●平成19(行ケ)10050 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「DB9」

  本日は、昨日に続いて、『平成19(行ケ)10050 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「DB9」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106155409.pdf)について取り上げます。


 本件では、「DB9」の欧文字及び数字を横書きにしてなる本願商標は,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなるとして,本件指定商品又は本件指定役務に使用しても,自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を有しないものであり,需要者が何人の業務に係る役務であるかを認識することができず,商標法3条1項5号に該当するとした判断したものの、3条2項により使用による識別力が認められるので、審決が取り消されるものと判断しました。


 つまり、知財高裁(第1部 塚原朋一 裁判長裁判官)は、取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について、


2 取消事由2(商標法3条2項該当性判断の誤り)について


(1) 審決は,「DB」にシリーズ番号ともいえる「9」が付された商標は,全体として,アストンマーチンの社名ブランドであるDBシリーズの歴代車種の一つを容易に想起させるものである旨の原告の主張を排斥したのに対し,原告は,審決の判断が誤りであり,本願商標は,使用の結果,識別力を取得している旨主張する。


(2) 商標法3条2項は,同条1項5号に該当する商標であっても,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」は,商標登録を受けることができるとする。


 この趣旨は,当該商標が,本来であれば,自他商品識別力を持たないとされる標章であっても,特定人が当該商標をその業務に係る商品,役務に使用した結果,当該商品等から,商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に,広く知られるに至った場合には,登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しいといえること,当該商標の使用によって,商品等の出所であると認識された事業者による独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者等に,当該商標を使用する余地を残しておく公益的な要請は喪失したとして差し支えないことにあるものと解される。


  商標が商標法3条2項の規定により商標登録を受けることができるものであるかを判断するに当たっては,上記の観点を勘案して,当該商標及び商品,役務の性質・態様,取引の実情等を総合考慮すべきである。



・・・省略・・・



(5) 本願商標が,本願商標から商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に広く知られるに至ったかについて以下,検討する。


ア 原告が本願商標の使用を開始したのは,比較的近年であり,本願商標を付した商品の広告を全国紙の新聞に掲載したことは認められるが,そのような広告が何回掲載されたかは不明である。また,原告が製造する自動車の日本における販売台数は,日本の自動車販売数全体に比し,非常に小さいものである。そして,本件において,証拠として提出された,DB9との名称の車について扱われた記事の数は必ずしも多いものではない。


 しかし,「automobiles」(自動車)をめぐる取引の実情等をみると,有名な自動車メーカーの数自体がさほど多くないこと,新車等の発表は,極めて頻繁に行われるとまではいえないこと,性能やスタイルへの魅力等から,特に,高級とか有名とされる自動車に注目する取引者,需要者は数多くいることなどから,有名な自動車メーカーが新たに発表する自動車や,名車とされるもののシリーズとして新たに発売される自動車について,その名称も含め積極的に注目する取引者,需要者が,類型的に相当程度いることは明らかである。


 したがって,この分野においては,広告や記事の数,販売数量が必ずしも多いとはいえない場合であっても,ある商標が取引者,需要者に広く知られることがあると認められる。


 本件について,原告は,高級スポーツカーのメーカーとして知られていて,原告の製造した自動車もDBシリーズとして自動車に相当程度の関心がある者の間で知られていたことに,「atutomobiles」の分野の上記の取引の実情を考慮すると,同分野の取引者,需要者において,原告が新たに発表するDB9との名称の車に,発表時や日本での発売時に積極的に注目する者が,類型的に相当程度いると認められのであり,現に,DB9との自動車がニュースという形や雑誌の記事等で注目されたりしていること,そこにおいて,DB9は,「アストンマーチンDB9」というように社名であるアストンマーチンと一体としてのみ使用されるものではなく,独立して,DB9が車名を表すものとして使用されていること,広告もされていることなどから,本願商標は, 審決時(平成18年9月25日) には,「atutomobiles」の分野の取引者,需要者に,本願商標から原告との関連を認識することができる程度に広く知られていたと認めることが相当である。


