●平成19(行ケ)10127 審決取消請求事件「新しいタイプの居酒屋」

  本日は、『平成19(行ケ)10127 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「新しいタイプの居酒屋」平成19年11月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071126101126.pdf)について取り上げます。


 本件は、本願商標出願が商標法3条1項6号に該当し、しかも同法3条2項には該当しないことを理由とした拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、法3条2項該当性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長裁判官 中野哲弘)は、


3 法3条2項該当性の有無

(1) 法3条は,商標登録の要件を定めたものであって,同条1項は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる 。」とした上で,同項1号から5号まで自己の業務に係る商品又は役務についての識別力あるいは出所表示機能を欠く商標を列挙し,同項6号では「前各号に掲げるもののほか,需要者が,何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」と総括的な規定を置いている。


 そして同条2項では,「前項第3号から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる 。」として,同条1項3号から5号までに該当する商標についても,使用により識別力を取得したものにつき登録を受けることができるとされている。


  上記の規定振りからすると,法3条2項にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」とは,法3条1項3号ないし5号に該当する出所表示機能を欠く商標であっても,永年使用されることにより,特定の者の出所表示としてその商品又は役務の需要者の間で全国的に認識されるに至っている(特別顕著性がある)をいうと解される。


 そこで,以上の見地に立って本件について検討する。


(2) 前記2の認定事実によれば,本願商標は,原告が営業する全国各地における多数の「白木屋」,「笑笑」の各店舗の看板に表示して使用されており,そのため,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との表示は,同店舗のある地域を往来する人や同店舗の利用者にとって目立つものということができる。


 しかし,本願商標の内容は,赤地に白抜きの文字で「新しいタイプの居酒屋」と記載してなるものであり,それ自体からは,当該商標が付された飲食店である居酒屋が既存の居酒屋とは異なる新手のものであることを需要者に説明ないしアピールするという観念を想起するにとどまり,これが直ちに特定の出所を表示したものとは通常観念され難いものといわざるを得ない。


 のみならず,上記看板における本願商標の使用態様は,いずれも「白木屋」,「笑笑」の店舗名に併記されたものであり,それ自体が店舗名から切り離された単独のものとして使用された例は見当たらない(上記2(2)エ)のであって,本願商標の指定役務である飲食物の提供を行う店舗等において,他店と差別化するため「新しいタイプの○○」という文句が宣伝等に用いられることは多く見られるところであること(上記2(2)ク)をも併せ考慮すると,本願商標における「新しいタイプの居酒屋」との語は,一般に居酒屋である「白木屋」や「笑笑」が,メニューやサービスの内容,店舗の内装等において,既存の居酒屋と異なる新しいタイプを採用しているという役務の特徴を表した宣伝文句と理解され,本願商標はいわばキャッチフレーズとしてのみ機能するといわざるを得ないのであるから,それ自体に独立して自他識別力があるということはできない。


 したがって,本願商標は法3条1項6号に該当し,商標登録を受けることができないというべきである。


(3)ア これに対し原告は,本願商標は,「白木屋」,「笑笑」の商標とは文字の大きさ,画線の太さ,書体等が顕著に異なり,互いに別個独立のものとして弁別できる商標を構成しており,宣伝効果を上げる手法として2個の商標を並列表示する使用態様をもって独立使用しているものであるから,両商標はそれぞれ識別力が発生していると考えるべきであると主張する。


 しかし,前記のとおり「新しいタイプの居酒屋」なる表示は,主たる表示たる「白木屋」又は「笑笑」を,説明ないし修飾する意味合いで使用されているのであって(甲5の1ないし12,甲8の1ないし36参照。),それ自体が独立性のある表示と認めることは困難であるから,原告の上記主張は採用することができない。


イ また原告は,本願商標が原告が営業する全国各地における多数の店舗の看板に大規模かつ長期間使用されている上「白木屋」ないし「笑笑」の店舗ちらし,店舗備品,タレントであるAが出演するテレビCM,原告のウェブサイト等において「新しいタイプの居酒屋」との文句を使用し,それにより本願商標が多数の者の目に触れ,周知のものとになっているとも主張する。


 しかし,前記のとおり,本願商標自体は,いかに大規模かつ長期間使用したとしても,その内容及び使用態様等に照らして「白木屋又」は「笑笑」についての宣伝文句ないしキャッチフレーズとしてしか機能し得ないものというほかなく,需要者は本願商標をもってそれが何人かの役務を表示したものと認識することはできないというべきである。


 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


ウ さらに原告は,本願商標がキャッチコピー商標ないしキャッチフレーズ商標であるとしても,本願商標は赤地に白抜きで文字を配した結合商標であるから,単なるキャッチフレーズとは異なる旨を主張するが,赤地はその色彩が明るく看者の注意を惹く点で,キャッチフレーズのような宣伝文句を表示する方法としてありふれたものである上(上記2(2)コ),赤という色彩自体に原告自身を識別する効果があるとも認め難いことからすれば,本願商標が赤地に白抜きの字で構成された標章であることは,前記判断を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。


4 結論


 以上によれば,審決は違法とする原告の主張はすべて理由がない。

 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10127 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「新しいタイプの居酒屋」平成19年11月22日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071126101126.pdf
●『平成19(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「動物の体細胞の粒子媒介形質転換」平成19年11月22日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071126100147.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『技術流出、新法で防止・経産省方針、軍事特許に非公開制度』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071126AT3S1500W25112007.html
●『ブロードコムクアルコムによる賠償金半減を受け入れ』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djBWV0199.html
●『BroadcomQUALCOMMの特許侵害賠償額1960万ドルを受け入れへ』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071126/287883/
●『BroadcomQualcomm製チップの製造差し止めを請求へ 』http://www.computerworld.jp/news/trd/88469.html
●『クアルコムブロードコムとの特許訴訟で賠償金の増額回避も1960万ドル』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2251
●『音声や動画まで読み込める新暗号化コード「カラー ID」が商品化』http://japan.internet.com/wmnews/20071126/7.htm
●『次回から自動的にログイン』http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000000476.html
●『アマゾンの「ワン・クリック」特許に補正案、ニュージーランド俳優の指摘で(IGDMGD)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2252
●『台湾企業がソニー提訴へ「usbメモリー模倣』http://sankei.jp.msn.com/economy/business/071127/biz0711270115001-n1.htm
●『「知財意識」高めるアジア企業 ソニー提訴の背景』http://sankei.jp.msn.com/economy/business/071127/biz0711270118002-n1.htm