●平成19(行ケ)10183 審決取消請求事件 商標権「みずほ新光証券」

 本日は、『平成19(行ケ)10183 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「みずほ新光証券」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106161802.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録無効審決の取り消しを求めた審決取消訴訟であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標の類比の判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 塚原朋一)は、


1 取消事由1(商標の類否判断の誤り)について


(1) 審決は,「本件商標と引用商標とは,その指定役務において抵触するところがあるとしても,その称呼,外観及び観念のいずれかの点からみても,非類似の商標といわなければならない。」(審決謄本9頁第5段落)と判断したのに対し,原告は,審決の判断が誤りである旨主張する。


(2) 本件商標は,「みずほ新光証券」の文字を標準文字で表してなるものである。本件商標は,証券会社を表すことが明らかである「証券」の部分を有することからも,「みずほ新光」との名称の証券会社を表すものとの観念が生じ,また,「ミズホシンコウショウケン」との称呼を生じるものである。


 他方,引用商標は,「みずほねっと」の文字を標準文字で表してなるものであり,平仮名からなる造語である。


 もっとも,引用商標の構成文字中,「みずほ」には,「みずみずしい稲の穂」(広辞苑第5版)との意味がある。そして,引用商標は,第35類の「広告,商品の販売に関する情報の提供」や第38類の「電気計算機端末による通信ネットワークへの接続の提供」を指定役務とするものであって,引用商標がそれらの指定役務に使用される場合には,広告,商品の販売に関する情報の提供が,通信ネットワークを通じてされることもあったり,人などのつながり(ネットワーク)を通じてされることもあったりすること,通信ネットワークや通信ネットワークをネットと略称したり,インターネットを特にネットと略称することがあることなどから,引用商標の「ねっと」の部分については,ネットワークやインターネットの略称との観念を生じることが全くないとはいえない。


 しかしながら,引用商標の「ねっと」の部分について,上記のような観念が生じることが全くないとはいえないとしても,そのことにより,直ちに,原告主張のように,引用商標において,「ねっと」の部分が自他識別力がないとか希薄な部分となり,「みずほ」の部分が自他識別力がある部分になるとは認められない。引用商標は,「みずほねっと」という6文字の平仮名を同書,同大,同間隔に書してなるという構成である。「ねっと」の語が一義的に何らかの役務の性質等を示すものとはいえないこと,引用商標において,「ねっと」の部分は他の構成部分と構成上も区別がなく,「ねっと」の部分につき,何らかの役務の性質等を示す部分であると直ちには区別できるものではないこと,引用商標は,6文字という文字数や上記の構成から一体のものとしてとらえ得ることからも,引用商標が自他役務の識別機能を果たす際には,構成全体が,一体のものとして結合して自他識別機能を果たしていると認めることが相当である。


 そうすると,引用商標は,「みずほねっと」との引用商標の構成全体が,一体のものとして結合して,自他識別機能を果たしているものであり,その称呼は,「ミズホネット」というものであり,取引者,需要者は,これを一体の造語としてとらえるものである。



 したがって,本件商標と引用商標は,外観,称呼,観念が異なることは明らかであり,その自他識別機能を果たす部分も異なるものであって,その役務の主体につき誤認混同を生ずるおそれはないといえるのであるから,本件商標と引用商標は,類似しない商標である。


(3) 原告は,引用商標の「みずほねっと」の「ねっと」の部分は,引用商標の指定役務の取引者,需要者の視点からすると,インターネット(電子計算機網)やインターネットプロバイダ(電気通信事業者)を表す語といえ,引用商標は,「みずほ」の部分に自他役務識別機能がある旨主張し,審決の商標の類否判断が誤りである旨主張する。


 しかし,引用商標の構成に照らせば,引用商標は,「みずほねっと」との引用商標の構成全体が,一体のものとして結合して,自他識別機能を果たしているものであり,引用商標の指定役務,その取引者,需要者の視点を考慮しても,原告の主張を採用できないことは,上記(2)のとおりである。原告の主張中には,株式会社みずほ銀行や株式会社みずほ証券が有する商標を挙げて,「みずほ」の部分が自他役務識別部分であるとする部分もあるが,引用商標とは異なる構成等を有する商標を挙げるものであり,原告主張は採用の限りではない。