イ 被告は,出願商標の指定商品,役務の一部に登録を受けることができないものがあるときは,その出願は全体として登録を受けることができない旨主張する。


 ここで, 「automobiles bicycles」以外の本件指定商品についてみると,「motorcycles」は,「automobiles」と同じく移動用車両であり,自動車メーカーがそれらの商品を製造することがあること(甲82ないし84)からもうかがえるように,取引者,需要者が類型的に重なる部分があり,このことからすると,上記アにあげたような諸事情に照らせば,本願商標は,同分野の取引者,需要者にも,本願商標は,本願商標から原告との関連を認識することができる程度に広く知られていたと認められるし,「parts and fittings therefor」も,その取引者,需要者が,上記指定商品と重なるといえることからすれば,同様である。本件指定役務である「Repair, restoration, maintenance, reconditioning, diagnostic tuning, cleaning, painting and polishing services of land vehicles and parts and fittings therefor」についてみても,これらの役務の取引者,需要者は,本件指定商品の取引者,需要者と重なるといえるし,製品の製造とその修理等は密接に関連するので,本件指定役務に本願商標が付されていれば,取引者,需要者は,それが原告の業務に係る役務を示すものであると理解することがあると認められるものと認められる。


ウ したがって,本願商標は,本件指定商品,役務の取引者,需要者に,本願商標から原告の業務との関連を認識できる程度に,広く知られていた。


(6) 以上のとおり,本願商標に係る商品,役務の性質・態様,取引の実情等に照らすと,本願商標は,原告の使用の結果,取引者,需要者に,本願商標から原告の業務との関連を認識することができる程度に,広く知られるに至っていて,これに登録商標として保護を与えない実質的な理由に乏しい。


 また,本件指定商品,役務の分野において,原告を出所として表すと広く認識されるDB9との標章について,これを原告以外の者が,自己の業務に係る商品,役務を表す標章として使用している事実を認めるような証拠は本件において提出されていないのであり,本件指定商品,役務の分野において,本件においては,本願商標の原告による独占使用が事実上容認されているものと認められる。


 審決中には,DBとの標章がホンダインテグラの型式名として使用されている事実が指摘されているが,そこでは,DB9は,型式名として使用され,自己の業務に係る商品,役務を表す標章として使用されていない。なお,本願商標は,例えば,数字だけからなるとか,欧文字1文字又は2文字だけからなる商標に比し,自他識別機能を獲得しやすい面があるし,公益的な見地から商標登録を認めないとする要請が後退しやすい面がある。



 したがって,本願商標は,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」(商標法3条2項)であると認めることが相当である。


(7) 被告は,「DB○」(「○」の部分は数字)の標章を用いる場合や,「DBシリーズ」の語が記載された雑誌やインターネットの情報は極めて少数に限られ,そのいずれもが,「アストンマーティン」,「Aston Martin」等の名称と関連付けられているとして,「アストンマーティン」や「Aston Martin」等の名称との関連付けのない場合においてまで,「DBシリーズ」と称される名称が世界有数の著名ブランドの一つとなっているとは,到底認められない旨主張する。


 しかし,前記のとおり,本件指定商品等の分野においては,取引の実情等を考慮すると,広告や記事の数,販売数量が必ずしも多くない場合であっても,ある商標が取引者,需要者に広く知られることがあり,本件は,個別の広告等によって本願商標が広く知られるようになったというものではないから,証拠として提出された情報の数が直ちに広く知られているか否かを決定するものではない。


 また,確かに,DBシリーズやDB9の語が記載された雑誌やインターネットの情報において,それらは,「アストンマーティン」,「Aston Martin」社のものとして,説明されている。しかし,それらの記事においても,原告が製造した自動車を表す場合,必ず,「アストンマーティンDB9」として使用されているものではなく,本件指定商品等の取引者,需要者に,DB9との名称の車に積極的に注目する者が類型的に相当程度いるといえるなどの前記の事情を考慮すると,被告指摘の事実は,直ちに上記の判断を左右するものではない。


