●平成19(行ケ)10205商標登録取消決定取消請求事件「大阪プチバナナ

 本日は、『平成19(行ケ)10205 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟「大阪プチバナナ」平成19年10月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071026110546.pdf)について取り上げます。



 本件は、原告が有する商標登録について登録異議の申立てにより登録を取り消す旨の決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本件商標「大阪プチバナナ」の登録査定時に、引用商標「大阪ばな奈」が不使用で信用が化体してなく、出所の誤認混同するおそれがないというという事情も考慮されて、本件商標「大阪プチバナナ」と引用商標「大阪ばな奈」とが非類似であると判示されました。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長裁判官)

『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(決定の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。


2 引用商標の不使用取消審決との関係(取消事由5)について

(1) 証拠(甲8,9の1〜3,10)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成19年2月8日付けで引用商標に係る商標登録(登録第4442542号)について,法50条1項による不使用取消審判請求をし,同請求は特許庁に取消2007−300137号事件として係属するとともに,平成19年2月28日付けでその商標登録原簿に商標登録取消し審判の予告登録がなされたところ,特許庁は,平成19年6月19日,被請求人である訴外会社は何ら答弁をしないから,訴外会社は引用商標の使用をしていることを証明せず使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしないことになるとして,引用商標に係る商標登録(登録第4442542号)を取り消す旨の審決(別件審決)をし,同審決は平成19年7月30日に確定し,同登録は平成19年8月23日閉鎖されたことが認められる。


(2) そうすると,引用商標に係る商標登録(登録第4442542号)は,上記不使用取消審判請求の予告登録日である平成19年2月28日に消滅したものとみなされることになる(法54条2項)。


 しかし,商標登録が法4条1項11号に違反するかどうかの判断の基準時は登録査定時であると解されるところ,本件商標登録の登録査定日は,前記のとおり平成17年8月23日である(争いがない)から,そのときには,引用商標に係る商標登録(登録第4442542号)が,いまだ消滅していないことは明らかである。


 原告は,本件決定の日である平成19年4月19日には引用商標に係る商標登録は消滅していたから同決定は違法であるとか,訴外会社による本件登録異議申立ては遡及的に申立ての利益がないことになるとか主張するが,本件商標登録が法4条1項11号に違反するかどうかの判断基準時は,前記のとおり登録査定時たる平成17年8月23日であると解されるから,原告の上記主張は採用することができない。


もっとも,これらの事情は,後記のとおり,商標の類否判断における取引の実情として斟酌されるべきものである。


3 本件商標と引用商標の類否(取消事由1,2,3,4)

(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。



そこで,以上の見地から本件事案について検討する。


(2) 外観の対比


 本件商標は,「大阪プチバナナ」というものである。これに対して,引用商標は,「大阪ばな奈」というものである。したがって,両者は,「大阪」の点では全く同じであるが,それに続く文字が,本件商標では,「プチバナナ」と片仮名で記載したものであるのに対し,引用商標は,「ばな奈」と平仮名で記載したものであって,この点において外観が異なる。「大阪」は,近畿地方にある都市名であるから,本件商標や引用商標に接した取引者,需要者は,「大阪」について都市名としか認識せず,したがって,特にこの部分に識別力があるということはない。

 以上述べたところからすると,本件商標と引用商標は,外観において類似しないというべきである。


(3) 観念の対比


 ・・・省略・・・


オ 本件商標は「大阪プチバナナ」というものであるから,このうち,「プチ」の部分は,上記のとおり,「小さい」又は「かわいらしい」という意味を有する,商品の形状,品質等を表示する語として理解され,「大阪の小さな(かわいらしい)バナナ」という観念が生ずるものと認められる。


 これに対し,引用商標は,「大阪ばな奈」というものであるところ,「ばな奈」の文字は,「奈」という漢字を含み,バショウ科の果実(banana)の日本語による通常の表記である「バナナ」又は「ばなな」とはやや異なるものの,表記の類似性からして,バショウ科の果実である「バナナ」を連想させるということもできるから,「大阪のバナナ」の観念を生ずるものと認められる。


 そうすると,本件商標と引用商標とは,観念においては,商品の形状・品質等を表示する語として理解される「プチ」の部分が異なるのみで,ある程度類似するということができる。


(4) 称呼の対比


 本件商標の称呼は「オオサカプチバナナ」であり,引用商標の称呼は「オオサカバナナ」であるから,前半部の「オオサカ」と後半部の「バナナ」の音を同じくするものである。しかし,本件商標と引用商標は,中間部において「プチ」の音の有無に差異がある。「プチ」は,はっきり識別できる音であって特徴的な響きを有するものであるから,本件商標と引用商標は,称呼において共通する点があるものの,異なる点もあるということができる。


(5) 取引の実情


ア 証拠(甲11,12の1〜3,13〜15の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成16年10月1日から,JR西日本新大阪駅構内において,「大阪プチバナナ」という名称の焼き菓子の販売を始め,以後,本件商標を使用した焼き菓子の販売を行っていること,原告が使用している商標は,「大阪」と「バナナ」の部分を青色で記載し「プチ」の部分を白色で記載したもの,又は「大阪」と「バナナ」の部分を黄色で記載し「プチ」の部分を灰色で記載したものであることが認められる。


 したがって,本件商標登録の登録査定時(平成17年8月23日)には,本件商標には一定の信用が形成されていたものと認められる。


イ 一方,前記2(1)のとおり,引用商標に係る商標登録(登録第4442542号)は,訴外会社が引用商標の使用をしていることを証明せず使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしないことを理由として,これを取り消す旨の審決(別件審決)がされ,この審決は確定したのであるから,訴外会社は,原告による法50条1項による不使用取消審判請求の登録時前3年以内(平成16年3月1日から平成19年2月28日)に,引用商標を使用していなかったものと認められる。したがって,訴外会社は,本件商標登録の登録査定時(平成17年8月23日)はもとより,その以前から引用商標を使用していなかったものと認められるから,本件商標登録の登録査定時(平成17年8月23日)に,引用商標に何らかの信用が形成されていたとは認めることはできない。


(6) 類否の有無

 以上(2)ないし(5)を総合すると,本件商標と引用商標は,外観は類似せず,観念はある程度類似し,称呼は共通する点があるものの異なる点もある程度であり,これらの諸要素に,取引の実情として,本件商標登録の登録査定時(平成17年8月23日)に本件商標には一定の信用が形成されていたものの引用商標に何らかの信用が形成されていたとはいえないという事実があることを総合勘案すると,本件商標登録の登録査定時たる平成17年8月23日の時点において商品の出所を誤認混同するおそれがあったとは認められないというべきであり,本件商標と引用商標が類似するということはできない。


 したがって,本件商標と引用商標が類似するとした本件決定の判断には,類似性についての判断を誤った違法があることになる。


4 結語


 よって,原告主張の取消事由は理由があるから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。