●昭和47(ヨ)53 著作権 民事仮処分「博多人形事件」

 本日気付いたのですが、昨日紹介した、●『平成19(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「増加収量血小板採取システム」平成19年12月05日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071211095032.pdf)では、「しかし,本件明細書には,【好ましい具体例の説明】(段落【0016】)の1つとして図2が示されているのであって,この実施例の構成を,特許請求の範囲に取り込むことは,参酌の限度を超えるものであって,許されないものである。」と判示は、ちょうど今年の3/31の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070331)に取り上げた、●『平成18(行ケ)10371 審決取消請求事件 特許権行政訴訟バルサルタンの固体経口剤形」平成19年03月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070329144833.pdf)では、『「乾式圧縮法」は,本願明細書において「好ましい実施態様」(7頁5〜15行)とされているにすぎず,本願明細書の発明の詳細な説明中に,請求項1の「圧縮法」の意味が上記の通常の意味ではなく,「乾式法による間接打錠法」に限定されることを定義した記載はない。』という判示と、実施例に限定されないという点で近いのでは、と思いました。



 さて、本日は、『昭和47(ヨ)53 著作権 民事仮処分 昭和48年02月07日「博多人形事件」長崎地方裁判所 佐世保支部』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/428EF669432C728149256A76002F8A74.pdf)について取り上げます。


 本件では、美術工芸品が意匠登録の対象となると共に、著作権の対象にもなる場合があると判示した著名な事件です。


 つまり、長崎地裁(裁判官 大久保敏雄 菅原敏彦 前原捷一郎)は、

『一、 本件疎明資料および審尋の結果を総合すると次の事実が一応認められる。

1 別紙物件目録記載の作品(以下本件人形と略称する。)は通称博多人形と呼ばれる高さ約一九センチメートルの彩色素焼人形で、右は粘土製の人形生地を素焼きのうえ絵の具によって彩色した工芸品であって、石膏で型取りして多量に生産し販売することを目的として作られるもので、本件人形も現にそのように生産販売されているものである。


2 債権者は右の博多人形を製作することを目的として設立された有限会社である(なお、右会社の製作した博多人形の販売は資本的に同系の申請外井原博多人形有限会社で行なっている。)。本件人形の「赤とんぼ」は同社の新人形開拓計画の一環として製作されたもので、昭和四一年二月から六月にかけて童謡人形六点のうちの一点として製作されたが、右は「赤とんぼ」なる題を債権者側で決定したうえ、人形師の申請外Aに依頼して粘土による原型となる人形を作らせ、これを素焼きしたものを人形絵師の申請外Bに依頼して彩色させ、よって完成させたもので、右完成に至るまで債権者側ではそのイメージに合うように右二人の製作者に種種注文をつけて修正させつつ製作させたものである。そして債権者はそのころ申請外Aに対し型料として、同Bに対し絵付け料としてそれぞれ相当の金銭を支払い、同時に本件人形の複製、販売の権利を取得した。


3 右「赤とんぼ」は発売以来好評を博し、その売上額も年々増加し、昭和四六年度においては申請外井原博多人形有限会社の売り上げ本数は八万四四五八本、売り上げ金額は金二、五三三万七、四〇〇円に達し、総売り上げ額の約一八パーセントを占めた(なお同社の取扱人形は約七〇点である)。


4 債務者波佐見陶芸有限会社および同C(右会社の代表取締役)は同Dに依頼されて本件人形の複製物を手に入れ、これを原型に使用し石膏で型取りしてさらに複製物を作成するいわゆる「ポン抜き」という方法で本件人形とそつくりそのままの形、彩色をした粘土の素焼人形を模作し(もつとも、債務者の複製物は、債権者の複製物を原型に使用するため、乾燥、焼き締めの過程で水分を失うため一割程度縮少している)。昭和四六年六月以降現在までその模作を続けており、また債務者奥川陶器株式会社および同D(右会社の代表取締役)は右「ポン抜き」により模作された人形を本件人形「赤とんぼ」と同一名称を付けて右の期間販売している。


二、本件人形「赤とんぼ」は著作物に該当するか。


 著作権法の対象となる著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものでなければならないが、前記認定のとおり本件人形「赤とんぼ」は同一題名の童謡から受けるイメージを造形物として表現したものであって、検甲一号証によればその姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることができ、美術工芸的価値としての美術性も備わっているものと考えられる。


 また美術的作品が、量産されて産業上利用されることを目的として製作され、現に量産されたということのみを理由としてその著作物性を否定すべきいわれはない。


 さらに、本件人形が一方で意匠法の保護の対象として意匠登録が可能であるからといっても、もともと意匠と美術的著作物の限界は微妙な問題であって、両者の重量的存在を認め得ると解すべきであるから、意匠登録の可能性をもって著作権法の保護の対象から除外すべき理由とすることもできない。


 従って、本件人形は著作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである。


二、 前記認定のとおり、本件人形の複製、販売の権利、即ち著作権は、すでに申請外の二人の著作物から譲渡を受けた債権者に帰属しているのであるから、債権者の承諾なく本件人形を複製し、販売している債務者らの行為は債権者の著作権を侵害する違法なものである。そして右侵害行為が現に継続していることは前記認定のとおりであって債権者においてこの差し止めを求める緊急性、必要性も疎明される。四、よって、債権者において各債務者に対し保証としてそれぞれ金五十万円を立てることを条件とし、主文記載の限度で本件仮処分申請を認容し、申請費用につき民訴法八九条を適用して主文のとおり決定する。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<気になった記事>

●『シャープ、韓国サムスン電子を提訴…液晶テレビの特許侵害』http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20071212i314.htm?from=main3
●『シャープ<6753.T>、液晶関連の特許侵害でサムスン電子<005930.KS>を韓国で提訴』http://jp.reuters.com/article/domesticEquities/idJPnTK006319820071212
●『シャープ、韓国における液晶特許侵害でサムスンを提訴』http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20071212/sharp.htm
●『塩野義、高脂血症治療薬の特許侵害で7社を提訴』http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20071212AT1D1208T12122007.html
●『アップル、PCの落下探知技術で特許取得(USPTO)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2354
●『ノボ ノルディスクとファイザー、吸入型糖尿病治療薬の特許訴訟で和解(NovoNordisk)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2350