●平成19(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権「皮膚外用剤」

  本日は、『平成19(行ケ)10098 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「皮膚外用剤」平成19年11月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071114094601.pdf)について取り上げます



 本件は、請求項1,2につき特許無効審判請求をしたところ,特許庁は請求項1に係る発明についての特許を無効とし,請求項2に係る発明についての請求を不成立とする審決をしたため、上記審決のうち請求不成立とされた部分についての取消を求めた事案で、その請求が認容された事案です。


 本件では、「本件明細書で比較対象とされた比較例は従来技術には当たらないものであってこれをもとに本件発明2が従来技術を超える効果があると認定した審決は誤りであり,本件明細書に開示された実験結果によって発明の効果を認めることはできない。」という原告の主張が認められ、本件発明2が特許法36条6項1号の要件(いわゆるサポート要件)であると判断された点で、参考になる事案かと思います。


  つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長裁判官)は、


『6 取消事由9について

 原告は,本件明細書で比較対象とされた比較例は従来技術には当たらないものであってこれをもとに本件発明2が従来技術を超える効果があると認定した審決は誤りであり,本件明細書に開示された実験結果によって発明の効果を認めることはできないと主張する。原告の主張は,法36条6項1号の要件(「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」。原告のいうサポート要件)を満たさない旨の主張と解されるから,以下この点について判断する。


 本件明細書(甲1)には,以下の記載がある。


  ・・・省略・・・


(3) 上記記載によれば,本件明細書には,その実施例2に,コラーゲンペプチドであって平均分子量1,000,3,000,5,000又は10,000のもののいずれか0.01重量%と,松樹皮抽出物であって2〜4量体の比が4又は0.75のもののいずれか0.01重量%(ただし,松樹皮抽出物は2〜4量体及び5量体以上であるプロアントシアニジン以外の成分も含むので,プロアントシアニジンの含有量は前者では2〜4量体0.004重量%と5量体以上0.001重量%になり,後者では2〜4量体0.003重量%と5量体以上0.004重量%になる。)を含む8通りの組み合わせの化粧水について,皮膚に塗布し0.5時間,1時間,1.5時間及び2時間後の皮下の血流量を測定し,また,皮膚に塗布し2時間後の電気伝導率により保湿性を評価したことが記載されている(コラーゲンペプチドの平均分子量3000又は5000のものと,2〜4量体の比が4のものの組み合わせが実施例であり,他は比較例である。)。


 その結果は,どの平均分子量のコラーゲンペプチドと組み合わせて用いた場合でも,2〜4量体の比が4のものは,該比が0.75のものと比べて,血流改善効果等において優れている。特に,図1によれば,2時間後の血流改善率は,コラーゲンペプチドの平均分子量が3,000のとき,2〜4量体の比が4のもの(化粧水2)は180%程度の増加であるのに対し,該比が0.75のもの(化粧水6)は50%程度の増加に留まり,コラーゲンペプチドの平均分子量が5,000のときは,160%程度(化粧水3)に対しほぼ0%(化粧水7),というように,前者が顕著に優れており,コラーゲンペプチドの平均分子量が7,000のものについては,データは示されていないものの,コラーゲンペプチドの平均分子量が10,000のときの40%に対しほぼ0%との結果から,前者が相応に優れることが推定される。保湿効果の点でも,前者が優れているといえる。


(4) しかし,上記につき本件明細書の記載を子細にみると,段落【0051】(プロアントシアニジンの調整)によれば,上記実施例に用いられる前提として調製されたプロアントシアニジンは,2〜4量体のプロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジンより多く含まれる松樹皮抽出物については,商標名:フランバンジェノール,株式会社東洋新薬(被告)の製品そのままであり,これを水溶液へ溶解する等して保湿効果,血流改善効果等のみられたとする化粧水2,3としている。そして,これと比較する5量体以上のプロアントシアニジンを2〜4量体のプロアントシアニジンより多く含む松樹皮抽出物は,上記既製品を機械で分離し,5量体以上のプロアントシアニジンを回収して,これを上記製品と混合して得られたものであり,これが化粧水6,7等として用いられている。


 そして,上記比較対象となる2〜4量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物では,成分が2〜4量体のプロアントシアニジンが40重量%,5量体以上が8.7重量%,カテキンが5.1重量%であり,5量体以上のプロアントシアニジンを多く含む松樹皮抽出物では2〜4量体のプロアントシアニジンが27重量%,5量体以上が39重量%,カテキンが1.7重量%である。上記フランバンジェノールが他の成分も当然含むことをひとまずおくとしても,カテキンの含有量が異なっていることが指摘できる。

 そして,カテキンに関し,上記(2)段落【0032】【0033】のとおり,2〜4量体のプロアントシアニジンの作用を増強する働きをし,しかもカテキン類は5重量%以上含有することが望ましいとされていることからすれば,本件明細書に開示された内容(上記化粧水2,3が化粧水6,7等に比べ保湿効果,血流改善効果がある等)からは,本件発明2における「該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2〜4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点につき,本件明細書の発明の詳細な説明にこれを十分裏付ける記載がないというほかなく,いわゆる原告のいうサポート要件を欠くというべきである。そうすると,原告の取消事由9の主張にも理由があることになる。


(5) また,上記のような比較方法を前提とし,本件発明2が甲2発明との相違点1,2につき容易想到であることからすると,化粧水2,3につき血流改善等に効果がみられるとの点は,その比較対象となった化粧水6,7等について,これらが当業者の認識する従来技術に属する製品であるとは到底認められないから,本件発明2に従来技術から当業者には予測もつかない顕著な効果があると認めることもできないというべきである。


7 結語


 以上の検討によれば,原告主張の取消事由2及び4,9は理由があり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

 
 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。



 詳細は、本判決文を参照してください。