●平成19(行ケ)10042 審決取消請求事件 商標権「腸脳力」

本日は、『平成19(行ケ)10042 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「腸脳力」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926155519.pdf)について取り上げます。


本件は、商標法4条1項11号違反を理由とする商標法46条1項の無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、指定商品が非類似とした審決が誤りと判断されて類似と判断されており、商品の類似の判断の点で、参考になる事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明 裁判長裁判官)は、


『 当裁判所は,審決は指定商品の類否判断を誤ったものであり,これを取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。


1 本件商標の指定商品「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」と,引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳,その他の豆乳」の類否商標法4条1項11号は,「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって,その商標登録に係る指定商品・・・又はこれらに類似する商品・・・について使用をするもの」については,商標登録を受けることができない旨を規定する。すなわち,同号は,当該商標が同号所定の商標登録を受けることができない場合に該当するというためには,単に出願に係る商標が他人の商標登録等に係る商標と同一又は類似することでは足りず,併せて出願に係る指定商品が他人の登録商標に係る指定商品と同一又は類似することが必要であると規定する。このような規定がされた趣旨は,出願に係る指定商品と他人の商標登録に係る指定商品が,商品としての種類や性質を異にするような場合であれば,たとえ,「他人の登録商標」とこれに「類似する商標」が使用されたとしても,需要者,取引者に対し,商品の出所を混同させることはなく,取引社会に混乱を与えたり,登録商標を有する者の利益を害したりする等の弊害はないと解したからに他ならない。


 そうすると,同号において,指定商品が相互に類似するか否かを判断するに当たっては,それぞれの商品の性質,用途,形状,原材料,生産過程,販売過程及び需要者の範囲など取引の実情,さらに,仮に,同号にいう「類似する商標」が,両商品に使用されたと想定した場合,これに接する取引者,需要者が,商品の出所について誤認混同を来すおそれがないか否かの観点を含めた一切の事情を総合考慮した結果を基準とすべきである。(なお,今日の取引社会にあっては,需要者,取引者は,商標によって,出所の同一性を識別判断するのが通常であるから,仮に両商品に「同一の商標」(同号にいう「他人の登録商標」)が付されれば,たとえ商品の種類・性質等が大きく異なっていたとしても,通常は両商品の出所が同一であるか又は関連性を有すると誤認するおそれが存在することとなり,指定商品の類似の範囲は際限なく拡大し,不合理な結果を招くものといえる。


  したがって,商品に使用した場合に商品の出所について混同を来さないか否かを判断する際に想定する仮想的な商標(同号にいう「類似する商標」)に「同一の商標」を含めて,機械的形式的に判断するのは,必ずしも適切でないというべきである。)


 上記の観点から,本件商標の指定商品である「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」と,引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳,その他の豆乳」の商品の類否について,以下検討する。


  証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,

(1) 本件商標の指定商品である「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」は,主原料を豆乳とし,カプセル状に成形する商品である。豆乳が原料であり,商品形状がカプセル状であることに照らすならば,指定商品は,健康に効果があるとして,又は効果が期待されるとして製造販売される,いわゆる健康食品の範疇に入るものであると理解して差し支えない(甲3〜32,弁論の全趣旨)。


(2) 他方,引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳」は,乳酸菌と酵母等の共棲培養物から抽出された物質を加味した食品である。世情,乳酸菌及び酵母の培養物を濃縮,抽出等することにより得られる物質を添加するなどして製造される健康食品は数多く存在することに照らすと,上記指定商品も,健康に効果があるとして,又は効果が期待されるとして製造販売される,いわゆる健康食品の範疇に入るものを含むと理解するのが自然である(甲27〜29)。


(3) そして,我が国では,大手・中小の食品メーカー・飲料メーカーは同一の企業が,生鮮食料品を加工した食料品や通常の飲料を製造販売するとともに,いわゆる健康食品も製造販売している例が数多く存在すること(甲4〜26),豆乳を主原料とする食品としては,液状の調整豆乳(パック入りのもの)が健康食品としても製造販売されているが,そればかりではなく,顆粒状あるいはタブレット状の健康食品も製造販売されていること等の取引の実情がある(甲30〜32)。


