●平成19(行ケ)10031 審決取消請求事件「カデュサホスのマイクロカ

  本日は、『平成19(行ケ)10031 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「カデュサホスのマイクロカプセル化製剤」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106161402.pdf)について取り上げます。


  本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


  本件では、進歩性の判断、特に、化学分野の発明における、発明の進歩性と効果の記載との関係で、参考になる事案かと思います。


つまり、知財高裁(第1部 塚原朋一 裁判長裁判官)は、


2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について


 ・・・省略・・・


(2) 審決は,「本願発明1には,本願発明1の製造方法により得られた製剤が有する効果とされる,従来のカデュサホス製剤と同等の活性をもった上で哺乳動物に対する毒性が顕著に低いという効果を有していない製剤についての製造方法が含まれている。してみると,本願発明1は刊行物Aのカプセル製剤の製造方法に比較し,活性効果を減少させることなく,哺乳動物等に対する毒性が顕著に低いという予測し得ない効果が奏されたものとすることはできず,本願発明1が,引用例A〜Cから予測し得ない格別の優れた効果を奏するということはできない。」(13頁下から第3段落)としたのに対し,原告は,本願発明1が,予期せざる顕著な効果を有する旨主張する。


ア 本件において,前記(1)のとおり,刊行物Aのマイクロカプセル化の方法をカデュサホスに適用することは当業者にとって容易であったと認められる。


 このように出願に係る発明を特定する構成について当業者が容易に想到することができたといえる場合であっても,同発明が奏する効果が,当業者がその構成のものとして予測し得る効果と比較して顕著なものである場合には,当該発明について,当業者はそのような効果を有する発明として容易に想到することができたとはいえないすることが相当である。


 本件において,刊行物Aには,ほ乳動物等に対する毒性を低くする目的で殺虫剤をカプセル充填することが記載されているが,前記のとおり,刊行物Aに記載された発明(引用発明)に内在する目的からも,殺虫活性の可能な限りの維持と毒性の低下という効果は,引用発明においても奏することが期待されたといえる効果である。したがって,刊行物Aに記載された方法を,刊行物Bにおいて農薬として記載された公知の殺虫剤成分であるカデュサホスに適用した場合における,殺虫活性の可能な限りの維持と毒性の低下という効果は,当業者が予期し得たものであるといえる。


 そうすると,原告が本願発明1の効果として主張する,殺虫活性の可能な限りの維持と毒性の低下という効果は,本願発明1の構成のものとして,当業者が予測し得るものともいえ,その効果自体を直ちに当業者の予測し得ないものであるということはできない。


 原告は,本願発明1の効果が顕著な効果であることをいうのであるが,本願発明1の構成のものとして当業者が予測し得る効果と比較してどのように顕著であるか,すなわち,公知の農薬のマイクロカプセル化の構成のものと比較して本願発明1が,どのような点において,顕著な効果を奏するものであるかについて,主張,立証はない。原告は,本件明細書の表7及び8の結果などから,本願発明1の効果が顕著である旨主張するのであるが,これらの表は,本願発明1の効果とマイクロカプセル化されていない製剤であるカデュサホス100MEとの比較であるから,本願発明1の構成のものとして,いいかえれば,公知の農薬のマイクロカプセル化の構成のものとして,当業者が予測し得る効果に比べどのように顕著であるかについての根拠となるものではない。


 そして,本願発明1は,多官能性化合物を界面重合させてマイクロカプセル化する製剤の製剤方法であるが,有効成分に基づく毒性及び活性は,マイクロカプセルの皮膜からの有効成分の放出性能,透過性能によるものであり,それらの性能は,マイクロカプセルの皮膜に用いる高分子化合物の種類,組成,皮膜形成のための界面重合条件等に左右されるものと認められるところ,本願発明1においては,マイクロカプセルの皮膜に用いる高分子化合物の種類,組成等の性質の特定はされていない。そのような本願発明1が,公知のマイクロカプセル化製剤法の方法と比較して,顕著な効果を奏するものとは直ちには認められない。


