●平成18(ワ)6536等 実用新案権侵害差止等請求事件 「爪切り」(1)

 本日は、『平成18(ワ)6536等 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権「爪切り」平成19年11月19日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071120131248.pdf)について取り上げます。


 本件は、実用新案権侵害差止等請求事件で、イ号物件に関してはその請求が認められたものの、ロ号物件に関しては、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点が、

(1) 被告によるイ号物件及びロ号物件の輸入販売等が原告P1の有する本件実用新案権及び原告会社が有すると主張するその独占的通常実施権を侵害するか。特にロ号物件が本件考案の構成要件B及びEを充足するか。
(2) イ号物件についての輸入販売等のおそれの有無
(3) 被告による原告P1の廃棄請求権侵害の成否
(4) 本件実用新案権侵害についての被告の過失の有無
(5) 損害額

の5つありました。


 本日は、まず、争点(1)のロ号物件の侵害か否かについて取り上げます。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 山田知司 裁判長裁判官)は、


1 争点(1)(侵害性)について


(1) イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない。


(2) ロ号物件について



 ・・・省略・・・


 【0025】
 本考案は上記した問題点に鑑みてなされたものであり,使用時に指を挟む危険性がなく,また,下刃の上刃に対する密着度を調整することができると共に,下刃がぶれることなく安定して前後移動させることができ,さらに上刃と下刃を容易に交換することが可能な爪切りを提供することを目的とする。


 ・・・省略・・・


(ウ) 考案の効果について

【0056】

 上記構成によれば,…従来のように全体を分解しなくても,容易に下刃を保持孔から抜き出すことができると共に取り換えた下刃を容易に取り付けることができ,また,取り換えた後の上刃と下刃の密着度を螺子の締め具合によって容易に調整することができ,さらには,爪を切る際に下刃を左右にぶれることなく真っ直ぐに安定して保持孔から前進移動させて確実に爪を切ることができる。



ウ 上記の本件明細書の記載からすれば,本件考案は次の3点において従来技術と比べて特徴的な作用効果を奏するものであると認められる。


(ア) 上刃と下刃の密着度の調整を螺子の締め具合によって容易に行うことができる点

 これは,本件考案の爪切りでは,保持孔の上下面の各々の対向部に形成された螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とが連通しており,これらにすべての孔に螺子を挿通することから得られる作用効果である。


(イ) 全体を分解せずに螺子を外すだけで下刃の取り換えが容易にできる点

 これは,本件考案の爪切りでは,下刃が,螺子で保持孔に係合し,さらに作動片の係合部と係止孔とが係合することで該作動片に取り付けられていることによる作用効果である。


(ウ) 爪を切る際に前後移動する下刃の左右のぶれを規制できる点これは,本考案の爪切りでは,螺子が下刃に形成されたガイド孔に挿通していることによる作用効果である。


エ そうすると,これらの特徴を同時に兼ね備えるためには,本件考案の爪切りは,保持孔の上下面の各々の対向部に形成された螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とが連通し,これらに螺子が挿通されているものであることを要すると認められるから,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」は,いずれも螺子を挿通されていることを要すると解するのが相当である。


 この点について原告らは,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」は,いずれも螺子を挿通し得る構造を備えていれば足り,実際に螺子が挿通されていることは要しないと主張する。


 しかし,先に認定した本件考案の特徴的な作用効果は,螺子が挿通されていて初めて同時に実現されるものであるから,構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」たるためには,それらの孔に螺子が挿通していることを要するものと解するのが相当であり,原告らの上記主張は採用できない。


 また原告らの主張は,本件考案の上記3つの特徴は,いずれか一つでも実現されていれば足りるとする趣旨にも見受けられるが,前記本件明細書の記載によれば,本件考案の爪切りは,上記の特徴をすべて具備するものとして記載されていると認められるから,そのうちの一部でも具備すれば足りるとは解することができない。


