●平成19(行ケ)10158 審決取消請求事件 商標権「COMPASS」

 本日は、『平成19(行ケ)10158 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟COMPASS」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031160139.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法50条1項による商標登録の不使用取消審判の取消審決の取消しを求めたもので、その請求が棄却された事案です。


 本件では、輸出用商品に商標を付する行為が商標の使用に該当するか否かの商標法2条3項1号における商品の概念からの判断と、商標法50条に基づく商標登録の取消審判請求の審理に当たり請求人が求める「請求の趣旨」における「指定商品の範囲」の明確性の有無の検討等を十分に尽くすよう改善すべきとする知財高裁から特許庁審判部への改善要望とについて、参考になる事案かと思います。




 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長裁判官)は、


『(3) 商標法2条3項1号における商品の概念について


ア 以上によれば,クラッチ・マスタ・シリンダへの本件商標の使用については,原告が輸出用のクラッチ・マスタ・シリンダの包装に本件商標を付した事実が認められないから,原告の主張は,この点において,既に理由がないものであるが,念のために,輸出用商品に商標を付する行為が商標の使用に該当するか否かについても,付加判断する。


イ 商標法50条1項は,「継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標‥‥‥の使用をしていないときは」と規定し,同法2条3項1号は「商品又は商品の包装に標章を付する行為」を標章の使用と規定し,同項2号(ただし,平成18年法律第55号による改正前の規定)において「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為」を標章の使用と,それぞれ規定する。


 平成18年法律第55号による改正前の商標法の下においては,これらの規定における「商品」とは,日本国内における流通を予定し,あるいは現に国内において流通している商品を意味し,およそ国内において流通することを予定せず,かつ現に流通していない商品は,これらの規定における「商品」には該当しないものというべきである。


 けだし,商標法1条は,同法の目的として「この法律は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,‥‥‥あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」と規定しているところ,ここでいう「業務上の信用」とは日本国内における業務上の信用であり,「需要者」とは,日本国内における需要者を意味するからである。


ウ 本件において,原告が本件商標を付したと主張しているのは,原告がシンガポール及びパナマあてに輸出するために大信産業に発注した商品であって,およそ国内において流通することを予定せず,現に国内において流通しなかったものであるから,この意味においても,原告の本件商標の使用の主張は失当である。


 なお,原告の主張する内容は,原告は,シンガポール及びパナマの取引先との間で売買契約を締結した後に,クラッチ・マスタ・シリンダを大信産業に発注し,その輸出に際して包装に本件商標を付したというものであるから仮に原告の主張するところに従ったとしても,原告が国内において本件商標を付した商品を譲渡したと解する余地はない。


3 結論


(1) 本件審判手続について

 念のため,本件審判手続に関して,以下の点を指摘する。


第2.1 (特許庁における手続の経緯 )記載のとおり,被告(審判請求人)は,指定商品「自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品」について,本件商標登録を取り消す旨の審判を請求した。


 しかし,被告が取消しを求めた指定商品の範囲については「自動車,並びにその部品及び附属品」ではなく「及びこれらに類似する商品」を含めた点において,不明確というべきである。


 商標法50条は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下,単に「商標権者」という。)が,各指定商品又は指定役務(以下,単に「指定商品」という。)についての登録商標を使用していない場合に,その指定商品に係る登録商標の取消審判を請求することができると規定し,この場合,審判請求登録前3年間,商標権者がその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることが証明されない限り,その指定商品の商標登録が取り消される旨を規定する。


 取消審判請求の審理の対象となる指定商品の範囲は,設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人において取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められる。審判請求書の「請求の趣旨」は,(i)審判における審理の対象・範囲を画し,(ii)被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,(iii)取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味で重要なものであるから,「請求の範囲(※請求の趣旨の間違い)」の記載は,客観的で明確なものであることを要するのは当然である。


 本件についてこれを見ると,(ii)の点に関しては,原告(被請求人)の行った立証の内容に照らして,一応,実質的な防御の機会を奪うほどの不利益を与えていることはないものと解される。


 しかし,(iii)の点に関しては,本件取消審決が確定した後の本件登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲は,旧12類「輸送機械器具その部品及び附属品」(他の類に属するものを除く)から「自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品」を除外した指定商品となるが,その範囲は客観的明確性を欠き,法的安定性を害する結果になるといわざるを得ない。


 このような点に鑑みると,商標登録の取消審判請求の審理する審判体としては,実質的な審理を開始するに先だって,まず,釈明権を行使するか,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,そのような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた本件の審判手続のあり方は妥当を欠く点があったというべきである。


 もっとも,本件においては,上記指摘した点は,審判の経緯,取消訴訟の審理の経緯及び取消事由の内容(上記の点を取消事由として主張いしてないことも含める。)など一切の事情に照らして,審決を取り消すまでの違法を来すものとはいえない。



 今後,商標法50条に基づく商標登録の取消審判請求の審理に当たっては,請求人の求めた「請求の趣旨」における「指定商品の範囲」(特に,「類似」する商品との記載)の明確性の有無の検討,不明確な請求の趣旨に対する是正手続を十分に尽くすべきであり,この点に考慮を払わない審判手続の運用は,すみやかに改善されるべきである
知的財産高等裁判所平成19年6月27日判決・平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件参照。)。


(2) 結語


 以上によれば,結局,本件商標については,本件審判請求登録前3年以内に商標権者,専用使用権者又は通常使用権者がこれを取消請求に係る商品について使用したことについて,原告による証明がないことに帰するから,取消請求に係る商品について本件商標の登録を取り消すべきものとした審決の認定判断に誤りはない。原告の主張する取消事由には理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。


 よって,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 
 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10129 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟内燃機関用スパークプラグ」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031161714.pdf
●『平成19(行ケ)10158 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟COMPASS」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031160139.pdf
●『平成19(ワ)11136 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「魚礁の形態模倣」平成19年10月23日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071101085733.pdf
●『平成17(ワ)1238 特許権移転登録手続等請求事件 特許権 民事訴訟「既設コンクリート杭の撤去装置」平成19年10月30日 大阪地方裁判所』(棄却判決) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031171555.pdf
●『平成19(ワ)18983 損害賠償請求事件 特許権 民事訴訟「移動式足踏シャワー」平成19年10月26日 東京地方裁判所』(棄却判決) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031173037.pdf



追伸2;<気になった記事>

●『Appleなど22社にWi-Fi特許侵害訴訟』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/02/news027.html
●『カナダのWi-LAN社、特許侵害でアップルなど大手22社を提訴(Wi-LAN)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2122
●『無線LAN技術のカナダ企業,AppleIntelなど22社を特許侵害で提訴』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071102/286224/