●平成18(ワ)14569等 不正競争行為差止請求事件 不正競争

  本日は、『平成18(ワ)14569等 不正競争行為差止請求事件 不正競争 民事訴訟 平成19年10月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071030163406.pdf)について取り上げます。



 本件では、争点2(被告らに不正競争防止法2条1項4号に当たる行為が認められるか否か)における営業秘密行為該当性の判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 阿部正幸 裁判長裁判官)は、


2 争点2(被告らに不正競争防止法2条1項4号に当たる行為が認められるか否か)

(1) 甲事件原告は,被告Bが不正の手段により甲事件原告の営業秘密である本件情報(12社のハウスメーカーについての,その所属の営業担当者の氏名,所属部署,連絡先等の情報)を取得し,これを被告B及び被告Aが共謀の上,被告会社の営業活動に使用したものであり,被告らの上記行為は,不正競争防止法2条1項4号に該当する旨主張する。


(2) 不正競争防止法において,「営業秘密」とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法,その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう(同法2条6項)。


 したがって,本件情報が,不正競争防止法2条1項4号の「営業秘密」として保護されるためには,(i)秘密管理性,(ii)有用性,(iii)非公知性の各要件を充たす必要がある。


 本件において,被告らは,本件情報が有用性を有するものであることについては,特に争っていないので,秘密管理性及び非公知性について検討する。


(3) 秘密管理性について


ア 秘密管理性が認められるためには,その情報を客観的に秘密として管理していると認識することができる状態にあることが必要であり,具体的には,当該情報にアクセスすることができる者が制限され,アクセスした者が秘密であると認識することができることが必要である。


イ 甲事件原告は,本件情報の情報源がハウスメーカーの営業担当者から取得した名刺であることを前提に,甲事件原告においては,従業員に対し,上記名刺の保管について,情報の取扱い方法を就業規則に規定するほか,コピーの禁止,社外持ち出しの禁止を徹底指導し,他の文書とは別に各従業員が名刺ホルダーに入れて机内で厳重に管理するものとしていた旨主張し,甲事件原告代表者の陳述書(甲18,20)にも,その旨の記載がある。


 しかしながら,上記陳述書中には,上記各名刺の保管方法の指導を徹底していた旨の記載があるのみで,従業員に対し行われていた指導内容や方法等については何ら具体的な記載がないこと,甲事件原告において上記管理を行っていたことを裏付ける客観的証拠が何ら存しないこと,被告A及び被告Bが,その陳述書(乙12,13)において,甲事件原告による名刺の管理を否定していることに照らすと,甲事件原告代表者の陳述書(甲18,20)中の上記記載を直ちに信用することはできず,他に,甲事件原告による上記名刺の管理の事実を認めるに足りる証拠は存しない。


 なお,上記陳述書(甲18)中には,甲事件原告の就業規則(甲17)の,29条(3),(4)及び30条3項において,情報及び書類の取扱い方法を義務付けている旨の記載がある。


 しかしながら,これらの規定は,「社員は,次の事項を守らなければなりません。(中略)(3)自己の職務に関する書類,帳簿,機械,器具及び備品を紛失もしくは汚損しないように注意し,退社に際してはその保管,引継ぎ等につき責任をもって処理すること,(4)会社の機密事項及び会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと」(29条(3),(4)),「社用のために会社の物品を社外に持ち出そうとするときは,所属長の許可を受けなければなりません。」(30条3項)といった,抽象的な定めをした規定にすぎず,就業規則にこのような規定が置かれているからといって,名刺の秘密管理性を認めることができないことは明らかである。


ウ 仮に,甲事件原告が,各従業員に対し,名刺のコピー及び社外持ち出しの禁止,並びに名刺ホルダーに入れての机内管理を徹底指導していたとしても,従業員に対する情報管理指導がされているというにとどまり,保管場所への施錠などにより,アクセスすることができる者が限定されていたことや,名刺や名刺ホルダーに秘密であることの表示がされているなど,アクセスした者が当該名刺が秘密であることを認識することができる状態であったことについては何ら主張立証がないから,甲事件原告によって,各従業員においてハウスメーカーの営業担当者から入手した名刺が秘密の情報として管理されていたとは認められない。


エ 以上のとおりであるから,本件情報について秘密管理性は認められない。

(4) 非公知性について


 非公知性が認められるためには,当該情報が,保有者の管理下以外では一般的に入手することができない状態にあることが必要である。


 本件情報は,12社のハウスメーカーについての,その所属の営業担当者の氏名,所属部署,連絡先等の情報であり,甲事件原告に限らず,上記ハウスメーカーの取引相手となりうる者の営業担当者等が,営業活動を行う中で,ハウスメーカーの営業担当者等との名刺交換により取得し得る情報であり,実際,甲事件原告においても,上記方法により本件情報を入手したものであることが認められる(弁論の全趣旨)。


 したがって,甲事件原告,あるいは,甲事件原告の従業員の管理下以外では,本件情報を一般に入手することができない状態にあるとは認められないから,本件情報について非公知性も認められない。


(5) そうすると,本件情報は不正競争防止法2条1項4号の「営業秘密」に当たるということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被告らについて,同号に該当する不正競争行為が認められる旨の甲事件原告の主張は理由がない。 』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10150 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Orihara & Orix」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031115019.pdf
●『平成18(行ケ)10424 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「データ著作権管理システム及びデータ著作権管理装置」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031113854.pdf
●『平成19(行ケ)10060 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「マンホール補修方法」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031113255.pdf
●『平成19(行ケ)10178 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「コイダス coidas」平成19年10月30日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031111635.pdf
●『平成18(ワ)10128 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「バギー及び乳母車用のスタンディングボード」平成19年10月29日 大阪地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031100307.pdf



追伸2;<気になった記事>

●『日立工機などとのリチウムイオン電極特許係争が解決=米3m〔bw』http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2007103100535
●『米3M、日立工機と和解・リチウムイオン電池特許侵害で』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20071031AT2M3100X31102007.html
●『経産省農水省、知的財産保護・活用で連携(経済産業省)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2106
●『知的財産分野における農林水産省経済産業省の連携及び知的財産連携推進連絡会議の開催について(特許庁)』http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/maff_meti_renkei.htm
●『「平成19年度改正意匠制度運用説明会テキスト」記載の運用の一部変更について(特許庁)』http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h19_isyouseido2/h19_henkou.pdf
●『PTO Continuation and Claim Rules Temporarily Blocked by District Court』http://www.patentlyo.com/patent/