●平成19(ネ)10055 不正競争行為差止等請求控訴事件「オービックス」

  本日は、『平成19(ネ)10055 不正競争行為差止等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟オービックス ORBIX」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130131627.pdf)について取り上げます。


 本件は、原審が、以前本日記で取り上げた東京地方裁判所平成18年(ワ)第17357号の不正競争行為差止等請求事件の控訴事件であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、不正競争防止法2条1項1号における「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一)は、

『当裁判所も,原判決と同様,被控訴人の請求を,被告標章その他の「オービックス」又は「ORBIX」の文字を含む商号及び標章の使用差止め,被告標章の看板等の営業表示物件からの抹消,被告商号の抹消登記手続並びに1311万2588円及びこれに対する本件不正競争行為の後である平成18年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。


1 混同のおそれがないとの主張について


(1)  不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知商品等表示と「同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品」を販売等して「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」と規定しているところ,商品等表示において「混同を生じさせる行為」が,周知表示の出所指示機能を破壊し,営業上の利益を害するのみならず,一般取引者及び需要者を害し,ひいては取引秩序を混乱破壊するものであることにかんがみると,ここに「混同を生じさせる行為」を禁止しようとする趣旨は,周知表示に化体して形成された信用を冒用することを規制し,それによって公正な競業秩序を形成維持しようとするところにあると解すべきである(最判昭35年4月6日・刑集14巻5号525頁参照)。したがって,「混同を生じさせる行為」の判断に当たっては,一般取引者及び需要者の心理に基準を置くのが相当である。


  そして,商品等表示において「混同を生じさせる行為」は,周知の他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者が,自己とその他人とを同一の商品主体又は営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも含み,両者間に競争関係があることを要しないと解すべきである(最判昭59年5月29日・民集38巻7号920頁参照)。


 また,当該「混同を生じさせる行為」は,現に混同を生じさせていることは要せず,混同を生じさせるおそれがあればよいものと解すべきである(最判昭44年11月13日・判時582号92頁参照)。


(2) 証拠(甲2の1,甲5,12,20,乙1,2,4,5)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


ア 被控訴人について

 ・・・省略・・・

イ 控訴人について

 ・・・省略・・・

(3) オービックス標章1は,控訴人の会社の形態を表す「有限会社」と「オービックス」を組み合わせたものであって,その要部である「オービックス」がオービック標章1と異なっているのは,末尾にカタカナの「ス」が付くかどうかにすぎないから,オービックス標章1がオービック標章1に類似することは明らかである。また,オービックス標章2は「ORBIX」と書してなるもの,オービックス標章3は「ORBIX」と書した上そのアルファベットの下部に重ねて横線が引かれているものであるが,「OBIC」と書してなるオービック標章2と比較すると,いずれもアルファベットで表記されており,その違いは,「O」と「B」の間に「R」が付くかどうか,末尾の文字が「C」であるか「X」であるかであり,称呼についてみても,オービックス標章2及び3は「オービックス」と称呼されるのに対し,オービック標章2は「オービック」と称呼されるものであり,末尾に「ス」が付くかどうかで異なるにすぎない。


(4 ) 上記(2)及び(3)の事実によれば,被控訴人と控訴人の業務内容は,コンピュータシステムないしソフトウェアの製造,販売,それに伴うサービスの提供という共通性があることに加え,事業者向けのPOSシステムを取扱商品としている点でも共通しており,被控訴人が複数の連結子会社ないし関連会社からなる企業グループを形成して全国的な営業展開をしており,その商品又はサービスの対象業種が多岐にわたることを併せ考えれば,控訴人が,被控訴人のオービック標章と類似するオービックス標章を使用してその営業を行えば,商品主体又は営業主体が被控訴人と同一又は同一でなくとも被控訴人の系列企業であるとの誤認を生じさせるものと認められる。


(5) 控訴人は,あらかじめ,取引先の企業の実態,内情を十分に調査した上で取引することが十分に可能であるのみならず,消費者,顧客の目も肥えていて,単に一流企業と似通った標章を使用しているということでその企業の商品を購入するということは稀有なことであるから,単に標章が類似しているというだけで,実体を調べもせず,その企業の商品に飛びつくような者は,保護するに値するものではない旨主張する。


