●平成19(ワ)21818 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 東京地裁

 本日は、『平成19(ワ)21818 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟 平成19年12月05日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071206153824.pdf)について取り上げます。


 本件は、原告の未公開特許出願の情報を秘密保持契約を伴わず被告に提供し、原告が被告の製造に対し損害賠償金として300万円を請求した、その請求が棄却された事案です。


 本件では、未公開情報がだからといって,直ちに秘密保持契約を締結すべき義務が被告に生ずるものでない、と判示した点が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(民事第29部 清水節 裁判長裁判官)は、


『1(1)  原告の主張は,上記第2,1のとおりであり,原告と被告との間で,秘密保持契約を締結するに至らなかったのに,平成17年8月29日までに,原告が秘密と考えている技術事項である,特願989号及び特願267号に係る技術情報(以下「本件情報」という。)を,被告が勝手に使用して,パンツを試作又は製造したことについて,被告に損害賠償を請求するというものである。そして,原告は,上記主張は,被告による試作品製作の事実が記載されている,本件B書簡(甲2)によって裏付けられる旨主張する。


(2)  そこで,検討するに,本件B書簡(甲2)は,平成17年8月29日付けの,Bから原告あての書簡であるところ,そこには,「バイアス製品の件ですが,弊社にて再度試作品を作成してみました。」,「試作品について,C課長と相談し,販売サイドとも慎重に検討した結果,今回のバイアス仕様については,残念ながら企画・販売をしない方向で結論付けました。」,「いろいろと御相談やアドバイスなど頂戴し,大変お世話になり誠にありがとうございました。」等が記載されており,これらの記載によれば,原告が提供したバイアス仕様に関する情報及びアドバイスに基づいて,被告が試作品を製作したこと,試作品に用いられているバイアス仕様について,被告における商品化はしないこと,同書簡を送付する以前から原告と被告との間にやりとりがされたことが認められ,被告が試作品を製作したものの,被告において商品化の方針は採用しなかったことが推認される。


 しかしながら,本件B書簡によっても,原告から被告に対し,本件情報の内容が伝えられたこと,被告において,その内容を知っていたこと,被告が試作品の製作に当たり,同情報を使用したことを認めることはできないし,仮に,被告において原告の提供に係る上記情報を用いたと認定できるとしても,その点について原告が承諾していたことがうかがえるところである。


 したがって,原告の上記主張を認めることはできない。


2 また,原告は,本件情報は,当時未公開であり,それを用いるためには,あらかじめ秘密保持契約を締結する必要があるのに,同契約の締結をすることなく本件情報を使用して試作品を製造したから,被告のこの行為が原告に対する不法行為を構成する旨主張する。


 しかしながら,被告が試作品の製作に当たり,本件情報を使用したと認められないことは上記のとおりである。


 また,本件情報が未公開であるからといって,直ちに秘密保持契約を締結すべき義務が被告に生ずるものでないことは明らかであり,他に,被告において秘密保持契約を締結すべき義務を負っていたと認めるに足りる主張及び立証もない。

 
 したがって,いずれにしても原告の上記主張を採用する余地はない。


3 さらに,原告は,平成17年1月13日付けの本件C書簡に,被告製品に関して,「ご試着していただきご意見など頂戴できれば幸いでございます。」と記載されており,また,これと共に,被告製品及びその製品用布地等が送付されてきたのであり,これらからすれば,被告は,原告に対し,先地で試作品の発注をしたことになる旨主張するが,原告が主張する事実のみで,被告の原告に対する試作品発注を認めることはできない。また,C及びBが電話で試作品製作を依頼した事実を認めるに足りる証拠もない(なお,本件C書簡が,特願989号及び特願267号のいずれの特許出願もされていない時期に出されたものであることなども考慮すれば,原告の指摘する上記事実と,被告による本件情報の使用との関連は明らかではない。)。


4 したがって,原告の請求は,その余の点を検討するまでもなく,認めることはできない。


第4 結論

 以上の次第で,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 メーカの立場からすると、個人発明家等の第三者から未公開情報が送付されてきた場合、後で紛争が生じないように対応する必要があるかと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<気になった記事>

●『米ベンチャー、アップルを特許侵害で提訴』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2007120603563b3
●『三星電子、‘特許怪物’に一審敗訴…控訴へ』http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=93525&servcode=300§code=300
●『ソウル半導体が、日亜をITCに提訴(ソウル半導体)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2313