 また,原告は,引用商標について,平仮名表示のみならず,片仮名,ローマ字のでの表示についても,商標の類否の判断において,考慮されるべきであると主張し,社会通念,文化や,商標法50条1項の規定を挙げる。


 しかし,商標法4条1項11号にいう「他人の登録商標」の範囲は,願書に記載した商標(同法27条1項)に基づくものである。また,同法8条の「商標」は,願書に記載した商標(同法5条1項)をいい,これらの商標について,商標の不使用に基づく取消審判請求についての同法50条1項括弧書きは適用されない。原告は,社会通念等の存在をいうが,上記の明文に反するものであり,また,社会通念上,引用商標につき,「ねっと」の部分について,「ネット」,「net」などから想起される観念を生じさせることがないとはいえないとしても,そのことにより本件商標と引用商標が類似するとはいえないことは,上記(2)のとおりである。


 さらに,原告は,「mizuho.net」というドメインを取得しているとして,商標法の類否判断において,ドメイン名のことを考慮すべきであるとか,ドメイン名標章は商標法4条1項11号でなくとも,同項15号において問題となる旨主張する。



 しかし,原告が何らかのドメインを取得したとしても,本件商標と引用商標の類否判断において,引用商標とは別個の,上記ドメインの取得は,無関係というほかない。原告が「mizuho.net」という商標を問題とするのであれば,引用商標とは別個の上記構成を有する商標が本件とは別に問題となるにすぎない。また,ドメイン名標章について,商標法4条1項15号において考慮されるべきであるとする原告の主張が,何らかの取引の実情をいうものとしても,本件においては,後記3のとおり,本件商標は,引用商標を使用していない原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれはないのであるから,本件商標が商標法4条1項15号に該当することはなく,同号該当性に係る原告の主張はその余を判断するまでもなく理由がない。


 その他,本件商標と引用商標が類似する旨の原告主張は,上記説示に照らし採用できない。


(4) 以上によれば,本件商標と引用商標は類似する商標ではなく,これと同旨の審決に誤りはない。


2 取消事由2(商標法4条1項11号の該当性判断の誤り)及び取消事由4(同法8条1項該当性判断の誤り)について


 原告は,本件商標が商標法4条1項11号に該当し,また,同法8条1項に該当する旨主張する。


 しかし,前記1のとおり,本件商標と引用商標は類似しないのであるから,その余を判断するまでもなく,本件商標は,商標法4条1項11号に該当することもないし,同法8条1項に該当することもないから,審決の判断は正当であり,原告の主張は採用できない。


3 取消事由3(商標法4条1項15号の該当性判断の誤り)について


 原告は,本件商標が商標法4条1項15号に該当する旨主張する。


 ここで,原告は,引用商標を使用していないと認めているところ,同商標を使用して業務を行っていないのであるし,引用商標が著名であるとは認められず,本件商標の使用によって,原告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれはなく,本件商標が商標法4条1項15号に該当することはない。


 原告は,本件商標の商標権者である被告の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがあれば,商標法4条1項15号に該当する旨主張するが,同号の「他人」は,同号の該当性が問題となる商標の出願人(本件の被告)を指すものでないことは明らかで,独自の見解であり採用できない。


 したがって,審決の判断は正当であり,原告の取消事由は理由がない。


4 よって,原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


詳細は、本判決文を参照してください。


 なお、同日に出された『平成19(行ケ)10184 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「新光みずほ証券」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106162342.pdf)も同様の判決です。



 追伸1;<気になった記事>

●「弁理士の実務修習制度等に関する検討会報告書について」http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/kenkyukai/benrisi_kentoukai.htm
●『再生品と特許 安いインクがある方が(11月12日)』http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/60001.html
●『最高裁エプソンに特許なし」…カートリッジリサイクル販売訴訟』http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20071112nt0b.htm
●『エコリカエプソン製インクカートリッジ再利用の訴訟に勝訴』http://dc.watch.impress.co.jp/cda/accessories/2007/11/12/7403.html
●『Google、特許侵害で訴えられる』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/12/news049.html
●『ノースイースタン大学、検索特許侵害でグーグルを提訴』http://japan.cnet.com/marketing/story/0,3800080523,20360766,00.htm