●平成8(ネ)6162 不正競争「ドラゴンキーホルダー事件」東京高裁

  本日は、『平成8(ネ)6162  不正競争 民事訴訟「ドラゴンキーホルダー事件」平成10年02月26日 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/7A3A5FB44ED43B3049256A7700082C7B.pdf)について取り上げます。


 本件は、控訴人が製造販売するキーホルダーが被控訴人が製造販売するキーホルダーに形態が類似しており,不正競争防止法2条1項1号、3号に該当するか否か争われた控訴審であり、不正競争防止法2条1項3号の該当性において、原判決は形態模倣を認めたが、本控訴審では形態模倣を否定されました。


 本件では、東京高裁における不正競争防止法2条1項3号の「形態模倣」の解釈が参考になります。


 つまり、東京高裁(裁判官 伊藤博 濱崎浩一 市川正巳)は、

『2 ところで、不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、客観的には、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似していることを要し、主観的には、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要するものである。


 ここで、作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。

3 これを本件についてみると、前記1の認定事実によれば、原告商品と被告商品とは、本体部分において、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなし、表面側の十字の中心部分に宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされており、本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の環に鍵を保持する大きなリングが挿通されている点、本体部分の表面から見ると、柄上端部分にその頭部を表す竜は、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けて、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せており、胴体が洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って洋剣に巻きついている点、全体の色彩が、金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色である点で共通していることが認められるが、他方、原告商品では、洋剣に巻きついている竜は頭部が一個の通常の竜であり、表面側から見て、洋剣の刃先の左方に尾の先が表れているのに対し、被告商品では、洋剣に巻きついている竜は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であり、表面側から見て、洋剣の刃先の左方にも頭部が表れており、左下から右斜上方に向いて柄部分側の頭部と向き合ってにらみながら威嚇するように口を開け、牙を見せている点、本体部分の大きさが、原告商品では、縦約六・八センチメートル、横最大幅は約二・七センチメートルであるのに対し、被告商品では、縦約八センチメートル、横最大幅は約四センチメートルである点、竜の顔、鱗などの彫りの深さ、背鰭の形状の詳細、ガラス玉の色の点で異なっていることが認められる。


 右のとおり、原告商品は頭部が一個の通常の竜であるのに対し、被告商品は胴体の両端に頭部のある双頭の竜であるという相違点が存するところ、被告商品の製造、販売時において、双頭の竜を表したキーホルダーが存在したことを認め得る的確な証拠はなく(証人Aは、右のようなキーホルダーを見たことがある旨供述しているが、たやすく措信できない。)、また、双頭あるいは複数の頭を有する竜のデザイン自体がよく知られたものであることを認め得る証拠もないこと、原告商品、被告商品とも、基本的には、洋剣と竜のデザインを組み合わせたものであって、商品としての形態上、竜の具体的形態が占める比重は極めて高く、被告商品において洋剣の柄部分側と刃先側に表された竜の頭部が向き合っている形態は、需要者に強く印象づけられるものと推認されることからすると、被告商品における竜の具体的形態は、被告商品の全体的な形態の中にあって独自の形態的な特徴をもたらしているものと認められること、本体部分の大きさの違いもわずかであるとはいえず、表面部分の面積を対比しても、ほぼ一(原告商品)対二(被告商品)程度の違いがあり、量感的にも相当の違いがあること(検甲第一、第二号証)からすると、原告商品の形態と被告商品の形態との間に前記のとおりの共通点が存すること、及び、原告商品の製造、販売当時(平成六年一月)において、原告商品の基本的構成である、本体部分において、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形で表面側の十字の中心部分に宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣に、竜が、洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされている形態、あるいはこれに類似する形態を有するキーホルダーが存在していたことを認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、被告商品の形態が原告商品の形態に酷似しているとまでは認め難く、実質的に同一であるとは認められない。


 したがって、その余の点について検討するまでもなく、被告商品は、原告商品の形態を模倣したものとは認められない。


 ちなみに、証人A(被控訴人の前代表者)は、控訴人代理人が検甲第二号証(被告商品)を示して、「これは竜の頭が二つありますよね。」という尋問を行ったのに対して、「この商品は改造なさったんじゃないですか。」と証言しているが、このことは、同証人自身、被告商品の形態が原告商品の形態に酷似しているとは認識していなかったことを窺わせるものである。


三 結論


 以上のとおりであって、被控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきである。


 よって、右と結論を異にする原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却する。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10378 審決取消請求 特許権 行政訴訟「骨吸収を抑制する方法」平成19年10月18日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071023102957.pdf


 追伸2;<気になった記事>

●『ルネサス、米トランスロジック社との特許侵害訴訟で全面勝訴(ルネサス テクノロジ)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2071
●『ITC、エプソン互換インクカートリッジの特許侵害で最終決定(セイコーエプソン)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2070
●『「“特許投機家”対策は火急の課題」――インテル法務担当幹部が強調 』
http://www.computerworld.jp/news/trd/83849.html
●『マイクロソフト、欧州委命令順守で合意・独禁法違反の係争決着』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2007102300232b3
●『[WSJ] MS、欧州当局との独禁法訴訟に終止符』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0710/23/news101.html
●『アステラス、後発品企業テバ社との特許侵害訴訟で和解(アステラス製薬)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=2074
●『アステラス製薬、米国での「アデノスキャン(R)」後発品申請に対する特許侵害排除訴訟和解に関するお知らせ』http://www.japancorp.net/japan/Article.Asp?Art_ID=40335