(8) 被告は,「DB9」と称される原告製造に係る自動車の生産,販売台数が極めて少ないものと推認されることから,「DB9」が,アストンマーチン社のスポーツカーを指し示すものとして,愛好家のみならず一般の自動車購買者の間でも広く認識された社名ブランドであるということはできない旨主張する。


 確かに,本願商標が付された自動車の日本における販売台数は,少ないものであるが,販売数量と関係なく,商標が取引者,需要者に広く知られるといえる場合はあり,本願商標は,前記(5)のとおり,このような場合に当たるから,被告主張の原告の自動車の販売数量は,上記(5)の判断を左右するものではない。


 また,商標法3条2項に該当する商標と認められるためには,当該商標から,商品等の出所と特定の事業者との関連を認識することができる程度に広く知られるに至ったといえる必要があり,取引者,需要者に,偶然,広告を見たとか,個人的な関係があるとか,一般的とはいえない特別な関心を持っていたため,知られていたと評価されるような場合に当該商標の保護を認めることは相当でないし,また,商標権が全国的に及ぶことからも,地域的に限られた範囲においてのみ,知られているといえるような場合においても,その商標が広く知られているとして保護するのは相当ではない。


 しかし,商標の保護が認められるためには,取引者,需要者のすべてが知っているといえるまでの必要はなく,個別的な事情に基づかず,その商標が特定の者の出所を表すものであることを知っている取引者,需要者が類型的に相当程度いるということが一般的にいえるような場合には,その商標は,一般的に,商標としての機能を果たしている場合があるのであるから,保護を認めることが相当である。


 そして,本件については,取引の実情等も含めた前記各事情に照らすと,本件指定商品,役務の分野の取引者,需要者においては,本願商標を原告の業務の係る標章であると認識する者が,類型的に相当程度存在するといえるものであり,本願商標について,広く知られるに至ったと認めることが相当である。


(9) 被告は,出願商標の指定商品,役務の一部に登録を受けることができることができないものがあれば,出願は全体として登録を受けることができないとした上で, 原告が提出する証拠に基づいては, 「automobiles」が, 「bicycles」や「motorcyles」と高い関連性を有するとすることはできない旨主張する。


 出願商標の指定商品,役務の一部に登録を受けることができることができないものがあれば,出願は全体として登録を受けることができないものであるとしても,前記のとおり,商標の保護が認められるためには,取引者,需要者のすべてが知っているといえるまでの必要はなく,個別的な事情に基づかず,その商標が特定の者の出所を表すものであることを知っている取引者,需要者が類型的に相当程度いるということが一般的にいえるような場合には,その商標について広く知られているといえる。


 そして,「bicycles」や「motorcyles」に属する商品を自動車メーカーが製造することがあり,それらの取引者,需要者と,「automobiles」の取引者,需要者についても, 類型的に重なる部分があることが認められることなどから「automobiles」以外の本件指定商品,役務についても,本願商標が,本願商標から原告との関連を認識できる程度に広く知られるに至っているといえることは,前記(5)イのとおりであり,被告の主張は採用することができない。


(10) したがって,原告主張の取消事由2は理由がある。


3  よって,原告主張の取消事由2は理由があるから,原告の請求は理由があり,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<新に出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10139 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「紙製容器」平成19年11月06日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106154114.pdf
●『平成16(ワ)7663 商標権侵害差止等請求事件 商標権 民事訴訟「LOVE ラブ」平成19年11月05日 大阪地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106102926.pdf
●『平成19(行ケ)10056 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「切り取り線付き薬袋の使用方法」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106165655.pdf
●『平成18(行ケ)10446 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「遊技機及びその制御装置」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071106164351.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『IEEE Spectrum誌、世界企業の特許力ランキングを発表(IEEE Spectrum)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2132
●『塩野義、中間期の特許料収入は前年同期比86.1%増の154億円(塩野義製薬)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2134
●『MPEG LA、アルカテル・ルーセントMPEG-2の契約不履行で提訴(MPEG LA)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2136
●『MPEG LA Sues Alcatel Lucent for Breach of MPEG-2 Patent Pool Contractual Obligations』http://www.mpegla.com/news/n_07-11-05_pr.pdf