●平成18(ワ)17357不正競争行為差止等請求事件「オービックス,ORBIX

  本日は、『平成18(ワ)17357 不正競争行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟オービックス,ORBIX」 平成19年05月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070601164529.pdf)について取り上げます。


  本件は、不正競争防止法の事件であり、原告が、同法2条1項1号,2号により、被告標章,その他の「オービックス」又は「ORBIX」の文字を含む商号及び標章の使用差止め,被告標章の看板等の営業表示物件からの抹消,被告商号の抹消登記手続及び損害賠償を求めた事案で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点1として、被告行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争行為に該当するか争われ、不正競争防止法における標章の類似や混同の概念について判示されており、参考になる事案です。


 つまり、東京地裁(民事第46部 設樂隆一 裁判長裁判官)は、

『1 争点1(被告標章の使用は,不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争行為に該当するか)について

(1) 原告標章の周知性,著名性について


ア 証拠(甲1,甲5,甲6,甲7の1ないし4,甲8の2ないし4,甲9の1ないし232,甲10の1及び2,甲12,甲14,甲20)及び弁論の全趣旨によれば,原告の営業状態,原告標章の使用状況等について,前記第2の1(1)ア及び(2)に認定の事実のほか,以下の事実が認められる。


・・・省略・・・


イ 上記認定のような原告の経営状況,宣伝広告の回数,その内容等に鑑みれば,原告標章1は,被告が現在の商号に変更し被告標章の使用を開始した平成8年9月よりも前に,全国の需要者の間で広く認識されていたものであり,その状態は現在まで続いていると認められる。また,原告標章2も,上記のとおり,その称呼をカタカナ表記した「オービック」(原告標章1)が広く認識される状況にあることに加え,前記第2の1(2)のとおり,原告標章2とはアルファベットの「I」が小文字である点が異なるのみの「OBiC」の文字を含む商号が原告の商品等表示として用いられたりしていることに鑑みれば,原告標章1と同様に,平成8年9月よりも前に,全国の需要者の間で広く認識されていたものであり,その状態は現在まで続いていると認められる。


(2) 原告標章と被告標章との類似性について

ア 不正競争防止法2条1項1号にいう「同一若しくは類似の商品等表示」とは,標章の細部にいたるまで同一でなくとも,その要部に着目して同一又は類似といえるものをいうものであり,標章の類似性は,取引の実情の下において,取引者又は需要者が,両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である。


イ そこで,まず,原告標章1と被告標章1を比較するに,被告標章1は,「有限会社オービックス」という会社の形態を表す「有限会社」と「オービックス」を組み合わせたものであるから,その要部は,「オービックス」であるところ,原告標章1との違いは,末尾にカタカナの「ス」が付くかどうかにすぎないから,被告標章1が原告標章1に類似することは明らかである。


 また,原告標章2と被告標章2とを比較すると,いずれもアルファベットで表記されており,その違いは,「O」と「B」の間に「R」が付くかどうか,末尾の文字が「C」であるか「X」であるか,また,その称呼の末尾に「ス」が付くかどうかにすぎない。したがって,被告標章2も原告標章2に類似するものと認められる。


 さらに原告標章2と被告標章3とを比較すると,被告標章3は,アルファベットの字体が被告標章2と異なること,アルファベットの下部に重ねて横線が引かれていること以外は,被告標章2と同様のものであるから,被告標章2と同様に被告標章3もまた,原告標章2に類似するものというべきである。


ウ 被告は,i)原告標章と被告標章は,その意味が異なり,ii)原告は株式会社,被告は有限会社であることが異なるから,原告標章と被告標章は類似しないと主張する。


 しかし,「同一若しくは類似の商品等表示」とは上記アに記載したようなものをいうのであり,両標章の由来や意味が異なれば直ちに非類似という結論に至るわけではない上,本件の場合,原告標章はどのような由来,意味を有するものか,その標章自体から必ずしも明らかでないものの,被告標章についても,その表記,称呼等から被告の主張するような由来や意味を有するかどうか判然としないものである。また,株式会社か有限会社かは会社の種類にすぎず,各標章の要部とはいえないから,その違いは類似性の有無を左右しない。被告の上記主張は失当というほかない。


(3) 混同について

ア 不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の商品等表示と同一又は類似のものを使用する者が,自己と他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為をも含むものであり,混同を生じさせる行為というためには両者間に競争関係があることを要しないと解すべきである(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁)。


