●平成19(ワ)11136 不正競争行為差止等請求事件「魚礁の形態模倣」

 本日は、『平成19(ワ)11136 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「魚礁の形態模倣」平成19年10月23日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071101085733.pdf)について取り上げます。


 本件は,原告が製造・販売する魚礁の形態は商品等表示として周知で,被告製品の形態は原告製品の形態とほぼ同一であるとして被告製品の製造・販売は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張し損害賠償等を求めると共に、原告特許権を侵害すると主張して,被告らに対し損害賠償を求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点として、

(1) 被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するか(争点1)。
(2) 先使用(不正競争防止法19条1項3号(争点2))
(3) 被告製品21M型は,本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点3)。
(4) 本件特許は無効とされるべきものか(争点4)。
(5) 損害額(争点5)


 が争われ、東京地裁は、争点1,3について判断して、原告の請求を棄却しました。



 つまり、東京地裁(民事第46部 設樂隆一 裁判長裁判官)は、まず、争点1について、


1 争点1(被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するか。)について


(1)商品の形態の商品等表示性について


 不正競争防止法2条1項1号が,他人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用することを不正競争行為と定めた趣旨は,上記の使用行為により,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止し,もって,周知な商品等表示が有する営業上の信用を保護することにある。


  商品の形態は,本来的には,商品としての機能・効用の発揮や商品の美観の向上等のために選択されるものであり,商品の出所を表示する目的を有するものではない。しかし,特定の商品の形態が独自の特徴を有し,かつ,この形態が長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,当該商品等の形態が,同号にいう「商品等表示」として保護されることになると解すべきである。


  なお,商品の形態における独自の特徴について補足すれば,この独自の特徴とは,商品の機能に由来するものであることから,ただちに独自の特徴を有することを否定されるべきではないものの,その形態が他の同種の商品と比べ,需要者等の感覚に端的に訴える独自の意匠的特徴を有し,需要者等が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであることが必要であると解すべきである。この意味で,単に商品の機能に由来する形態の場合,独自の意匠的特徴を有し,出所表示機能を備えた商品表示とはなりにくいことが多いということはできるであろう。


(2)原告製品の形態の商品等表示性について


ア 証拠(甲1,2の1ないし12,5ないし9,11,12,13の1ないし13,14,15の1及び2,17ないし52,乙3,4,8,9,10の1及び2,11ないし13)及び弁論の全趣旨によれば,第2の1記載の事実のほか,以下の事実が認められる。


 ・・・省略・・・


イ 以上によれば,原告製品の形態は,鋼材フレームの形状と,同フレーム製構造物へのカキ殻入り通水性ケースの取付方が,設置場所,使用目的,対象とする魚介類の種類により様々に異なるものであることは,上記認定のとおりであるから,その形態の全体的特徴を捉えにくいものである。


 また,複数のカキ殻入り通水性ケースを鋼材フレーム製構造物内に適宜配置する,との原告が主張する形態の特徴も,その人工魚礁としての目的,機能,効用に由来するものであって,原告製品の意匠的特徴というよりは機能的特徴であり,需要者が一見して特定の営業主体の製品であることを理解し得る自他識別力のあるものということはできないこと,及び,上記認定のとおり,人工魚礁の取引の実情が,製品のデザイン性というよりは,専ら製品の機能,効用,効果を重視して製品を選択するものであることからすれば,原告が原告製品の形態の特徴及び要部と主張するものは,原告製品の構造的,機能的な特徴を表したものにすぎず,需要者(人工魚礁を新規に採用,購入,設置する者)としても,貝殻を詰めた通水性ケースという形態に着目して原告製品を採用ないし購入するわけではなく,貝殻を詰めた人工魚礁としての原告製品の機能,人工魚礁としての魚介類の蝟集効果の高さ(しかも,従前の設置例によって示された効果のみならず,試験設置によって実証された効果)等に着目して原告製品を選択しているものと認められる(原告自身も,原告製品が多くの事業主体で採用されている要因は,原告独自のノウハウである潜水による効果確認を繰り返し実施してきたことにあると主張しているところである。)。


 よって,原告が主張する原告製品の特徴は,それ自体が顧客吸引力を有する周知商品表示であると認めることはできず,不正競争防止法2条1項1号にいう周知商品等表示であるということはできない。


(3) 原告製品の形態と被告製品の形態との類似性について


上記(2)で判断したところによれば,被告らの行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当しないことは明らかであるが,さらに付言するに,原告製品の形態と被告製品の形態とは,類似し,混同を生じさせるものとは認められない。


 すなわち,原告が原告製品の形態の要部であると主張する通水性ケースは,直径数十センチ,長さ約1ないし2メートルと推認される細長い筒状のもので,その両端は閉塞されており,ケース自体の編み目は,枡目状で,ケース内に充填された貝殻が外部に流出しない程度に細かいものであり,ケース全体に貝殻が充填されている(甲1)のに対し,被告製品のFRP製蛇籠は,直径約1.4ないし1.6m,高さ(長さ)約7メートルの太い円筒形状のもので,その両端は開放されており,蛇籠の編み目は,らせん状で,粗く,蛇籠それ自体によっては内部に入れたホタテ貝殻の流出は防げないもので,更にメッシュ状のものを使用してホタテ貝殻を入れており,ホタテ貝殻が入れられているのは蛇籠の下部のみであり,蛇籠の上部,中部は,何も充填されない空間となっている(甲3,4,乙5,6 。)


 以上のとおり,原告の主張する要部を前提としても,原告製品に用いられている貝殻入り通水性ケースと被告製品のホタテ貝殻入り蛇籠とは,その外観,形状において大きく異なるものであるから,被告製品の形態が原告製品の形態に類似し,混同を生じさせるものと認めることはできない。このような外観・形状の具体的な差異を捨象して両製品の形態の類似性を認めるのは「貝殻入り通水性ケース」としての機能,効果を有するものであれば,類似性を認めるに等しく,不正競争防止法2条1項1号が,需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えた独自な特徴を有する形態に化体された営業上の信用を保護するものであることに鑑み,適切ではない。


(4) 小括


 よって,被告旭化成リンテックによる被告製品の販売促進活動及び被告旭化成建材による被告製品の製造・販売は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当しない。 』


 と判示されました。

 
詳細は、本判決文を参照してください。



 なお、「商品の形態の商品等表示性について」は、先日の10/24〜26の日記で取り上げた取り上げた、
●平成7(ワ)13557 不正競争 民事訴訟「プリーツ・プリーズ事件」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20071024)や、
●平成11(ヨ)22125 不正競争仮処分事件 民事仮処分「iMac事件」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20071025)、
●平成18(ワ)4933 不正競争行為差止等請求事件「耳かき事件」(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20071026)
でも同様の判断がなされていますので、こちらも併せて参照してください。