●平成19(行ケ)10046 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「MIZUHO」

本日は、『平成19(行ケ)10046 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟MIZUHO」平成19年09月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070914160425.pdf)について取り上げます。


 本件は、被告の商標登録についての商標登録無効審判の棄却審決に対し原告がその取消しを求めた審決取消し訴訟事件であり、その請求が棄却された事案です。


 本件では、被告(株式会社みずほフィナンシャルグループ)の「MIZUHO」の商標登録が著名であり、原告の先願先登録の引用商標「みずほねっと」が未使用な場合で、商標が非類似と判断されました。


 先願先登録の引用商標より後願商標の方が周知・著名な場合の商標の類否判断として、参考になる事案です。


 つまり、知財高裁(第4部 田中信義 裁判長)は、


『1 取消事由1(本件両商標の類否判断の誤り)について

(1)ア 引用商標は,前記のとおり,「みずほねっと」の平仮名6文字を標準文字で,同書,同大,同間隔に一連にまとまりよく書して成るものであり,また,決して冗長ではなく,一息によどみなく称呼し得るものであるから,引用商標から「ミズホネット」の称呼が生ずることは明らかである。


 更に検討するに,引用商標は,「みずほ」と「ねっと」から成る一種の造語であると認めることができるところ,「みずほ」は,「みずみずしい稲の穂」(株式会社岩波書店平成10年11月11日発行の「広辞苑第五版」。甲13)を意味する普通名詞であり,「ねっと」の語はそれ自体国語辞典には掲載されていないのであるから,引用商標は原告による造語であり,直ちに,一般人がその観念を了解することは困難であるといわざるを得ない。


 もっとも,「ねっと」と称呼を同じくする「ネット」は,「網」,「ネットワーク」,「インターネット」等の意味を有する普通名詞(前掲広辞苑等)であるところ,引用商標の外観から直ちに「ネット」を想起することができるか否かは平仮名と片仮名の相違があることから疑問といわざるを得ないが,称呼だけからは両者は区別できないため,「みずほねっと」を「みずほネット」と理解することも十分考えられるところである。


 そして,この場合の称呼及び観念についてみると,前述のとおり「みずほ」も「ネット」も共に普通名詞であり,それ自体は自他役務識別機能を有しないことを考慮すると,これら普通名詞同士の組合せから成る一種の造語として理解されるものというべきであるから,その称呼は「ミズホネット」であり,「ミズホ」のみの称呼は生じないものというべきである。


  次に観念についてみると,「ネット」の前記のような意味を踏まえ,「みずほネットワーク」ないしは「みずほインターネット」との観念が生ずる余地があるところである。

  しかし,これらは,いずれも普通名詞2語の組合せから成る一種の造語であり,2語が相まって初めて一つの観念を形成するものというべきであるから,これらから単に「瑞穂」なる観念が生ずる余地はないものというべきである。


イ  原告は,引用商標において自他役務識別機能を有するのは「みずほ」の部分であり,引用商標は,この語の後ろに,同機能を有しないか,有するとしても希薄である「ねっと」の語(「インターネット」の略語)を結合させたものであるから,引用商標を一体不可分の語と認識すべきではない旨主張する。


しかしながら,上記主張は,前項に説示したところに照らして失当であり,採用することはできない。


(2)ア そして,前記のとおりの本件商標の構成(「MIZUHO」の文字を標準文字で書して成るもの)に,上記(1)において説示したところを併せ考慮すると,1 本件両商標の外観が類似するということはおよそできず,2 本件商標からは「瑞穂(みずみずしい稲の穂)」の観念が生じるのに対し,引用商標からは,「みずほネットワーク」ないしは「みずほインターネット」の観念が生じ得る余地があり,3 本件商標からは「ミズホ」の称呼が生じるのに対し,引用商標からは「ミズホネット」の称呼が生じることになるのであるから,本件両商標は,外観,観念及び称呼のいずれの点からも,類似しないものであるといわざるを得ない。


イ(ア) 原告は,本件両商標の類否判断に当たっては,本件両商標の文字種を固定化すべきではなく,本件両商標を同一の文字種(平仮名,片仮名及びローマ字)においても対比すべきである旨主張するが,商標法27条1項は,「登録商標の範囲は,願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」と規定し,また,同法12条の2第2項3号は,出願公開に際して商標公報に掲載すべき事項として,「願書に記載した商標(第五条第三項に規定する場合にあつては標準文字により現したもの。・・・)」と規定しているのであるから,原告の上記主張は失当である。


(イ) 原告は,上記主張の根拠として,商標法50条1項の括弧書きを挙げるが,同括弧書きは,登録商標の不使用を理由とする商標登録の取消審判において,使用していると認められる当該登録商標の範囲(構成)について定めたものであるから,これを,商標の類否判断における当該商標の範囲(構成)を規律するものと解するのは相当でない。


ウ 原告は,標準文字により構成される商標の場合には,すべての構成文字を同書体,同大,同色で統一して表示する必要はない旨主張するが,本件両商標は,いずれも色彩を付した商標ではないし,また,標準文字とは,特許庁長官の指定する文字であって(商標法5条3項),登録商標の範囲を定めるに当たり,構成文字の書体を変更したり,その大きさを不統一なものにしたりすることが許されないものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。


エ 原告は,インターネットにおいては,識別標識として,ドメイン名が用いられているとの取引の実情にかんがみ,本件商標を,引用商標をドメイン名化した「mizuho.net」と対比すべきであるとも主張するが,独自の見解であって,到底採用することができない。


(3) 以上によれば,本件両商標の類否判断の誤りをいう取消事由1は,理由がない。(したがって,本件商標登録が商標法4条1項11号,同項15号又は同法8条1項の規定に違反してされたものではないとの審決の判断に誤りはないことになる。)。


2 取消事由2(商標法4条1項15号違反についての判断の誤り)について


 上記1において説示したところによれば,本件商標登録が商標法4条1項15号の規定に違反してされたものではないとの審決の判断に誤りはないことになるが,念のため,以下,取消事由2に対する当裁判所の判断を示すこととする。


(1) 本件両商標が類似しないものであることは,上記1において説示したとおりである。


(2) そして,原告は,引用商標を使用していないこと及び引用商標が著名・周知でないことを自認しているのであるから,本件商標が,「他人」である原告の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であると認めることは到底できず,その他,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。


(3) 以上によれば,商標法4条1項15号違反についての判断の誤りをいう取消事由2は,理由がない。


3 結論


  よって,審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。  』

 と判示されました。


  なお、同日に出された『平成19(行ケ)10114 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟MIZUHO」平成19年09月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070914161835.pdf)と、『平成19(行ケ)10047 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟MIZUHO」平成19年09月13日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070914161154.pdf)も同様に判断され、棄却されています。



  詳細は、判決文を参照してください。


  追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10464 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「塩化物で補助される湿式冶金的な銅抽出方法」平成19年09月18日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919131204.pdf
●『平成19(ワ)11535 著作権侵害差止請求事件 著作権 民事訴訟 平成19年09月14日 東京地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919121214.pdf
●『平成19(ワ)8141 著作権侵害差止請求事件 著作権 民事訴訟 平成19年09月14日東京地方裁判所』(認容判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070919115951.pdf