●平成19(行ケ)10172 審決取消請求事件 商標権「Shoop」

  本日は、『平成19(行ケ)10172 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Shoop」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128162804.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法4条1項10号違反を理由に無効にされた法46条の無効審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、請求の理由があると判断された、「取消事由2(本件商標と引用商標の類否判断の誤り)」と、「4 審理手続等の誤りについて」とが参考になるかと、思います。


  つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長裁判官)は、

3 取消事由2(本件商標と引用商標の類否判断の誤り)について

(1) 法4条1項10号は「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するも,のとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については,商標登録を受けることができない旨規定している。


 法4条1項10号における商標の類否は,法4条1項11号の場合と同様に,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者及び需要者に与える印象,記憶,連想等を考察するとともに,その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に照らし,その商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照。)


 そこで,上記の観点から,本件商標と引用商標の類否について検討する。

ア 称呼

 本件商標は,「Shoop」 の文字を構成とするものであるから,最も自然な「シュープ」の称呼を生ずるものと認められる。


 他方,引用商標は,前記2(1)のとおり,「シュープ」の文字を併記し, また「シュープ」の音声を用いた広告宣伝活動の結果,引用商標から「シュープ 」の称呼が生じ得ることが認定できる。( なお,「choop」,「CHOOP」の文字を含む被告の登録商標について,特許庁は,もともと「チュープ 」,「チョープ」などを参考称呼としており〔甲67〜69,71,73〜78,80〕, 「シュープ」は平成15年9月5日設定登録に係る登録商標の商標公報〔甲70,79〕で初めて挙げられている。)。


 しかし, 引用商標は,「CHOOP」の文字を構成とするものであり,自然な称呼は「チュープ」あるいは「チョープ」であることに照らすならば,確かに,被告が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層に対しては,「シュープ」の称呼を想起させるものといえるが,それ以外の一般消費者に対して,「シュープ」の称呼を想起させるものとはいえないというべきである。したがって,引用商標において,「シュープ」の称呼があらゆる需要者層において広く, 認識されていたとまで認めることはできない。


イ 観念及び外観について

 本件商標を構成する「Shoop」の文字部分は,少なくとも,いわゆるブラックミュージックの愛好者の間では,「タメ息の音」を意味する俗語として認識されているが,必ずしも一般的な観念が生じるとまでは認定できず,他方,引用商標の構成中の「CHOOP」の文字部分も,一般的な観念は生じないので,観念における対比をすることができない。


 本件商標を構成する「Shoop」の文字部分がデザイン化されていることに加え,同文字部分と引用商標の構成中の「CHOOP」の文字部分は,先頭文字が「S」と「C」との点で異なり,前者は後続する「hoop」が小文字で表記されているのに対して,後者は後続する「HOOP」が大文字で表記されている点において異なる点で,本件商標と引用商標はその外観において相違する。


ウ 取引の実情等

(ア) 引用商標は,前記2(1)アの各事実及び前述の雑誌 ,新聞等に掲載された広告宣伝,記事等の内容に照らせば,アメリカ生まれの元気なブランド,あるいはおしゃれでキュートなブランドというコンセプトの下,ティーン世代の少女層をターゲットとして,被告による引用商標の使用( 被告のライセンシーによる使用を含む。)及び広告宣伝活動が継続された結果 ,本件商標の出願時及び査定時には,「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるものとして,需要者層を開拓していたものと認められる。

 ・・・省略・・・

(ウ)   また,引用商標の使用された商品に関心を示す「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と,本件商標の使用された商品に関心を示す,いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは,被服の趣向(好み,テイスト)や ,動機(着用目的,着用場所等)において相違することが認められる。


エ 商品の出所についての誤認混同のおそれ

 以上によれば,引用商標から,「シュープ 」の称呼が生じる旨認識している需要者は,被告が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層であって,本件商標が使用された商品に関心を抱く「セクシーなB系ファッション」の需要者層やそれ以外の一般消費者ではないといえる。結局,被告が広告宣伝を行ってきた需要者層以外の消費者については,引用商標から「シュープ」の称呼が生じると認識することはなく,上記認定した取引の実情等を総合すれば,称呼を共通にすることによる混同は生じないということができる 。


 その他,本件商標と引用商標とは,観念においては対比できないものの,外観においては相違する。


 そうすると本件商標は, その指定商品中,「 セーター類 , ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」に使用された場合,引用商標とは異なる印象,記憶,連想等を需要者に与えるものと認められ,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきである 。


オ 被告の主張に対し

(ア) 被告は,本件商標と引用商標とが「シュープ」の称呼を共通とすることを前提として,一般消費者は,常にブランドを意識して決まった方法で被服等を購入するものではなく,たまたま通りすがりに購入したり ,買う予定のない商品をバーゲンやタイムサービスの呼び声につられて店頭に立ち寄って購入したりすることもあるから,本件商標が付された商品に接した需要者は,これを「シュープ」の称呼で認識していた商品と誤認したり,引用商標のファミリーブランドと混同したりして,購入することも考えられる旨主張する。


