●平成11(ワ)19224 不正競争 民事訴訟 平成12年12月07日 東京地裁

  本日は、『平成11(ワ)19224 不正競争 民事訴訟 平成12年12月07日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1845FE84276CDE9749256A7700168A68.pdf)について取上げます。


  本件も、被告の行為が不正競争防止法上の営業秘密不正利用行為に該当するか否か争われた事件であり、営業秘密性がないと判断された事案です。



 つまり、東京地裁(三村量一 裁判長)は、

『二 争点2(営業秘密性)について

1 証拠(甲九、一〇、一八、二五、二八、五四、乙一、四、五、証人【F】、同【G】、同【C】)によれば、次の事実が認められる。


(一) 本件情報一は、城西支社の作成に係るその顧客に関する契約内容一覧表及び車両変動状況表であり、本件情報二は、本社エサックス事業部の作成に係る管理車両及び運転者一覧表であり、神奈川支社と城西支社の顧客に関するものである。そして、両者ともバスと乗用車の二つに区分されている。


  本件情報一は、城西支社においてパソコンのハードディスク内に磁気情報として保存されるほか(バックアップのためフロッピーディスクにも保存されている。)、A4版の大きさの紙媒体(甲九)としても存在していた。本件情報二は、エサックス事業部においてパソコンのハードディスク内に磁気情報として保存されるほか、B4版の大きさの紙媒体(甲一〇)としても存在していた。


(二) 本件情報一の紙媒体(以下「紙情報一」という。)は、城西支社において支社長、エサックス部運行管理部長及び営業担当者三名に配布されており、【C】も城西支社に在籍中は職務上その配布を受けていた。本件情報一は、主に営業担当者が顧客との交渉の際の下資料として用いていたが、運行の担当者が仕事上の必要から本件情報一の内容を聞きに来ることもあった。その際には、各営業担当者は口頭でそれを教えていた。


  本件情報二の紙媒体(以下「紙情報二」という。)は城西支社にも送付され、城西支社においては担当の女性社員の机の上のファイルに保管されていた。紙情報二については、各営業担当者には写しが配布されておらず、必要に応じて右ファイルを閲覧するようになっていた。なお、本件情報一の内容については毎月更新されており、更新される度に古い書類はシュレッダーで廃棄される取扱いになっていた。


(三) 本件訴訟において書証として提出されている紙情報一(甲九)については、各頁に「マル秘」の印が押捺されている。これに対して、平成一〇年八月一日現在の神奈川支社エサックス部のバスに関する契約内容一覧表(甲一二の8)、同年九月三〇日現在の城西支社の乗用車に関する契約内容一覧表(甲五五)には、同種の書類であるのに「マル秘」の印は押捺されていない。


(四) 本件情報一は前記のとおり、パソコンのハードディスク内に保存されていたが、パソコンのシステムを起動する際に「JYOSAI」の文字を入力するほか、右情報にアクセスするため必要なパスワード等は設定されていなかった。


 しかも、右「JYOSAI」の文字は、パソコンを操作する者に分かるように画面の脇に貼られていた。そのため、パソコンの担当者等本件情報一の作成・更新の業務に携わっている者でなくても、フォルダーの中味を検索するなどして時間と手間をかければ、パソコン内にある本件情報一を発見することは可能な状態にあった。


(五) 原告会社の従業員は、入社時に誓約書を提出する扱いになっており、その中には「会社業務上の機密をもらさないこと」がうたわれていた。その他、平成八年一一月一五日付けで「機密保持の徹底について」と題する管理本部長名の通知が発出されていたが、それ以外に、本件情報について特に管理を徹底すべきことを指示する内容の文書は残っていない。


(六) 本件情報一のもとになるデータは、各顧客との間の契約書であり、この契約書は城西支社で別途保管されていた。したがって、万一、本件情報一が失われても、その内容を復元することは可能であった。


  本件情報の内容に関し、契約先である顧客については大半が原告会社の発行する経歴書(甲三)の「主な得意先」欄に記載され、公表されている。 また、基本管理料、車種、サービス内容等の個々の項目については、同業者であればおおよそその内容は見当がつく性質の情報であり、個々の営業活動において顧客から聞き出したり、逆に顧客が他社の見積りを見せて交渉することも広く行われている。


2 一般に、不正競争防止法二条四項にいう「秘密として管理されている」ことの要件としては、i) 当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや、ii) 当該情報にアクセスできる者が限定されていることが必要である。


  これを本件についてみるに、右認定の事実によれば、本件情報については、営業担当者のみならず、運行の担当者その他原告会社の従業員であれば、これにアクセスできる状況にあったと評価できる。証人【F】、同【G】は、本件情報の管理に関し、城西支社及び本社エサックス事業部においては、紙情報一、同二をそれぞれ施錠された金庫に保管していた旨証言するが、仮にこの証言が真実であるとしても、前示認定のように城西支社において紙情報一は営業担当者に配布され、紙情報二は机の上のファイルに収納されていたのであるから、本件情報へのアクセスが制限されていたと評価するには程遠いというべきである。パソコン内の本件情報一についても、アクセスを制限する意味でのパスワードが設定されていたということはできないから、同様にアクセスが制限されていたと評価することはできない。


  また、右1(三)の事実によれば、紙情報一、同二に平成一〇年一一月当時「マル秘」の印が押捺されていたことにも疑念を挾む余地があり、被告の指摘するように本件訴訟のために後から右の印を押した可能性を否定できないというべきである。したがって、紙情報一、同二に営業秘密であることを示す標識が付されていたことも十分に証明されていないと言わざるを得ない。


3 さらに、本件情報の内容のうち、顧客名については原告会社自らが公表しているのであるから非公知性は失われているし、それ以外の基本管理料等の項目については、これらをまとめた資料があれば便利であるが、なくても別の方法で取得することは可能であって、営業秘密であるための要件としての有用性までは認められないというべきである。


4 右によれば、本件情報は他の社内向けの文書と大差のない状態で管理されていたというほかはなく、秘密として管理されていたものと認めることはできない。  』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 尚、本件は、有斐閣の「知的財産法判例集」にも掲載されている事件です。


 追伸;<気になった記事>

●『米国CAFC、被告保護の視点で特許の故意侵害基準を厳格化』
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/20070914.html
●『知財に大きな貢献…東北大、関連特許が年200件以上 』
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200709140044a.nwc
●『BroadcomQUALCOMMの特許侵害係争』
http://www.nikkeibp.co.jp/news/it07q3/545218/
●『ファイザー、インドのジェネリック薬企業との
特許侵害訴訟で勝訴(ファイザー)』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=1905
●『USPTO職員団体(POPA)の特許改革法案に対するスタンス』
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070911.pdf