●平成18(ワ)6536等 実用新案権侵害差止等請求事件 「爪切り」(3)

  昨日、一昨日に続いて『平成18(ワ)6536等 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権「爪切り」平成19年11月19日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071120131248.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点(5)の損害額のところで、原告会社の代表である原告P1の損害賠償請求権と原告会社の損害賠償請求権との関係について、原告P1が原告会社に対して本件実用新案権の独占的通常実施権を設定した場合、無償の独占的通常実施権を設定したものと推認され、独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができるものの、独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と、実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは、重複する限度で連帯債権の関係に立つものと判示された点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 山田知司 裁判長裁判官)は、


(4) 原告P1の損害賠償請求権と原告会社の損害賠償請求権との関係


 本件で原告P1は原告会社に対して本件実用新案権の独占的通常実施権を設定しているが,原告会社が原告P1に対して実施料を支払っていることを窺わせる証拠はなく,原告P1が原告会社の代表者で,原告会社が原告P1の個人企業であることからすると,むしろ原告P1は原告会社に対して無償の独占的通常実施権を設定したものと推認される。


 ところで,実用新案権者が第三者に専用実施権を設定し,専用実施権者が当該実用新案権を実施している場合,専用実施権者は侵害者に対して実用新案法29条2項に基づく損害賠償を請求することができる。

 

  しかし,その場合,実用新案権者としては,自ら実施する権利も,他者に更に実施許諾をする権利も有していないのであるから,同条3項に基づく損害賠償を請求することはできない。


 その場合に実用新案権者に発生する損害として観念し得るのは,実用新案権者が専用実施権者から得られる実施料が減少したことのみであり,そのような損害が発生するときには,実用新案権者は民法709条に基づく損害賠償を請求することができる。


 したがって,専用実施権が無償又は定額の実施料で設定されている場合には,当該実用新案権の侵害行為がなされても,実用新案権者に損害は発生せず,実用新案権者は損害賠償請求権を取得しないものと解するのが相当である。


 他方,本件のように独占的通常実施権が設定されている場合には,実用新案権者は,独占的通常実施権者との間で他者に実用新案権の実施許諾をしないという債権的な拘束を受けてはいるものの,他者に実用新案権の実施許諾をする権利自体はなお有している。


 したがって,独占的通常実施権が無償で設定されていても,実用新案権者がなお実用新案法29条3項に基づく損害賠償を請求し得ることはこれを認めることができる。


 しかし,この場合に,独占的通常実施権者に同条2項の類推適用による損害賠償請求を認め,同時に実用新案権者にも同条3項による損害賠償請求を認めて ,両請求権が単純に並立するものと解するときには,前記のような専用実施権が設定された場合以上の逸失利益を権利者側に認めることになり,均衡を失するものというべきである。


 また,同条2項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を全く行わなかった場合を想定するものであるのに対し, 同条3項による損害額の算定は,侵害者が実施行為を行ったことを前提とするものである点で,両規定は互いに両立しない状況を想定ないし前提しているのであるから,この点からも両請求権が単純に並立すると解することはできない。


 これらの点を踏まえると,独占的通常実施権者が有する同条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権と実用新案権者が有する同条3項に基づく損害賠償請求権とは,重複する限度で連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。


 したがって,本件では,原告P1の被告に対する2万0897円の損害賠償請求権と,原告会社の被告に対する13万4456円の損害賠償請求権とは,重複する2万0897円の限度で連帯債権の関係に立つことになる。


6 まとめ


 以上によれば,原告らの本件請求は,(i)原告P1が被告に対してイ号物件の輸入,販売及び販売のための展示の差止めを請求し,(ii)原告P1が被告に対して2万0897円及びこれに対する侵害行為後の平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,(iii)原告会社が被告に対して13万4456円及びこれに対する侵害行為後の平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由がある(ただし(ii)と(iii)とは重複する限度で連帯債権の関係に立つ。(iii)のうち重複部分を除いた金額は,11万3559円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合によるものとなる。)が,その余は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照願います。


追伸1;<気になった記事>

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●『生命科学の特許延長可能に=競争力強化で報告−知財本部調査会(時事通信) 』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071121-00000180-jij-bus_all
●『高血圧治療薬の特許侵害訴訟でメルクの勝訴確定(CAFC)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2231
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●『米itc、クアルコムノキア の特許裁判で調査中止』http://jp.reuters.com/article/domesticEquities/idJPnJS807318320071122
●『ITCがノキアクアルコムの特許侵害訴訟で調査を中止(ITC)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2242
●『ITC、Nokiaによる対QUALCOMM訴訟を棄却 』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/22/news048.html
●『ITC、ノキアによるクアルコム提訴を棄却』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djBWS2449.html
●『appleとburst.com、特許侵害訴訟で和解』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/22/news055.html
●『アップル、バーストコムとの特許訴訟で和解、ライセンス料は1000万ドル(Burst.com)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2245
●『Appleipodの特許侵害訴訟、1000万ドルで和解 』http://jp.ibtimes.com/article/biznews/071122/14342.html
●『チバビジョンコンタクトレンズの特許訴訟で和解、クロスライセンス締結(ノバルティス)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2244