2 判断

 上記証拠により認定した事実によれば,本件商標の指定商品「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」及び引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳」は,いずれも,豆乳を主原料とし,健康に効果があるとして,又は効果が期待されるものとして製造販売される,いわゆる健康食品の範疇に属する商品を含む点において共通することに照らすと,両者は,商品の性質,用途,原材料,生産過程,販売過程及び需要者の範囲などの取引の実情において共通する商品であり,さらに,仮に商標法4条1項11号にいう「類似する商標」が使用されることを想定した場合,これに接する取引者,需要者は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがないとはいえない程度に共通の特徴を有する商品であると解すべきである。


 以上のとおりであるから,本件商標の指定商品である「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」と,引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳」とは,それぞれの指定商品が類似する。


 したがって,審決が,「引用商標の指定商品中の『共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳』は・・・生鮮食料品を加工した食料品である『豆乳』に,『共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味して』,さらに加工した商品と認められるところ,該商品は,通常の豆乳に比べて『共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味』した分,健康に関する効果等を有する商品であることが窺えるとしても,商品の形態等において,通常の豆乳となんら変わりのない商品といえるから,生鮮食料品を加工した食料品の域を出ない商品であるということができる。」(審決書6頁14行〜21行)と認定判断した点には誤りがある。


3 被告の主張に対し

 被告は,引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳」が,一般の加工食品としての「豆乳」にすぎない旨主張し,類似群コードとして,「32F05」が付されていることを指摘する。


 しかし,引用商標について付されている類似群コードは,単なる参考情報にすぎず,公権的な判断ということはできないし,そもそも類似群コード番号を記載した「類似商品・役務の審査基準」は,特許庁における商標登録出願の審査事務等の便宜と統一のために定められた内規にすぎず,法規としての効力を有するものではないから,類似群コードとして,「32F05」が付されていることは,引用商標の上記指定商品が,健康食品として販売される商品を含む概念であると解することを妨げるものとはいえない。


 その他,被告は縷々主張するが,上記説示したところに照らし,いずれも採用することができない。


4 結論

 以上検討したとおり,本件商標の指定商品「豆乳を主原料とするカプセル状の加工食品」と引用商標の指定商品中の「共棲培養した乳酸菌生成エキスを加味してなる豆乳」とが類似しないとした審決の認定判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響することは明らかである。


 なお,本件において,主要な争点は,指定商品が類似するか否かではなく,本件商標と引用商標とが類似するか否かである。


 そして,商標の類似性に影響を及ぼす取引の実情に係る事実関係と,指定商品の類似性に影響を及ぼす取引の実情に係る事実関係とは,考慮要素において共通する点があるものの,前者の方が後者よりも,多様かつ複雑であり,その審理範囲は広範である。審決が主要な争点である商標の類否について判断を省略し,指定商品の類否についてのみ判断をした点は,審理のあり方として適切さを欠いたものといえる。今後,再開される審判手続においては,本件商標と引用商標との類否について審理することになるが,その審理に当たっては,単に称呼,外観,観念のみを対比するのではなく,当事者の主張,立証を尽くさせた上で,確立した判例に沿って,「商品に関する具体的取引状況を可能な限り」明らかにして,それらの事実を総合して,両商標の類似性の有無を対比判断すべきである。


 原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。


 追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成19(行ケ)10021 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「少なくとも一のポリウレタン及び/またはポリウレア単位を含む重縮合物及びポリオールを含む髪用組成物 平成19年09月26日 知的財産高等裁判所」(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926170922.pdf
●『平成19(行ケ)10076 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「力・加速度・磁気の検出装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926170649.pdf
●『平成18(行ケ)10352 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「力・加速度・磁気の検出装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所 )(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926170533.pdf
●『平成18(行ケ)10351 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「力・加速度・磁気の検出装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926165738.pdf
●『平成19(ワ)12863 商号使用差止等請求事件 不正競争 民事訴訟エーザイ」平成19年09月26日 東京地方裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070927112330.pdf