 しかし,上記エのとおり,引用商標から「シュープ」の称呼が生じる旨認識している需要者は,被告が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層であって,それ以外の一般消費者が,引用商標から「シュープ」の称呼が生じる旨認識することは通常考えられない。したがって,被告の主張は採用することができない。


(イ) 被告は,趣向性等は将来変動する可能性が大きいのであるから,これを取引の実情として商標の類否判断において重視すべきではないと主張する。


 しかし,本件商標から生じる称呼と,引用商標から生じる自然な称呼とは異なるものであって,引用商標は,継続的使用及び広告宣伝の結果,特定の需要者に対して,「シュープ」との称呼を生ずるものとして認識されるに至ったのであるから,両商標の類否に当たり取引の実情を考慮することは当然に許されるというべきである。


(ウ) 被告は ,引用商標に類似した商標として ,「CHOOP SPORTIVE」及び「CHOOP CLASSIC」の各標章を被服類に使用しており(乙8〜17 ),その需要者層が本件商標を付した商品の需要者層と共通するなどと主張する。


 しかし,前記エのとおり, 本件商標は,その指定商品中 「 セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類 ,下着 , 水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品 」に使用された場合,引用商標とは異なる印象,記憶,連想等を取引者,需要者に与えるものと認められ,その結果,出所に混同を来すことはないというべきであって,特定の商品の需要者層が共通する場合があることによって,かかる認定判断が左右されるものではない。被告の主張は採用することができない。


カ 小括

 以上によれば,本件商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤りがあることになる。原告主張の取消事由2は理由がある。


4 審理手続等の誤りについて

 審決は,被告の無効審判請求が,本件商標の指定商品中「これらの類似商品」についての登録を無効とすることを含むものであり,審判の対象・範囲,無効審決の効力の及ぶ指定商品の範囲が曖昧であるにもかかわらず,審判手続の過程で適切な措置を採らず,「これらの類似商品」を含めて無効審決をした点において,手続等に違法がある。この点は,念のために述べるものである。


(1) 法46条1項本文は,「商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては指定商品又は指定役務ごとに請求することができる 。」と規定する。


 これは,特定の指定商品又は指定役務( 以下「指定商品等 」という。)に係る部分についてのみ無効理由がある場合に,商標登録全体を無効とするのは相当でないとの趣旨から,商標登録の一部についての無効を認めることとしたものと解される。


 商標登録に係る指定商品等が二以上の商標登録について,二以上の指定商品等について無効審判を請求したときは,その請求は指定商品等ごとに取り下げることができること(法56条2項により準用される特許法155条3項),指定商品等が二以上の商標登録又は商標権については,商標権の消滅後の無効審判請求(法46条2項)や商標登録を無効にすべき審決の確定及びその効果(法46条の2)などにつき,指定商品等ごとに商標登録がされ,又は商標権があるものとみなされること(法69条)を併せ考えれば,商標登録に係る指定商品等が二以上のものに係る無効審判請求においては,無効理由の存否は指定商品等ごとに独立して判断されるべきことになる。


 そして,無効審判請求における「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・範囲を画し,被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,無効審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品等の範囲を決定するものであるから,その記載は,客観的かつ明確なものであることを要するというべきである。


 したがって,「請求の趣旨」に,登録を無効とすることを求める指定商品等として,「・・・類似商品」,「・・・類似役務」など,その範囲が不明確な記載をすることは,請求として特定を欠くものであって,許されないというべきである。


(2) 本件についてみるに,被告は,前記第2,1のとおり,本件商標の指定商品中「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」についての登録を無効とすることを求めて,審判請求をした。


 被告が無効とすることを求めた指定商品の範囲は,商標法施行規則別表において「被服」に含まれる商品群として掲げられた「セーター類,ワイシャツ,類寝巻き類 ,下着 ,水泳着 ,水泳帽 」にとどまらず,「これらの類似商品」を含むという点において,これを明確に把握することが困難である。


 仮に,被告の請求をすべて認める無効審決が確定した場合,本件商標に係る登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲は,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」から「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」を除外した指定商品となるが,その範囲は,「これらの類似商品」が除かれる結果として,客観的明確性を欠き,法的安定性を害する。


 したがって,被告による本件商標に対する無効審判の請求のうち,指定商品中「これらの類似商品」に係る部分は,審判の対象・範囲が不明確であるとともに,無効審決が確定した場合において登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を曖昧にするものであるから,適法な審判請求とは認められない。よって,審決中,本件商標の指定商品のうち「これらの類似商品」についての登録を無効とするとした部分は,審決の内容のみならず,審判手続の面からも違法といえる。