 さらに原告らは,ロ号物件の販売が許されるのならば,イ号物件の螺子を留めずに販売し,螺子を別売りにするか消費者が独自に螺子を購入する方法を採れば侵害を免れることになり不当であると主張する。しかし,ロ号物件はそのままでもペット用の爪切りとしての機能を果たし得るものである上,本件全証拠によっても,被告がロ号物件を販売するのに螺子を別売りにするとか消費者に対して独自に螺子を購入して付け替えることを勧める販売方法を採用しているとは認められないから,ロ号物件の販売に本件考案の間接侵害的な要素を認めることもできず,原告らの上記主張は採用できない。


オ 以上を踏まえると,ロ号物件は,原告らの主張によっても,前記のとおり「前記13Ab螺子挿通孔−前記11c上刃固定孔までを,同厚みと,同じ長さを有する2つのB螺子を以て挿通し,Wワッシャーで留める固定方法を採用した」(構成ロ−?)ものであって,螺子挿通孔と,上刃の上刃固定孔と,下刃のガイド孔とにかけて螺子が挿通されている構成を有しないから,同目録ロ−?の「13Ab螺子挿通孔」は本件考案の構成要件Bの「螺子挿通孔」を充足せず,また,同目録ロ−?の「12bガイド孔」は本件考案の構成要件Eの「ガイド孔」を充足しない。

 
したがって,ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。


(3) 以上によれば,被告によるイ号物件の販売等は原告P1の本件実用新案権を侵害する行為であるが,ロ号物件の販売等は本件実用新案権を侵害する行為ではない。


 また,証拠(甲7,8,27)によれば,原告会社は原告P1が全額出資して設立された従業員6名の小規模会社であり,設立当初から原告P1が代表者を務めていること,本件考案の実施品は原告会社のみが製造販売しており,他に原告P1が本件考案の実施許諾をしている例はないこと,本件警告後に被告が原告P1に対して本件実用新案権の実施許諾を求めたのに対して, , 原告P1はこれを明確に拒否したことが認められこれらの事実からすると原告会社は原告P1から本件実用新案権について独占的通常実施権の設定を受けたものと推認される。したがって,被告によるイ号物件の販売は,原告会社の独占的通常実施権も侵害する行為となる。  』


 と判示されました。

 
 つまり、上記判決文で引用はしていませんが、準用する特許法第70条2項の記載により、明細書および図面の記載、特に従来技術と比べ特徴的な作用効果の記載を参酌して、構成要件Bの「螺子挿通孔」及び構成要件Eの「ガイド孔」の用語の意義を解釈し、ロ号物件については本件実用新案登録請求の範囲に属さないと判断したようです。
 

 詳細は、本判決文を参照願います。

 
 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)19307 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟半導体装置のテスト方法,半導体装置のテスト用プローブ針とその製造方法およびそのプローブ針を備えたプローブカード」平成19年11月14日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071120101709.pdf
●『平成18(ワ)6536等 実用新案権侵害差止等請求事件 実用新案権「爪切り」平成19年11月19日 大阪地方裁判所』(一部認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071120131248.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『サムスンSDI松下電器との特許訴訟で和解へ(YONHAP NEWS)』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071120-00000016-yonh-kr
●『中国企業、私営が550万社突破・全体の80%超、経済の主役に』http://www.nikkei.co.jp/kaigai/asia/20071119D2M1900Q19.html
●『ボナージの再審理請求は棄却、ベライゾンへの賠償額1億1750万ドルが確定(CAFC)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2218
●『特許のマッチング成約件数、1万件を突破(工業所有権情報・研修館)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2220
●『EPOアストラゼネカのMUPS特許は有効と判断(アストラゼネカ)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2219
●『日中特許庁が協力関係を強化(特許庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2222
●『<価格カルテル>EUがソニーなど3社に制裁金122億円』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071120-00000171-mai-bus_all