 しかし,不正競争防止法2条1項1号は,上記のとおり,混同行為を禁止しようとする趣旨は,周知表示に化体して形成された信用の冒用を規制し,それによって公正な競業秩序を形成維持しようとするところにあるのであって,「混同を生じさせる行為」の判断に当たっては,一般取引者及び需要者一般の心理に基準を置くのが相当であるところ,同法の上記趣旨からすれば,一般取引者及び需要者は,日常一般に払われる注意力の下で混同のおそれがあるか否かが問われるものと解すべきであって,常に日常一般に払われる以上の注意力をもって子細に観察する消費者,あるいは,標章のみによっては,決して取引を行わず,常に商品そのものを観察して購買するか否かを決する賢明な消費者を基準に置いているものではなく,また,そのような賢明な消費者であっても混同を避けられないような巧妙な不正競争行為のみを保護するものでもないから,控訴人の上記主張は,採用できない。


(6) 控訴人は,一般消費者が,控訴人のオービックス標章を見て,これが大企業である被控訴人の関連企業であるという理由で,直ちに,控訴人の商品等に飛びつくわけではないとし,一般消費者は,十分な識別能力を有しているので,単に標章のみによって取引を行うなどということはあり得ないから,被控訴人のオービック標章と類似の標章を使用したからといって誤認,混同を生じさせることにはならない旨主張する。


 しかし,上記のとおり,「混同を生じさせる行為」の判断の基準とされるべき一般取引者及び需要者は,日常一般に払われる注意力の下で混同のおそれがあるか否かが問われるものと解すべきであって,十分な識別能力を有し,単に標章のみによって取引を行うなどということのないいわゆる賢明な消費者を基準に置いているものではなく,そうであれば,前記(4)のとおり,本件の事情の下では,控訴人が,被控訴人のオービック標章と類似するオービックス標章を使用してその営業を行えば,商品主体又は営業主体が被控訴人と同一又は同一でなくとも被控訴人の系列企業であるとの誤認を生じさせるものと認められるのである。したがって,控訴人の上記主張も,採用することができない。


(7) 控訴人は,被控訴人が大企業であるのに対して,控訴人は九州所在の零細企業であるから,世間が被控訴人と控訴人とを混同することは考えられず,控訴人が10年間にわたりオービックス標章を使用してきたものの,その間一度として被控訴人のオービック標章と混同されたことがなかったから,混同のおそれがない旨主張する。


 しかし,前記のとおり,不正競争防止法2条1項1号は,周知表示に化体して形成された信用の冒用を規制し,それによって公正な競業秩序を形成維持しようとするところにあり,企業の規模とは無関係である。


 そして,上記のとおり,控訴人が,被控訴人のオービック標章と類似するオービックス標章を使用してその営業を行えば,被控訴人と同一か,同一でなくとも被控訴人の系列企業であるとの誤認を生じさせるものと認められるのであり,甲18(被控訴人代理人の通知した警告書に対する回答書)によれば,控訴人自身が過去に被控訴人と間違えた者からの電話を受けたことを認めているのであり,現に混同を生じたことがあったのである。したがって,控訴人の上記主張も,採用することができない。



(8) 控訴人は,同人が扱うPOSシステムは,「レンタルPOSシステム」であるのに対し,被控訴人のPOSシステムは,販売用のシステムであるから,両者の扱う商品が質的に全く異なっており,単に両者がPOSシステムを扱っているという理由で混同を生じさせるということはない旨主張する。


 しかし,レンタル用であるか販売用であるかの差は大きなものではなく,前記のとおり,被控訴人が,複数の連結子会社ないし関連会社からなる企業グループを形成して全国的な営業展開をしており,その商品又はサービスの対象業種が多岐にわたることからすると,オービックス標章を使用してする控訴人の営業に接する一般取引者及び需要者は,それが被控訴人自体の商品,営業であるとの誤認,又は,被控訴人の系列企業であるとの誤認を生じさせるものと認められるから,控訴人の上記主張も,採用することができない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10503 審決取消請求事件 特許権 「エレベータ装置」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130113713.pdf
●『平成18(行ケ)10518 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「エレベータ装置」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130113047.pdf
●『平成19(行ケ)10105 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「腫瘍壊死因子−αおよび−βレセプター」(棄却判決)平成19年11月29日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130112439.pdf
●『平成19(行ケ)10022 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「インクジェット・プリント方法およびインク組成物」平成19年11月29日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130111755.pdf
●『平成19(行ウ)593 異議申立棄却決定取消等請求事件「浮遊型省エネ浄水機」 平成19年11月29日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071130125311.pdf