●平成18(行ケ)10342 審決取消請求事件 実用新案権「ゴルフクラブ

 本日は、昨日に続いて、『平成18(行ケ)10342 審決取消請求事件 実用新案権ゴルフクラブ用ヘッド」行政訴訟 平成19年05月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070524111949.pdf)について取り上げます。


 本件では、審決取消訴訟において新たに提出甲号各証が周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたものであるから,本訴における証拠資料の一部とすることができる等と判示された点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁は、


『2 取消事由2(審決判断1における相違点についての判断の誤り)について

(1) 審決は,甲1考案を「鍔部2をアルミニウム等の軽金属で形成し,ホーゼル部を前記軽金属よりも比重の大きい鋳造用非鉄金属で形成してなるゴルフクラブヘッドにおいて,前記鍔部2と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に,凹部を形成し,この凹部に,鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブヘッド」と認定し,この認定に係る甲1考案の構成(なお「鍔部2」は「フェース部」に相当。)と本件考案の構成とを対比して,「本件考案が『前記フェース部と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは,反対側の前記ホーゼル部のフェース部側との間に,使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成し,この凹部に,フェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる』のに対し,甲1考案はゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した構成を有しない点」を甲1考案と本件考案との相違。点として認定したものである。


  上記相違点に係る認定は,文言上,多少不明確であるが,上記甲1考案の認定及び甲1考案と本件考案との一致点の認定に照らすと,審決が,本件考案に係る「この凹部にフェース部とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる」構成は, 甲1考案も備えるものとして,これを上記相違点に含めていないこと,換言すれば,相違点に係る本件考案の構成は「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成した」点だけであると認定したことは明らかである。


(2) しかるところ,審決は,原告が,参考資料2〜4を挙げてした「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張を排斥したものである。


 しかしながら,甲4の1〜甲4の5及び甲10の1〜甲10の15は,国内外の様々のメーカーが販売する,様々な商品名,番手(ただし,全部アイアン)のゴルフクラブ二十数種類について、それぞれそのフェース部とホーゼル部の間の凹部にゴルフボールを接着した状態を撮影した写真であり、これらの製品は,昭和59年3月1日発行の84年版ゴルフ用品総合カタログ(甲3の1)及び平成元年3月1日発行の89年版ゴルフ用品総合カタログ(甲9)に掲載されているから,いずれも本件出願前に市販されていたものと認められる。そして,これらいずれの写真においても,ゴルフボールの外周面と,フェース部とホーゼル部の間の凹部との間に,三日月状の空隙部が形成される様子が示されているから,これら二十数種類のゴルフクラブは,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの外径曲率よりも大きいものと認められるところ,このように,様々なメーカーが販売する二十数種類ものゴルフクラブ(アイアン)に係るフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率が,ゴルフボールの外径曲率よりも大きいとすれば,本件実用新案登録出願当時「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」ことは,一般に見られる周知技術であったものと認めるのが相当である。

 
 そうすると,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記「当該凹部の曲率を使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。


(3)被告は, 上記甲号各証につき,審判において証拠として提出されたものではなく,そのような証拠を,審決取消訴訟において新たに提出して,審決取消しの理由とすることは許されないと主張するところ,審判において,上記甲号各証が提出された形跡がないことは主張のとおりである。


 しかしながら,原告が「使用するゴルフボールの外径曲率より大曲率の凹部を形成」することは周知であるとの主張をし,この主張につき審決の判断を経ていることは上記のとおりであり,本訴において,上記甲号各証は,当該周知技術の存在を裏付ける補強資料として提出されたにすぎないものであるから,これを本訴における証拠資料の一部とすることが許されないものではない。


 …省略…


(5) 被告は,上記甲号各証に記載されたゴルフクラブは,フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッドという本件考案の前提の構成を欠いているから,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題に基づく,本件考案の相違点に係る構成の容易性を判断する根拠にはなり得ないとも主張する。



 しかるところ,上記のとおり,審決の認定に係る甲1考案は,「鍔部2( フェース部」に相当)をアルミニウム等の軽金属で形成し,ホーゼル部を前記軽金属よりも比重の大きい鋳造用非鉄金属で形成してなるゴルフクラブヘッドにおいて,前記鍔部2と前記ホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に,凹部を形成し,この凹部に,鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなるゴルフクラブヘッド」というものであり,「フェース部とホーゼル部とを異なる部材で形成してなるゴルフクラブ用ヘッド」という,本件考案の構成要件は,甲1考案が備えているとするものであるから,被告の上記主張は,結局,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題が,甲1に記載されていないことを理由に,上記「ゴルフクラブ(アイアン)において,フェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率を,使用するゴルフボールの外径曲率よりも大曲率とする」周知技術を甲1考案と組み合わせるに際しての動機付けは存在せず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることということはできない,との主張に帰着するものと解される。



  しかしながら,上記のとおり,上記周知技術は,ゴルフクラブ(アイアン)において,一般に見られるものであり,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにつき,阻害事由も見当たらないから,甲1考案に上記周知技術を採用することは,当業者であれば,格別の動機付けがなくとも適宜試みる程度のものというべきであるしたがってフェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接することを確実に防止するという課題の認識いかんに関わらず,甲1考案におけるフェース部とホーゼル部との間の凹部の曲率について,上記周知技術を採用することにより,相違点に係る本件考案の構成とすることは,当業者がきわめて容易になし得ることというべきである。


(6) 被告は,本件考案の奏する作用効果についての認識が,甲1その他の刊行物にないとも主張する。


 しかしながら,甲1考案が審決の認定するとおり,鍔部2(フェース部)とホーゼル部のシャフト嵌入部とは反対側の前記ホーゼル部の鍔部2側との間に形成した凹部に「鍔部2とホーゼル部との連結部の境界線を位置させてなる」ものとすれば,これに上記周知技術を採用した場合に,フェース部とホーゼル部との境界線にゴルフボールが直接当接しなくなることは,きわめて容易に予測し得るところであるから,本件考案が,主張のような作用効果を奏するからといって,上記(2)の結論に影響を与えるものではない。


(7) そうすると,審決の相違点についての判断は,誤りであると言わざるを得ず,この誤りが審決の結論に影響を与えることは明らかである。


2 結論

 以上によれば,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照してください。