●平成19(行ケ)10056 審決取消請求事件「切り取り線付き薬袋の使用

  本日は、昨日に続いて、『平成19(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「切り取り線付き薬袋の使用方法」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106165655.pdf)について取り上げます。


 本件では、さらに、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は同法第53条第1項の規定により却下すべきものとした判断が手続違反になるか否かが争われ、手続違反でないと判示されています。


 つまり、知財高裁(第1部 塚原朋一 裁判長裁判官)は、


1 取消事由1(手続違反)について


(1) 審決は,「本願補正発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する『発明』に該当しないので,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。また,仮に,本願補正発明が特許法第29条第1項柱書に規定する『発明』に該当するとしても,本願補正発明は,引用発明,上述の周知の事実,及び,上述の周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」(7頁第4段落〜第6段落)としたのに対し,原告は,本願補正発明が,発明に該当しないとの拒絶理由は,平成18年4月4日付け(発送日)の拒絶理由通知(甲6)及び同年8月1日付け(発送日)の拒絶査定(甲7)において,全く示されておらず,審決において,本願補正発明が特許法29条1項柱書の発明に該当しないとする判断をするに当たっては,原告に拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して意見を述べる機会を与えなければならなかったのに,そのような通知がされなかったから,審決は,特許法159条2項において準用する同法50条に違反してされたものであるとして,審決が,本件補正を却下したことを誤りである旨主張する。


(2) 審決は,審判請求時にされた本件補正について,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきであるとするところ,本件補正について,これらの条文を適用することに誤りはないし,かつ,補正を却下するに当たり,却下の理由を事前に通知することが必要であるとの規定はないのであるから,審決に原告主張の違法な点はない。


 原告は,審決が,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する旨主張するのであるが,同法159条2項において,同法50条は,「第50条ただし書中『第17条の2第1項第3号に掲げる場合』とあるのは,『第17条の2第1項第3号又は第4号に掲げる場合』」と読み替えて準用され,同法50条は,「審査官は,拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし,第17条の2第1項第3号に掲げる場合において,第53条第1項の規定による却下の決定をするときは,この限りでない。」とされ,補正の却下について意見書を提出する機会は与えなくていいとされているのであるから,本件補正の却下に当たり,補正の却下の理由を事前に通知する必要がないことは明らかであり,原告の主張は採用できない。


 原告は,特許法17条の2第5項の規定によれば,補正後の請求項について独立特許要件が必要とされるのは,同法17条の2第4項2号の場合,すなわち「限定的減縮による補正」がされた場合だけである旨主張する。


しかし,「拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき」(同法17条の2第1項4号)の,特許請求の範囲についてする補正である本件補正は,同条4項に掲げる事項を目的とするものに限られるとされている。そして,同条4項に掲げられた事項と本件補正の内容をみれば,原告は,同項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的として本件補正をしたと解釈するほかないのであって,本件訴訟において,これと異なることをいう原告の主張は採用することができない。


 さらに,原告は,発明に該当しないという拒絶理由は,本件補正により生じた拒絶理由ではなく,本件補正の前から既に存在していたが見落とされていた拒絶理由であるから,本件補正について,特許法17条の2第5項が適用されるべきではない旨主張する。しかし,補正の却下を定めた上記規定において,原告主張を裏付けるといえる規定はなく,原告の見解は独自のものである。原告は,審判請求時に本件補正を行わなかった場合,特許法159条2項が準用する同法50条による拒絶理由通知を発することなく,いきなり不意打ち的に「発明該当性の欠如」を理由として拒絶審決を行うことが許されないこととのバランスなどもいう。


しかし,上記各規定に照らしても,出願についての拒絶の査定を維持する審決とその手続における補正の却下において,出願人に対する事前の理由の通知(拒絶の査定を維持する審決においては,査定と異なる拒絶の理由の通知)の必要性については,取り扱いが異なるのであり,また,出願そのものと補正との違いからも,補正を却下する場合に事前にその理由の通知をしなければ不合理であるとは必ずしも認められず,原告の主張は採用できない。


(3) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<気になった記事>

●『消耗品ビジネスに「お墨付き」=高収益構造維持―キヤノン勝訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071108-00000217-jij-biz
●『<特許権訴訟>キヤノンの逆転勝訴確定』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071108-00000115-mai-soci
●『キヤノンの勝訴が確定 カートリッジ訴訟で最高裁判決』http://www.asahi.com/national/update/1108/TKY200711080456.html
●『交換インク、再生品は特許侵害 キヤノン勝訴が確定』http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2007110902062933.html
●『インクカートリッジ再利用は特許侵害、キヤノンの勝訴確定』http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071108it12.htm
●『再生インク販売に打撃? 分かれる最高裁判決の評価』http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/071108/trl0711082018002-n1.htm


追伸2;<新たに出された知財判決>

●『平成18(受)826 特許権侵害差止請求事件「液体収納容器」平成19年11月08日 最高裁判所第一小法廷 』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071108162351.pdf

 ・・・上記のキャノン勝訴のインクタンク事件の最高裁判決文です。