イ 本件の場合,原告は,前記(1)アa)に認定したとおり,複数の連結子会社ないし関連会社からなる企業グループを形成し,日本全国の小売・サービス業等多岐にわたる業種の企業及び官公庁を対象として,会計情報システム,販売情報システムその他のシステムを統合した総合業務ソフトウェアを製造,販売し,かつハードウェアの保守やシステム用のサポート等を行っているものであり,その提供するシステムのなかには店舗POSシステムが含まれている。他方,被告は,福岡に本社を,東京に営業所をおく資本金450万円の有限会社であって,その主要業務は,Windows版コンピュータシステム(業務用)の企画,開発,販売,業務用コンピュータシステムの保守・メンテナンス,レンタルショップ(ビデオ,DVD,CD)の販売企画・運営管理・経営管理の支援業務等であり,その主要商品は,レンタル セル(ビデオ,DVD,CD)POSシステム,複合カフェPOSシステム,書籍管理POSシステム等で,その主要納入先は,全国のビデオ/CDレンタルショップ,全国のインターネットカフェ,全国の書店等である(甲2の1,乙1,2,4,5)。


 以上のように,原告と被告の業務内容は,コンピュータシステムないしソフトウェアの製造,販売,それに伴うサービスの提供という共通性があることに加え,被告の主力商品がビデオ等のレンタル店を対象としたPOSシステムであるところ,原告の商品にもPOSシステムが含まれること,原告の商品又はサービスの対象業種が多岐にわたることを併せ考えれば,被告が原告標章と類似する被告標章を使用してその営業を行えば,原告と同一か,同一でなくとも原告の系列企業であるとの誤認を生じさせるものと認めることができる。


 したがって,被告が被告標章を使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号に規定する「混同を生じさせる行為」に該当する。


ウ 被告は,i)双方の営業が競業,競合関係にあるか,現実に混同が生じているか,類似商号使用者の悪意の存否等を具体的に検討する必要がある,ii)原告と被告とでは業態や販売方法が異なり,誤認混同のおそれはないし,iii)被告は法務局において類似商号を調査確認の上,商号登記したもので,悪意はなかったと主張する。


 しかし,そもそも,「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」とは前記アのようなものをいうのであって,類似商号使用者の悪意が必要であるとする被告の主張は不正競争防止法2条1項1号の解釈として誤りというほかないし,原告と被告の業態等を比較し,原告と被告が同一でなくとも原告の系列企業であるとの誤認が生じ得るものであって,被告標章の使用が「混同を生じさせる行為」に該当することは前記イに述べたとおりである。被告の上記主張も失当である。


(4) 本件請求が権利濫用・信義則に該当するかについて

 被告は,i)不正競争防止法にいう誤認混同行為に対する差止請求・損害賠償請求においても,行為者において「不正」の認識が存することが要件と考えるべきである,ii)被告は,法務局において類似商号を調査確認の上,商号登記したもので,悪意はなかったものであり,その後10年間問題なく被告標章の使用を継続していた,iii)原告は,突然何らかの方法で被告標章1を発見したことから,事前に内容証明1本を送りつけただけで,被告の商号使用を差し止める必要性など存しないにもかかわらず本件訴訟を提起したもので,原告の請求は権利濫用であり,信義則に反すると主張する。


 しかし,不正競争防止法にいう誤認混同行為を定義した同法2条1項1号,行為者に対する差止請求権を規定した同法3条,行為者の損害賠償責任を規定した同法4条のいずれにおいても「不正の認識」は,要件とされておらず,被告の主張は前提とする同法の解釈を誤っている。また,被告が10年間被告標章の使用を継続していたとしても,本件において,原告の本件請求が権利濫用ないし信義則違反であるといえるような事情は何ら見あたらない。被告の上記主張も採用することはできない。 』


 と判示されました。


 なお、本判決文では引用していませんが、上述の不正競争防止法における被告標章と原告標章との類似の概念や、混同の概念について判断は、『昭和57(オ)658 商号使用差止等 不正競争 民事訴訟「ウーマン・パワー」昭和58年10月07日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17D16AF173CCBADB49256A8500311F87.pdf)における判示事項と同じです。


 この最高裁は、以前の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20070130)で取り上げた『平成18(ワ)17405 商号使用差止等請求事件 不正競争 杏林ファルマ株式会社 平成19年01月26日 東京地裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070126170354.pdf)の判決文の中で引用されています。


追伸;<気になった記事>

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http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070925/msken.htm
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http://japan.internet.com/finanews/20070925/1.html
●『ケンウッドとマイクロソフト、家電やカーナビ分野で特許クロスライセンス契約を締結』
http://www.phileweb.com/news/d-av/200709/25/19449.html