●平成18(ワ)17357不正競争行為差止等請求事件「オービックス,ORBIX

  本日は、昨日に続いて『平成18(ワ)17357 不正競争行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟オービックス,ORBIX」 平成19年05月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070601164529.pdf)について取り上げます。


  本件では、争点2として、損害賠償請求の可否及びその額について判示されており、不正競争防止法における損害賠償請求の可否及びその額の判断として参考になる事案です。



 つまり、東京地裁(民事第46部 設樂隆一 裁判長裁判官)は、


『2 争点2(損害賠償請求の可否及びその額)について

(1) 被告の故意・過失について


 不正競争行為をした者に対する損害賠償請求は,行為者が「故意又は過失により」当該行為を行ったことを要する(不正競争防止法4条本文)。


 本件においては,前記1(1)に認定したとおり,被告による被告標章の使用開始前において,原告標章は,全国の需要者の間で広く認識されていたものであること,被告は,その対象とする顧客等が原告と異なるとはいえ,原告と同様にコンピュータシステムを取り扱う会社であり,しかも,被告の本店所在地である福岡に,原告も昭和51年1月以降支店を開設していたことなどにかんがみれば,被告に少なくとも過失があることは明らかである。被告が,被告には故意・過失がないとして主張する諸事情は,上記認定を妨げるものではない。


(2) 損害及びその額について


ア a) 不正競争防止法5条2項に基づく損害とその額

 不正競争防止法5条2項の「侵害行為により得た利益」の算定においては,当該不正競争行為に相当な因果関係のある費用,すなわち,当該不正競争行為に直接必要な費用を控除の対象としていわゆる貢献利益(広義の限界利益)を算定すべきであって,当該不正競争行為をしなくても発生する費用は控除の対象とすべきではない。


  したがって,貢献利益の算定においては,当該行為の内容,被告となる企業の規模,業態,不正競争行為をするに当たって必要となった施設や労力など様々な要素を全体的に考慮して,不正競争行為に相当な因果関係のある費用を算定する必要がある。



 本件における不正競争行為は,被告標章を使用して営業したことであるところ,被告は,資本金450万円(前記1(3)イ),社員は,代表者(営業も行っている。),営業専任の従業員1名,女子事務員1名,その他サポート役の従業員が4名の合計7人(乙5),年間の総売上額が平成15年度が1億2214万5173円(乙6),平成16年度が1億3153万7179円(乙7),平成17年度が1億0542万0779円(乙8)と比較的小規模な会社である(なお,被告における各年度は,当該年の4月1日から翌年3月31日までをいう。)。


 そして,その業務は,コンピュータシステム等の企画・開発販売等であるが,中でも被告標章を使用したビデオ/CDレンタルショップ向けのPOSシステムの販売がほぼ100パーセントを占める(乙5)。


 以上の被告の不正競争行為にかんがみれば,被告の営業に伴う費用,すなわち,被告の損益計算書(乙6ないし8)において売上原価並びに販売費及び一般管理費として計上されているものは,すべて被告の不正競争行為に必要な費用であり,同行為と相当な因果関係のある費用としてこれを控除すべきである(損益計算書において営業外費用として計上されているものは,不正競争行為に必要な費用であるとはいえず,これと相当な因果関係のある費用とは認められないから,控除の対象とすべきではない。)。


 したがって,被告がその不正競争行為により得た利益の額は,その損益計算書における営業利益の額と等しいと認められるところ,その営業利益の額は,平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間が452万8356円(乙6),平成16年4月1日から平成17年3月31日までの間が216万2834円(乙7),平成17年4月1日から平成18年3月31日までの間が522万1398円である(乙8)。


 よって,被告が,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間にその不正競争行為により得た利益の額は,上記営業利益額の合計である1191万2588円であり,それが,不正競争防止法5条2項に基づき,原告の損害の額と推定される。


b) 弁護士費用


 原告の請求の内容,本件の事案の性質,本件訴訟の経緯等を考慮すれば,本件訴え提起に伴う弁護士費用相当の損害としては,120万円が相当と認める。


c) 小括

 よって,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間の被告の不正競争行為に基づく原告の損害は,上記a)及びb)の合計額である,1311万2588円である。


イ 被告は,原告と競合することなく営業を続けてきたもので,原告標章と類似する標章の使用によって顧客を獲得したわけではなく,被告標章の使用によって何ら利益を得ていないから,原告の損害賠償請求は失当である旨主張する。


 しかし,原告も店舗POSシステムを取り扱っていることは前記1(1)アa)に認定したとおりである上,仮に被告の主張するように被告の取り扱うPOSシステムは対象業種が特化しており原告の営業の対象と重なり合うところがないとしても,広義の営業の混同が認められ,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為の成立が認められる以上,同法5条2項に基づき被告の得た利益の額は,原告の損害の額と推定されるというべきである。被告は,その他同条項に基づく推定を覆すに足りる事情を立証しておらず,被告の主張は,前記アa)の損害の認定を覆すものではない。


第5 結論

 以上の次第で,原告の請求は,被告に対し,被告標章その他の「オービックス」又は「ORBIX」の文字を含む商号及び標章の使用差止め,被告標章の看板等の営業表示物件からの抹消,被告商号の抹消登記手続並びに1311万2588円及びこれに対する本件不正競争行為の後である平成18年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。

 
  なお、本事件では、判決文中に示されているように、被告の営業対象が原告の営業対象と重なり合うところがないとしても,広義の営業の混同が認められるので、被告が不正競争行為により得た利益の額が損益計算書における営業利益の額と等しいと認定された点は、差止めを認める分には問題ありませんが、損害賠償額の認定としては、個人的には、少し厳しいのではと感じました。


 詳細は、本判決文を参照してください。



追伸1;<新たに出された知財判決>


●『平成19(行ケ)10042 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「腸脳力」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926155519.pdf
●『平成18(行ケ)10298 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「アクティブマトリクス型表示装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926154758.pdf
●『平成19(行ケ)10044 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「アクティブマトリクス型表示装置」平成19年09月26日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070926154131.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『Vonage,Sprintとの特許訴訟で評決の取り消しを求めて上訴へ』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070926/282981/?ST=ipcom
●『Vonageに6950万ドルの賠償命令――Sprintとの特許訴訟で』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/26/news025.html
●『IP電話大手のボネージ、スプリント・ネクステルとの特許裁判に敗訴 』
http://www.computerworld.jp/news/trd/80309.html
●『米最高裁、LG特許裁判の再審理を決定』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20357197,00.htm
●『WSJ-クアルコム、7−9月期の業績見通しを上方修正(ダウ・ジョーンズ)』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070926-00000015-dwj-biz