●平成19(ワ)6565 特許権侵害差止等請求事件 「体内脂肪重量計」

  本日は、『平成19(ワ)6565 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「体内脂肪重量計」平成19年09月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071002123802.pdf)について取り上げます。


 本件は,体内脂肪重量計についての特許を有する原告が,被告の輸入等する製品は同特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づく輸入等の差止め及び同条2項に基づく在庫品の廃棄,並びに同法102条2項に基づく損害賠償の支払を求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、請求の範囲から「足裏用電極」の構成要件を削除して拡大した補正が、当業者に自明であると認めることはできず、特許法17条の2第3項違反と判断された点で、参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第40部 市川正巳 裁判長裁判官)は、


『3 争点6−1(補正制限違反)について

(1) 当初明細書の記載


ア まとめ


 当初明細書に記載されている内容は,イ以下のとおり,(i)足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているか,(ii)「足裏用電極」を有しているため「切換装置」を必要とする体内脂肪重量計であると認められる。


 したがって,本件発明の構成が当初明細書に記載されていると認めることはできない(自明か否かの点は,次の(2)で検討する。)。


イ 特許請求の範囲

  当初明細書の特許請求の範囲は,請求項1ないし7の7つの請求項により構成されているが,いずれの請求項も構成要件に「足裏用電極」を含んでいることは,当事者間に争いがない。


ウ 課題を解決するための手段及び作用

  当初明細書の発明の詳細な説明中の課題を解決するための手段及び作用の記載(【0006】〜【0008】)によれば,同所には「足裏用電極」が本件発明の構成要件として記載されていることが認められる。


  これに反する原告の主張は,当初明細書に記載されているか,同記載から自明かの議論を混同するものであり,採用することができない。


エ 実施の形態


  当初明細書の発明の詳細な説明中の実施の形態の記載(【0009】及び【0010】)によれば,被告が指摘する「足用アタッチメントを載置台へ勘合するものでは,勘合部がコネクターを兼ねていて,インピーダンス測定装置と電気的に接続される。」(【0009】)との記載は,実施例3(後記オ(イ))に対応するものであり【0009】及び【0010】に記載されたものは,すべて「足裏用電極」の存在する体重測定装置であることが認められる。


オ 実施例

(ア) 実施例1及び2

  当初明細書の発明の詳細な説明中に記載された実施例1及び2が,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより,電気的接続を実現しているものであること(【0014】及び【0019】)は,原告において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。


(イ) 実施例3

  当初明細書の発明の詳細な説明中の実施例3の記載(【0020】)によれば,同所には「足裏用電極」と「足用電極」とを有し,それらの「切換装置」を具備した体内脂肪重量計が記載されており,この構成においては,足裏用電極を経由することなく,嵌合部がコネクターとなり,第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続されていることが認められる。


カ 本件発明の課題等

  当初明細書の発明の詳細な説明中の発明が解決しようとした課題等の記載(【0005】及び【0023】)によれば,同所には,本件発明が解決しようとした課題について,「足裏用電極」について触れずにし,「抵抗の大きな靴,靴下を着用た状態でも,簡単に,正確に体内脂肪重量を推定することができる体内脂肪計付体重計を提供する事」(【0005】)であると記載されていること,効果の欄にも同旨の記載があること(【0023】)が認められる。


  しかし,【0005】の記載は,「足裏用電極」を有する従来の脂肪計付体重計の問題点を指摘した上でのものであり(【0004】),直後に続く課題を解決するための手段(【0006】及び【0007】)においては「足裏用電極」を構成要件とする構成が記載されている。効果についての【0023】の記載も「足裏用電極」を構成要件とする実施例1ないし3の効果の記載(【0022】)に続くものである。よって【0005】又は【0023】が「足裏用電極」を構成要件としない構成を記載していると認めることはできない。


(2) 当初明細書の記載からの自明

ア 電気的接点

  原告は,足用アタッチメントの下部裏面の裏面電極が足裏用電極に接触することにより電気的接続を実現している方法においても「足裏用電極」は単に「足用アタッチメント」の「第2の電極」と「インピーダンス測定装置」とを結ぶ電気的回路の途中に存在する「電気的接点」又は「導線」の役割しか果たしていないから,「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する。


  しかしながら,原告が指摘する発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1 )カ) を併せ考慮しても,前記(1)に説示の内容を有する当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない。


イ 嵌合


  次に,原告は,当初明細書には,「足用アタッチメントを載置台に直接嵌合し,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される」方式の体内脂肪重量計が記載されているから(【0009】), 足裏用電極を構成要件に含まない本件発明の構成は当初明細書の記載から自明である旨主張する。


 しかしながら,前記(1)に説示のとおり,当初明細書に記載された構成は,嵌合部がコネクターとなり第2の電極がインピーダンス測定装置と直接電気的に接続される方式のものであっても,「足裏用電極」を構成要件に含むものであるから,原告が指摘する発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1 )カ)を併せ考慮しても,当初明細書の記載から「足裏用電極」を構成要件に含まない本件発明の構成が当業者に自明であると認めることはできない。


(3) 補正後の本件発明


 本件発明は,「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むことは,当事者間に争いがない(被告は,本件発明の充足論におけるクレーム解釈においては,本件発明は「足裏用電極」を具備するものに限られる旨主張するので,念のため判断すると,本件発明(請求項14)の文言上,そのような限定はないこと「足裏用電極」を具備しない場合でも,発明が解決しようとした課題等の記載(前記(1 )カ)を解決し,作用効果を奏することができることからすると,本件発明は「足裏用電極」を具備しない体内脂肪重量計もその技術的範囲に含むものと認めるのが,相当である。)。


(4) まとめ

 よって,第2回補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でする補正とはいえないから,特許法17条の2第3項に違反するものであり,本件特許は,同法123条1項1号に該当し,無効とされるべきものであり,原告は,同法104条の3により,同権利の行使をすることができない。


4 結論

 以上によれば,原告の請求は,補正制限違反を理由とする特許無効により,輸入自認物件については更に構成要件の非充足により,理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)14569等 不正競争行為差止請求事件 不正競争 民事訴訟 平成19年10月30日 東京地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071030163406.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『米IT大手が支持する特許改革法、上院で採決へ』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/30/news066.html
●『農水関連特許を利用しやすく、経産・農水省知財戦略で連携』http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20071030AT3S2900S29102007.html
●『農水産品の特許支援 農水省経産省 ブランド確立目指す(10/31 00:06)』http://www.hokkaido-np.co.jp/news/agriculture/57970.html
●『重点8分野の特許登録件数増加率トップは23%増のエネルギー分野(特許庁http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2100
●『特許公開件数、重点技術8分野のうちITがトップ』http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/10/29/17324.html
●『ロイヤル フィリップス社、ムーアマイクロプロセッサー特許™ポートフォリオ ライセンスを購入』http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20071029005623&newsLang=ja
●『日米欧の特許庁、特許出願様式統一に来月合意(日刊工業新聞)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2104