●平成15(ワ)16407不正競争行為差止等請求事件 東京地裁

  本日は、『平成15(ワ)16407 不正競争行為差止等請求事件 民事訴訟 平成16年09月30日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/60D61296E0C107264925701F002DFB14.pdf)についてとりあげます。


 本件は,原告が,原告の元従業員である被告らに対し,原告の営業秘密に該当する「顧客名簿」及び「情報カード」に記載された各顧客情報を被告らが新たに開店した店の営業活動に使用したと主張して,不正競争防止法2条1項7号又は4号等の不正競争行為の差止め等を求めたもので、その請求が棄却された事案です。


 本件では、本件顧客名簿及び本件情報カード不正競争防止法2条4項の営業秘密に該当しないと判断した点、特に、秘密として管理されている」こと(いわゆる秘密管理性)の要件が参考になるかと思います・


 つまり、東京地裁(民事第46部 三村量一 裁判長)は、

『 1 本件顧客名簿及び本件情報カードが,不正競争防止法2条4項の営業秘密に該当するか(争点1)


  (1) 甲6ないし8,乙21,22及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(甲6の記載のうち,下記認定事実に反する部分は採用できない。)。


   ア 本件顧客名簿は,B5サイズ(見開きでB4サイズ)のノートに,顧客番号,顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及びその愛称が記載されたものである。


     本件情報カードは,別紙「ペットサロンムーお客様カード」と題する用紙に,顧客番号,当初の契約年月日,顧客名,紹介者,住所,電話番号,ペット愛称,種類・性別,誕生日,備考欄が設けられるとともに,20コマから成るメモ欄(トリミング等を行った年月日,料金,トリミング内容及び個々のペットの個別的な特徴を記載する欄)が設けられたものである。本件情報カードは,A4版クリアファイル帳8冊の中のビニールファイル内に顧客ごとに保管されている。


   イ 本件顧客名簿や本件情報カードは,原告店舗の入口を入って右側にある受付カウンター(レジ台)の棚に備え置かれている。同棚は一般顧客からは見えない位置にあり,その棚には扉も鍵もあるが,常時施錠されているわけではなく,扉さえ閉めていないことが多かった。また,本件情報カードは,被告ら在籍当時,一部の限られた従業員しか見ることができないような厳格な管理下におかれているものではなかった。


  (2) 不正競争防止法は,営業秘密を「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないものをいう」と定めるところ(同法2条4項),「秘密として管理されている」(いわゆる秘密管理性)というには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するというべきである。


    本件でこれをみると,本件顧客名簿及び本件情報カードは,その外観において「部外秘」等の記載によって営業秘密性が表示されているということはなく,また,保管場所に施錠したり,立ち入ることができる者を制限するなどしてアクセスできる者が一部の従業員に限定されているということもなかった。したがって,本件顧客名簿及び本件情報カードは,不正競争防止法にいう営業秘密に該当するだけの秘密管理性を備えていないというべきである。


  (3) この点につき,原告は,本件顧客名簿及び本件情報カードは,顧客から見えないレジ台下の扉の内側に常時保管され,その扉には鍵がかかっていた旨,レジをはじめ,受付カウンターには,原告が指名した店長クラスのベテラン従業員しか立ち入らせなかったので,一般の従業員は本件顧客名簿及び本件情報カードに手を触れることができなかった旨主張し,甲6(原告本人作成の陳述書)にはこれに沿う記載がある。


  しかし,本件顧客名簿及び本件情報カードに記載されている内容は日々の業務に必要な事項であり,原告店舗の規模に照らせば,特定の従業員しか閲覧できないような管理が行われていたとは考え難いこと,原告は,ここ数年,原告店舗での日々の運営を被告Bに任せていた旨述べており,この点に照らすと本件情報カード等の管理の実態を原告が把握していたのか疑問であることなどの点に加えて,乙21,22の記載内容に照らせば,甲6の前記記載部分は容易に採用できず,他に原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。


  (4) したがって,本件顧客名簿及び本件情報カード不正競争防止法にいう営業秘密に該当するとは認められないのであるから,その余の点について判断するまでもなく,同法に基づいて,その使用差止め及び損害賠償を求める原告の請求は理由がない。 』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


  追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10283 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ヒーリング装置とヒーリング方法」 平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070913154213.pdf
●『平成18(行ケ)10421 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 「多関節搬送装置,その制御方法及び半導体製造装置」平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(一部認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070913153622.pdf
●『平成19(行ケ)10007 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟燃料電池用シール材の形成方法」 平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070913153207.pdf
●『平成18(行ケ)10055 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟半導体装置および半導体装置作製方法」平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070913152207.pdf