●平成7(ワ)13557 不正競争 民事訴訟「プリーツ・プリーズ事件」

 本日は、『平成11年06月29日 東京地方裁判所 平成7(ワ)13557 不正競争 民事訴訟「プリーツ・プリーズ事件」平成11年06月29日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/22EE4A7275D41CD449256A7700082C61.pdf)について取り上げます。


 本件では、商品形態が、不正競争防止法二条一項一号に規定する「他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているもの」に該当するための周知商品表示性等について判示しています。


 つまり、東京地裁(民事第四六部 三村量一 裁判長裁判官)は、


3 原告商品の形態の周知商品表示性について

 商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択されるものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品表示としての形態が需用者の間で周知になることがあり得るというべきである。そして、このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的なものでない限り、不正競争防止法二条一項一号に規定する「他人の商品等表示として需用者の間に広く認識されているもの」に該当するものといえる。


 そこで、前記2記載のような原告商品の特徴となる形態が、右のような周知な商品表示としての機能を、遅くとも被告商品の販売が開始された平成六年四月ころまでに獲得したか否かについて検討する。


(一) 原告商品の形態の独自性について


(二) 原告商品の形態の周知性について


(三) 右(一)及び(二)を総合すると、原告商品は、平成六年四月当時、前記2記載のような形態において、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ、かつ、平成五年二月の発売直後から平成六年四月ころまでの間に、数多くの全国的なファッション雑誌や新聞に頻繁に取り上げられてその形態が写真付きで紹介されるとともに、その販売地域や販売額も拡大するなどして、全国的にヒット商品としての評価が定着したということができるものであって、加えて、原告商品が著名な服飾デザイナーである訴外【A】のブランドとして広く知られた「イッセイ・ミヤケ」の商品シリーズであり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝広告、雑誌・新聞での紹介がされてきたことをも考慮すると、原告商品の形態は、遅くとも平成六年四月ころまでに、全国の服飾関係業者及び一般消費者の間において、服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営する営業主体の商品であることを示す商品表示としての機能を有するに至るとともに、右商品表示として周知性になったものと認めるのが相当である。


 そして、前記第一、一で認定したとおり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドは、原告と訴外会社によって構成される企業グループによって運営されているのであるから、原告商品の形態は、右企業グループの商品表示として周知になったものと認められ、したがって、右グループを構成する会社の一つである原告に関しても、周知な商品表示であったということができる。


(四) 被告らは、原告商品の前記のような形態は、女性用衣類に要求される軽さ、しわになりにくいこと、型くずれしないこと、洗濯のしやすさ、汗を吸いやすいこと、汚れにくいこと、といった機能をよりよく発揮するために、衣類全体にプリーツを施すという加工方法を選択した結果生じた形態であり、右技術的機能に由来する必然的な形態であるから、商品表示とはなり得ない旨を主張する。なるほど、原告商品の形態が被告らが主張するような衣類としての機能の発揮に資するものであり、このような機能を発揮することが原告商品の形態の選択に当たって一つの考慮要素となったことは否定できない(甲第一三五号証、第一三六号証)。しかしながら、右のような機能を達成するための形態は、原告商品のようなものに限られないのであり、原告商品では、右のような機能面のみならず、衣服としての美しさの観点から、一つのデザインとして前記のような形態を選択したものであることは、外形的なデザインが需要者から最も重視される婦人服という商品の性質上明らかというべきであるから、原告商品の形態は、その技術的機能に由来する必然的な形態とはいえないのであり、被告らの前記主張は理由がない。


二 請求原因2(二)の事実は当事者間に争いがない。


三 請求原因2(三)(原告商品と被告商品の形態の類似性及び混同のおそれ)について


1 前記のとおり、原告商品の形態は、「滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツが、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成している」という点に、特に看者の注意をひく独自の特徴があり、かかる特徴的形態が同種商品と識別される周知な商品表示となったものと認められるところ、被告商品1ないし5(検甲第六号証ないし第一〇号証)を原告商品におけるこれらに対応したアイテムである原告商品1ないし5(検甲第一号証ないし第五号証)とそれぞれ対比しつつ観察すれば、被告商品1ないし5が、いずれも右と共通する形態の特徴を有することは明らかというべきである。他方、原告商品1ないし5と被告商品1ないし5との間に、被告らが主張するような相違点(「請求原因に対する認否及び被告らの主張」2(三)(3)のあることが認められるが、いずれも個別のアイテムにおける細部の相違にすぎず、これらをすべて考慮しても、前記のような共通した特徴的形態からもたらされる看者の印象の共通性が否定されるものではない。



 したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品の形態に類似するものと認められる。


2 右のとおり被告商品1ないし5の形態が原告商品の形態と類似することからすれば、被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあるものと認められる。


 なお、本件においては、これに加えて、(1)被告商品と原告商品の販売・陳列方法が、(i)いずれも百貨店における専用の売場での販売が行われている点、(ii)右売場において、原告商品の場合には「PLEATS PLEASE」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されているところ、被告商品においても、「THE PLEATS」なる大文字のアルファベットのロゴが掲示されている点、(iii)いずれも商品の一部を筒状に巻いて陳列するという方法を採用している点(右(i)ないし(iii)の事実は当事者間に争いがない。)において類似していること、(2)販売価格についても、被告商品1ないし5が八〇〇〇円から一万五〇〇〇円であるところ(検甲第六号証ないし第一〇号証)、これに対応する原告商品1ないし5は一万二〇〇〇円から二万円であり(検甲第一号証ないし第五号証)、両者の価格帯がほぼ共通することなど、需要者たる一般消費者の混同を助長する事情の存在することが認められるのであって、これらの事情に照らしても、被告商品1ないし5につき需要者において原告商品との混同を生じるおそれがあることは明らかというべきである。


四 以上によると、被告商品1ないし5を販売した被告らの行為は、不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当する。


第三 請求原因5(損害賠償請求)について


一 被告らは、被告商品1ないし5を販売するにつき、右行為が前記のとおり不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当することを知り、又は少なくともこれを知らないことにつき過失があったものと認められるから、右不正競争行為によって原告が受けた損害を賠償する責任がある。


二 被告らが、平成六年四月一三日から同年六月ころまでの間に、被告商品1ないし5を販売することによって、それぞれ一〇万円を下らない利益を得たことは、被告商品1ないし5の販売価格(検甲第六号証ないし第一〇号証)や甲第五号証の一ないし四からうかがわれる被告商品の販売規模・販売状況に照らして明らかというべきである。そして、被告商品1ないし5の販売によって被告らがそれぞれ得た利益一〇万円は、不正競争防止法五条一項により、被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害の額と推定される。


三 したがって、被告らそれぞれに対し、不正競争防止法四条、二条一項一号に基づいて、一〇万円の損害賠償及びこれに対する不正競争行為の後である請求の趣旨記載の日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまでの遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由がある。


第四 請求原因6(信用回復措置請求)について


 原告は、被告商品が原告商品に比して品質の劣る粗悪品であり、これが原告商品と混同されることによって、原告商品に対する信頼が損なわれるとともに、このような粗悪品の流通がプリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に営業上の損害を与えた旨を主張する。しかしながら、本件において、被告らによる被告商品の販売によって、原告が主張するような原告の営業上の信用の低下が現実に生じたことを認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告に何らかの営業上の信用の低下が生じていたとしても、被告らによる被告商品の販売が、名古屋市内の名鉄百貨店本店のみにおける地域的に限られたものである上、その販売期間も二か月程度と比較的短期間にすぎないことなどを考慮すれば、前記のとおり原告の被告らに対する損害賠償請求を原告の請求額全額につき認容する本件において、さらに被告らに対し、信用回復措置としての謝罪広告まで命ずる必要があるとまでは認められない。


 したがって、被告らに対し、不正競争防止法七条、二条一項一号に基づいて、信用回復措置としての謝罪広告を求める原告の請求は、理由がない(仮に、請求原因3の不正競争防止法二条一項三号の不正競争が認められるとしても、これを理由とする謝罪広告の請求は、右と同様の理由により、認められない。)。


第五 結論


 以上によると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、主文第一項及び第二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ワ)6548 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟「シャットダウン機能を有する安定器用集積回路」平成19年10月23日 東京地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071024145353.pdf


 追伸2;<気になった記事>


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