●平成19(行ケ)10062審決取消請求事件 特許権「プラズマ生成装置」

  今日は、本日(11/1)から始まるとされていた米国のクレーム数や継続出願回数を制限した米国特許法規則改正の仮り差止め(http://www.uspto.gov/)のメールが朝から入っていたり、その確認などで大変でした。どこの会社の知財部でも今朝は、同じではなかったでしょうか?分割出願をしようか悩み、時間等の点からしなかった米国案件があり、少しホットしています。


 さて、本日は、『平成19(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラズマ生成装置」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031155530.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、周知例の認定と、限定的減縮の補正の可否の判断の点で参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長裁判官)は、


『1 取消事由1(周知例の認定の誤り)について


(1) 周知例1,2について


 当該技術分野において,一般的によく知られている技術又はよく用いられている技術,すなわち周知技術については,審判手続の公平公正さを欠かない限り,審決において,常に,その認定根拠を詳細に示すまでの必要性はない。本件において,周知例1,2はいずれも公開特許公報であること,審決において周知とされた事項(複数の高周波アンテナにおける各アンテナ毎の電流又はアンテナ電極間の電圧を調節するインピーダンス素子)について,その周知性(その技術分野において,一般的によく知られている技術であること)を否定する事情が窺えないことに照らすならば,周知例1,2を挙げて上記事項を周知であると認定した点に,手続上及び実体上の瑕疵はない。


 また,審決が示した文献の数をもって,周知性を否定する根拠とはならない。


 そして,上記技術は当該技術分野においてよく知られている技術事項である以上,審決において,拒絶理由通知に挙げられない周知例が示されたとしても,出願人に対する不意打ちとなるものではなく,手続上の違法はない。


 以上のとおり原告らの主張は採用できない。


 …省略…


3 取消事由3(本願補正発明2に関する手続的瑕疵)について

(1)原告らは,本願補正発明2は,限定的減縮がされていないにもかかわらず,本願補正発明2が独立特許要件を欠くことを理由として,本件補正を却下した審決には,手続上の瑕疵があると主張する。


 この点について検討する。

 改正前特許法17条の2第4項柱書きは「・・・第1項第3号及び第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は,次に掲げる事項を目的とするものに限る。」と,同項1号は「・・・請求項の削除」,同項2号は「特許請求の範囲の減縮・・・」,同項3号は「誤記の訂正」,同項4号は「明りょうでない記載の釈明・・・」とそれぞれ規定し,また,同条5項は「第126条第4項の規定は,前項第2号の場合に準用する。」と,改正前特許法126条4項は「第1項ただし書第1号及び第2号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と,それぞれ規定する。したがって,法は,特許請求の範囲の減縮に係る補正の場合のみ,いわゆる独立特許要件の有無を判断することを要するとし,その他の補正(例えば,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明に係る補正等)の場合にはいわゆる独立特許要件の有無を判断することを要しないこととなる。


 ところで,改正前特許法17条の2第4項2号所定の特許請求の範囲の減縮に該当するか否かは,当該出願に係る特許請求の範囲の全体により判断すべきではなく,補正に係る個々の「請求項」に限定して判断すべきである。


 けだし,出願人が,特定の請求項について,「誤記の訂正」ないし「明りょうでない記載の釈明」のみに係る補正をしたところ,他の請求項に「特許請求の範囲の減縮」に係る補正がされ,結果として出願に係る特許請求の範囲の全体として減縮しているという理由によって,特許請求の範囲の減縮に該当しない請求項について,いわゆる独立特許要件を充足しない限り,補正が認められないとすることは,そのような解釈を支える条文上の根拠がないというべきである。


