●平成18(行ケ)10494審決取消「ホログラフィック・グレーティング」

  本日は、『平成18(行ケ)10494 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホログラフィック・グレーティング」平成19年09月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070921105405.pdf)について取り上げます。


  本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟であり、その請求が棄却された事案です。


  本件では、補正前は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームで発明のカテゴリーが物であったのに,補正後は発明のカテゴリーが方法になっており,発明のカテゴリーを変更する補正であり、特許法17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない、と判示された点で、参考になる事案かと思います。


  つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長)は、


『1 物の発明と方法の発明の区別


  特許法は,発明の実施について「物の発明」と「方法の発明」とを区別して規定し(同法2条3項),そのいずれであるかによって,法律効果が異なるものとしている(例えば,同法101条,104条,175条2項)。


 また,出願人は,「物の発明」としての特許を請求するか,「方法の発明」としての特許を請求するかを選択することができるだけでなく,2以上の請求項に分けて記載することによって,両者の特許を請求することもできる。本件出願時において,平成15年法律第47号による改正前の特許法37条は,「二以上の発明については、これらの発明が一の請求項に記載される発明(以下「特定発明」という。)とその特定発明に対し次に掲げる関係を有する発明であるときは、一の願書で特許出願をすることができる。


一 その特定発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明
二 その特定発明と産業上の利用分野及び請求項に記載する事項の主要部が同一である発明
三 その特定発明が物の発明である場合において、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明、その物を生産する機械、器具、装置その他の物の発明、その物の特定の性質を専ら利用する物の発明又はその物を取り扱う物の発明
四 その特定発明が方法の発明である場合において、その方法の発明の実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物の発明
五 その他政令で定める関係を有する発明」と定めていたから,「物の発明」と「方法の発明」の両者を一出願により請求することが可能であった。


  さらに,特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定していることからすると,方法の発明と物を生産する方法の発明との区別は,まず,「願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載」に基づいて判定すべきものである(最高裁判所平成10年(オ)第604号事件平成11年7月16日判決・民集53巻6号957頁)。


 以上によれば,特許請求の範囲の記載は,出願人が「物の発明」と「方法の発明」とで法律効果が異なることを考慮して,いかなる権利を請求するかを選択し,その選択の結果を反映させるべく自ら適切な表現を選んで記載したものであるから,特許出願に係る発明が「物の発明」と「方法の発明」のいずれであるかの区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであると解される。


2 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実質

  補正前請求項1が広義のプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,当事者間に争いがない。原告は,東京高裁平成14年判決の判示事項を反対解釈して,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて,請求項に記載された物が当該請求項に記載された製法によって製造されたものに限られることが明示されていれば,当該請求項の実質的なカテゴリーが「方法」であると解釈されるべきであると主張する。


 プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは,東京高裁平成14年判決にあるとおり,「物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含する」形式で記載された特許請求の範囲であり,「発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例えば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるとき」などに認められる特許請求の範囲の記載方法でであるということができる。上記の意義からも明らかなように,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにあっては,特許請求の範囲に物の製造方法(プロセス)が記載されていても,その記載は発明の対象となる物(プロダクト)を特定するためであり,物の製造方法についての特許を請求するものではない。


  したがって,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれた発明のカテゴリーは,あくまで「物の発明」であって,「方法の発明」ではないし,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできない。原告の主張は,東京高裁平成平成14年判決を正解するものとはいえず,採用することはできない。


3 本件補正の適否

(1) 前記1のとおり,出願人は「物の発明」と「方法の発明」のいずれとするかを選択し,表現することができる立場にあり,出願人の選択の結果は特許請求の範囲に表現されており,「物の発明」と「方法の発明」の区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであるところ,補正前請求項1の記載は,「…光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線してなるホログラフィック・グレーティング。」となっているから,補正前発明1の対象は,「ホログラフィック・グレーティング」という「物」であることは明らかである。原告は,請求項の末尾の文言のみに着目したとして,審決の認定を非難するが,補正前発明1は,特許請求の範囲の記載から上記のとおり一義的に明確であり,この記載に基づき補正前発明1を「物」の発明と認定した審決に誤りはない。


(2) プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,発明のカテゴリーが「物の発明」であることを意味し,たとえ製造方法の記載が含まれていても「方法の発明」ではないし,また,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできないから,補正前請求項1がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,上記の結論を左右するものではない。


(3) 補正後請求項1は「…ホログラフィック・グレーティング製作方法」と記載され,その発明のカテゴリーが「方法の発明」であることは明らかであるから,本件補正は,「物の発明」であった補正前請求項1を「方法の発明」である補正後請求項に補正することを目的としている。


 発明のカテゴリーによって,法律効果が異なることは前記1のとおりであるから,発明のカテゴリーを「物の発明」から「方法の発明」に変更することは,「物の発明」として請求していた権利とは異なる効果を有する別の権利を請求することにほかならない。したがって,本件補正は,特許請求の範囲を変更するものであり,特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない。


(4) 上記のほか,原告は,審査官が補正前発明1を物の製造方法に係る発明と認識していた,欧州特許庁の審査実務の運用規定との国際的調和を根拠に,本件補正が認められるべきであると主張するが,いずれも上記の結論を左右するものではなく,失当である。


4 結論


以上に検討したところによれば,本件補正を却下した審決の判断に誤りはなく,原告は,補正前請求項1ないし3を前提にした取消事由は主張していないから,審決取消事由には理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。


 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


 と判示されました。


 妥当な判決かと思います。


 詳細は、本判決文を参照してください。


  なお、本判決文中で引用している最高裁判決は、「平成10(オ)604 特許権侵害予防請求事件 特許権 民事訴訟「のカリクレイン生成阻害能測定法」平成11年07月16日 最高裁判所第二小法廷』
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/5A6CF87433E4C6AC49256DC7000589F0.pdf)です。


 追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成19(ネ)10038 特許権に基づく差止請求権不存在確認 民事訴訟 平成19年09月20日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070921152703.pdf
●「平成18(行ケ)10494 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ホログラフィック・グレーティング」平成19年09月20日 知的財産高等裁判所」(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070921105405.pdf
●『平成18(ワ)7458 損害賠償等請求事件 不正競争 民事訴訟「パパイヤ発酵食品「PS-501」」平成19年09月13日 大阪地方裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070920104357.pdf
●『平成18(ネ)10080 債務不存在確認等請求控訴事件 不正競争 民事訴訟「感知式耐震ラッチPFR-T」平成19年09月12日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919170348.pdf
●『平成18(ネ)10069 特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件 特許権 民事訴訟地震時ロック方法及び地震対策付き棚」平成19年09月12日 知的財産高等裁判所http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919154652.pdf