 本件商標の無効審判を審理する審判体としては,実質的な審理を開始するに先だって,まず,釈明権を行使するか,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,そのような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた審判手続のあり方は妥当を欠く点があったというべきである。


(3) 商標権が設定登録された場合には,商標とともに指定商品等が商標権の範囲となるものであって(法27条 ),商標権者は指定商品等について ,登録商標の使用をする権利を専有し(法25条 ),指定商品等及びこれに類似する商品・役務について他人の登録を阻止し(法4条1項11号 ),使用を禁止することができる(法36条,37条)のであるから,指定商品等の内容及び範囲は,少なくとも指定商品等に係る取引者,需要者にとって明確であり,指定商品等が具体的にどのような商品・役務であり,これにどのような商品・役務が含まれるのかが明らかである必要があることは,いうまでもない。


 したがって,指定商品等について「・・・類似商品 」, 「・・・類似役務」,あるいは,「ただし・・・類似商品を除く」,「ただし・・・類似役務を除く」など,その範囲が不明確な記載をすることは許されるべきではない。


 また,設定登録時には,指定商品等の範囲が客観的に明確であるにもかかわらず,法50条に基づく商標登録の取消審判請求に対する審判手続における適切を欠いた審理の結果,後発的に指定商品等の範囲の明確性が失われる場合も散見されるところであり(知的財産高等裁判所平成19年6月27日判決・平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件,同平成19年10月31日判決・平成19年(行ケ)第10158号審決取消請求事件参照 ),このような運用はすみやかに改善されるべきものと考える。


5 結論

 以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから ,これを認容することとし ,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 本判決では、「4 審理手続等の誤りについて」のところで、

 『商標権が設定登録された場合には,商標とともに指定商品等が商標権の範囲となるものであって(法27条 ),商標権者は指定商品等について ,登録商標の使用をする権利を専有し(法25条 ),指定商品等及びこれに類似する商品・役務について他人の登録を阻止し(法4条1項11号 ),使用を禁止することができる(法36条,37条)のであるから,指定商品等の内容及び範囲は,少なくとも指定商品等に係る取引者,需要者にとって明確であり,指定商品等が具体的にどのような商品・役務であり,これにどのような商品・役務が含まれるのかが明らかである必要があることは,いうまでもない。したがって,指定商品等について「・・・類似商品 」, 「・・・類似役務」,あるいは,「ただし・・・類似商品を除く」,「ただし・・・類似役務を除く」など,その範囲が不明確な記載をすることは許されるべきではない。』、

 と判示していますが、この判示は、登録無効審判や、取消審判の請求だけでなく、出願の際の指定商品等の指定についてまで言及しているものと理解され、この点で、今後の商標実務に影響を与えるものと思います。


 なお、本判決文中で引用している「知的財産高等裁判所平成19年6月27日判決・平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件」は、7/5の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070705)に、また「同平成19年10月31日判決・平成19年(行ケ)第10158号審決取消請求事件」は、11/2の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20071102)で取り上げています。


 詳細は、本判決文を参照してください。



 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10172 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Shoop」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128162804.pdf
●『平成19(行ケ)10004 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「磁気ヘッド/ディスク検査器内の高精度位置決め機構の動的特性を改良するための装置及び方法」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128162416.pdf
●『平成19(行ケ)10052 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「冷却装置」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128162051.pdf
●『平成18(行ケ)10250 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「船底塗料用防汚剤およびそれに用いる高純度銅ピリチオンの製造方法」平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128161551.pdf
●『平成19(行ケ)10104 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電動式圧縮機」 平成19年11月28日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071128161030.pdf
●『平成18(ワ)17960 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「EPI エピ」平成19年11月21日 東京地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071129144954.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『第99回「中国の知財裁判史上最高額の賠償命令――実用新案権の侵害訴訟にみる中国の知財戦略事情とは」(2007/11/29)』http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm
●『【中国】デジタル映像コード規格「AVS」、チャイナネットコムとチャイナテレコムが採用』http://japan.internet.com/webtech/20071129/27.html
●『LGフィリップスLCDが台湾CPTとの長期にわたる特許侵害訴訟で和解(LG.Philips LCD)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2271
●『ノバルティスがHIV治療薬に関する特許侵害でロシュ他を提訴(米証券取引委員会)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2275
●『日韓特許庁、特許審査ハイウェイの活用促進などの協力で合意(特許庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2270
●『100ドルPCのOLPCプロジェクト、特許の侵害で訴えられる』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20362028,00.htm
●『北京等国内の4都市が「知的財産権に関する提携協議書」を締結』http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz07q4/553332/
●『米携帯大手ベライゾンLTE採用を発表』http://blogs.itmedia.co.jp/ryojikoike/2007/11/lte_58c5.html?ref=rssall
●『RFIDコンソーシアム、特許プール制推進へ〜特許保有企業に参加呼びかけ』http://www.usfl.com/Daily/News/07/11/1129_001.asp