 のみならず,そのような手続を前提とすると,出願人に不慮の不利益を及ぼす可能性も生じ,また,審査,審判の実務の煩雑化を招来することになる。その意味で,独立特許要件について「この要件が課されるのは限定的減縮に相当する補正がなされた請求項のみであり,これに相当しない『誤記の訂正』又は『明りょうでない記載の釈明』のみの補正がなされた請求項及び補正されていない請求項については,独立して特許を受けることができない理由が存在する場合において,それを理由として補正を却下してはならない。」とする審査基準に基づく運用は合理性があるというべきである。


 なお,知的財産高等裁判所平成18年2月16日判決(平成17年(行ケ)第10266号審決取消請求事件)は,各請求項のいずれについても,特許請求の範囲の減縮に係る補正をした事案であって,本件とは事案を異にする。


 以上のとおりであるから,本願補正発明2について独立特許要件がないとの理由により本件補正を却下した点は,改正前特許法17条の2第4項2号に反する手続上の瑕疵があることになる。


(2) そこで,進んで,上記手続上の瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすか否かについて検討する。


 本願補正発明2は,本願発明2が請求項1を引用する形式で記載されていたものを,引用しない形式に変えたものであって,本件補正の前後において,特許請求の範囲の記載に変更はない。本願補正発明2に特許要件がないとした審決の判断は,本願発明2にもそのまま妥当することとなる。そして,前記のとおり,本願補正発明2は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りはない以上,本願発明2についても,当然に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。したがって,上記手続き上の瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすことはない。


 これに対し,原告らは,?改めて拒絶理由が発せられれば,意見書提出・補正の機会が与えられたはずであるにもかかわらず,その機会を失ったこと,?減縮された本願補正発明1については,独立特許要件の有無を判断する必要があったにもかかわらず,その判断がされなかったという点において,前記瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすと主張する。


 しかし,本件においては,原告らは,本願発明に係る請求項1ないし12について,平成16年4月30日に刊行物1を含む刊行物の記載及び周知技術により当業者が容易に想到し得るとの拒絶理由通知を受け,本願発明2につき補正の機会があったこと(甲3),本願発明2について特許要件がないとした審決の判断に誤りがないことからすると,他の請求項についての特許性の有無について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものであるから,原告らの上記の各主張に係る瑕疵は,審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない。したがって,原告らの主張は採用できない。


4 結論


以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。


 よって,原告らの請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。



追伸1;<新たに出された知財判決>


●『平成19(行ケ)10062 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「プラズマ生成装置」平成19年10月31日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031155530.pdf
●『平成19(行ケ)10024 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟半導体装置のテスト方法,半導体装置のテスト用プローブ針とその製造方法およびそのプローブ針を備えたプローブカード」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031150341.pdf
●『平成18(行ケ)10515 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「竹材を用いた構造用集成材及びその製造方法」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031145637.pdf
●『平成18(行ケ)10470 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「金属のりん酸塩皮膜化成処理前の表面調整用前処理液」 平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031143359.pdf
●『平成19(行ケ)10187 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Meta Media」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031115715.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『USPTO 新規則に対し施行前日に差止めの仮処分命令(バージニア東部連邦地裁)』(JETRO)http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/071031.pdf
●『米連邦地裁、特許商標庁の新ルールに仮差し止め命令(BIO)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2117
●『エイサーが再び対抗訴訟--泥沼化するHPとの特許紛争 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20071101/286183/
●『エイサーが再び対抗訴訟--泥沼化するHPとの特許紛争』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20360105,00.htm
●『Acer、HP相手に新たな特許訴訟』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/01/news023.html
●『インクカートリッジ訴訟、キヤノン勝訴の見通しに』http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071101AT1G0101K01112007.html
●『キヤノンの勝訴確定へ カートリッジリサイクル訴訟』http://www.asahi.com/national/update/1101/TKY200711010268.html
●『キヤノン勝訴確定へ インクカートリッジ特許で』http://www.chunichi.co.jp/s/article/2007110101000477.html
●『2007/11/01-18:35 キヤノンの勝訴確定へ=インクカートリッジ訴訟、8日判決−最高裁http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2007110100723