 したがって,本願発明1は,本願発明1の構成のものとして当業者が予測し得る効果と比較して,顕著な効果を奏するものとは認められず,本願発明1の容易想到性の判断において,本願発明1は顕著な効果を奏するとは認められないとした審決に誤りはなく,原告主張は採用できない。


イ 被告が,具体的に好適な効果が示されているのは,本願発明1の製造方法のうち,ごく一部の特定された実施態様のもののみであり,本願発明1全体の作用効果は,何ら示されていないこと,本件明細書の実施例に示したデータに優位な結果を示さないデータが存在することを主張するのに対し,原告は,特定の実施態様以外について,本願発明1の目的・効果を示さないことを被告が立証していないこと,目的・効果が確認されている実施態様が特許請求の範囲に記載された発明全体を裏付けるに足るものかどうかは,明細書の記載要件,すなわち,特許法36条の問題であること,化学的発明の実験において,良いデータと悪いデータが混在することはごく自然なことであることを挙げ,被告主張が失当である旨主張する。


 しかし,当該構成のものとして当業者が予測し得る効果と比較して顕著な効果を奏する場合,当該発明は,当業者が容易に想到することができたとはいえないのではあるが,本願発明1がそのような顕著な効果を奏すると認められないこと,したがって,容易想到性の判断において,本願発明1について,顕著な効果を奏するとは認められないとした審決に誤りはないことは,上記アのとおりである。


 そして,出願に係る発明の構成のうち,ごく限定された実施態様についてだけその効果が示されているが,技術常識に照らせば,その効果が,出願に係る発明として記載された構成に含まれるものすべてについて及ぶと推測することができないような場合,出願に係る発明として記載された構成に含まれるものすべてについて,効果を根拠として,その構成に想到することが容易であるといえないとすることはできないのであり,審決は,その趣旨で,本件明細書に記載されている効果が示されているのがごく一部の実施態様に限定されることを指摘したものと解することができ,これはいわゆる記載要件の不備とは別の問題であって,原告の主張は,採用することはできない。


 また,前記のとおり,本件においては,公知の農薬のマイクロカプセル化の構成のものと比較して,本願発明1が,どのような点において,顕著な効果を奏するものであるかが問題となるのに,本件明細書においては,そのような効果に係る記載はないといえるのであるから,化学的発明の実験において,良いデータと悪いデータが混在することはごく自然なことなどをいう原告の主張は,結論を左右するものではない。



(3) 原告は,本件出願に対応する出願は,多くの国で既に特許として成立していて,特許が成立していないのは,本願発明1等だけであるとか,米国特許の審査過程では,引用例の一つとして,刊行物Aに対応する米国特許第4,107,292号が引用されながら,特許が成立していることを挙げる。しかし,他国における特許成立の事実が,直接我が国における判断を左右するものではなく,本願発明1について,審決の判断に原告主張の誤りのないことは,上記のとおりである。


(4) したがって,原告主張の取消事由2は採用できない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成19(ワ)4822 損害賠償等請求事件 著作権 民事訴訟平成19年11月16日 東京地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071119153006.pdf
●『平成19(行ウ)482 処分取消請求事件 特許権 行政訴訟「微弱電流施療具」平成19年11月09日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071119132628.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『Microsoftが特許侵害訴訟で勝訴,哀れな原告は返り討ちに』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071119/287511/
●『マイクロソフト海賊版ソフト防止技術を特許侵害、損害賠償金1億4200万ドル(CAFC)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2213
●『米国でのインクカートリッジの特許侵害訴訟で、キャノン勝訴(CAFC) 』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2212
●『特許の質は向上傾向に,USPTOの2007年度報告書、(USPTO)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2207
●『日米欧三極特許庁長官会合、協力体制の強化で合意(特許庁)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2201
●『知財訴訟の審理がスピードアップ、10年間で半分の1年に』http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071119i306.htm?from=main3
●『国産ネット検索開発を後押し・政府が知財戦略報告書』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071119AT3S1800O19112007.html
●『中国政府との連携強化で模倣品対策に成果』http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/nissan20071119.html