない例は,前記ア(イ)d,h,j,k及びlの5例があり,そこでは「超極細繊維」という繊維の内容を端的に日本語で意味する語が併用され,さらにその構造や性質の説明が付加されている。さらには,「マイクロファイバー」の語が使用されていない例も前記ア(イ)e及びgの2例あり,それぞれ「極細繊維」,「超極細繊維」の語のみが使用されている。また,以上は商品の広告やパッケージにおける使用状態であるが,一般消費者が閲読する朝日新聞夕刊での紹介記事(前記ア(ア)e)では,「マイクロファイバー」の語は使用されず,「超極細繊維」の語のみが使用されている。


 これらの状況からすると,マイクロファイバーという超極細繊維は,開発されてから相当の年月が経過したとはいえ,なお一般消費者に対しては構造や性質の説明をしてその効用を訴えることを要する状態にあるということができ,ポリエステルとかナイロンといった通常の合成繊維のように特段の説明を要しないほどに一般消費者の間に浸透した繊維素材になっているとはいえない。まして,「マイクロファイバー」という語については,その語が単独で使用される例よりも,内容を端的に表す「超極細繊維」の語とともに,又はその語のみが使用される例の方が多く,やはり超極細繊維の名称として一般消費者の間に浸透しているとはいえない。


 マイクロファイバー」自体の以上のような浸透度に加え,前記のとおり「マイクロ」の語が単に「極小・微小」を意味する語として一般に知られていること,また「マイクロ○○」という語が「マイクロファイバー製の○○」を示す名称として使用される例も証拠上見られないこと,マイクロファイバー製の布製品でも「マイクロ」が付されない商品があること,本件登録商標は冗長ではなく,かつ「マイクロ」「クロス」と「クロ」が連続して小気味良く一気に発音しやすいため全体として一体感が強いことも併せ考慮すると,本件登録商標「マイクロクロス」から「マイクロ」の部分のみを取り出して,それが「マイクロファイバー」の更にその一部である「マイクロ」に当たるものであって,かつ素材としてのマイクロファイバーを意味する趣旨であると一般に認識されるとは認められない。


 したがって,本件登録商標の登録査定時及び本訴口頭弁論終結時において,本件登録商標の指定商品の需要者において,本件登録商標「マイクロクロス」から「マイクロファイバー製の布・布地・織物」の観念が生じると認めることもできない。


 もっとも,マイクロファイバー製の布製品について,「マイクロタオル」や「マイクロふきん」といった商品名の商品が散見されることは先に認定したとおりではある。しかし,上記のようなマイクロファイバー自体の一般消費者への浸透度を考慮すると,それらの商品名に接した一般消費者において,「マイクロ○○」といえば一般にはマイクロファイバー製のものであるとの認識が生じるとも認め難いから,そのような例があるからといって,上記認定を覆すものではない。


 また,被告は,編みレース地を指定商品として出願された「MICROCOTTON マイクロコットン」なる商標登録出願が,平成15年2月25日に拒絶査定されたこと(乙26の各号)を指摘するが,このような例が一例あるからといって,上記認定判断を左右するものではない。


ウ したがって,本件登録商標の商標登録に,商標法3条1項3号又は6号,同法4条1項16号に違反する無効理由があるとはいえない。


2 争点(1)イ(商標法26条1項2号の適用の有無)について

(1)先に述べたところからすると,現在においても,被告商品に使用された「マイクロクロス」との標章が,商標法26条1項2号に規定する商品の普通名称等に該当するとはいえない。


(2)以上より,被告が「マイクロクロス」との標章を付した被告商品を販売した行為は,本件商標権2を侵害する行為であるといえる。


 なお,前提事実記載のとおり被告商品は本件商標権1の指定商品と同一又は類似の商品とはいえないから,被告の上記行為が本件商標権1を侵害するとはいえず,本件商標権1に基づく請求は理由がない。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10070 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「アポリポ蛋白質の分子変異体の2量体およびその製造方法」平成19年12月13日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071214121033.pdf
●『平成19(ワ)22834 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成19年12月12日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071214143634.pdf
●『平成19(ワ)17959 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟「放電燒結装置」平成19年12月12日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071214143111.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『「NokiaによるQUALCOMM特許の侵害なし」、米国際貿易委員会が仮決定』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/14/news046.html
●『ITC、クアルコムノキアの特許紛争でノキアに有利な判断』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djBXP2584.html
●『ITCがNokiaに有利な見解,「QUALCOMM特許を侵害していない」』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071214/289444/
●『17日から模倣品・海賊版撲滅キャンペーンを開始(特許庁)』http://www.jcci.or.jp/cgi-news/jcci/news.pl?3+20071214153725
●『特許庁、模倣品・海賊版の撲滅を訴えヤフオクにバナー広告』http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/12/14/17880.html
●『eBayが特許訴訟で敗訴、控訴へ』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0712/14/news014.html
●『特許権、移転でも使いやすく=次期通常国会に改正案−経産省http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2007121301012