●平成17(ワ)27477等 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟

  本日は、『平成17(ワ)27477等 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 平成19年05月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070606180915.pdf)について取上げます。


  本件は、原告が営業秘密に係る不正行為(不正競争防止法2条1項4号等)につき損害賠償を求めた事案ですが、不正競争防止法上の営業秘密としては認められなかった事案です。


  不正競争防止法上の営業秘密の解釈として参考になる事案かと思います。


  つまり、東京地裁は、

『1 争点1(営業秘密に係る不正行為(不正競争防止法2条1項4号,5号,7号,8号)の成否)について


(1) 証拠(甲18の1ないし3,19,20,49,50,乙100,原告代表者尋問,被告A本人尋問,被告B本人尋問,被告C本人尋問の各結果)によれば,次のとおり認められる。


ア 原告では,その事務所にあるオフィスコンピュータで顧客データを管理しており,この顧客データ(本件顧客データ)は「得意先ABC分析表」(甲18の1ないし3),「得意先コードブック」(甲19),「得意先特殊単価リスト」(甲20)として閲覧又はプリントアウトすることができる。「得意先コードブック」(甲19)とは,各得意先の得意先コード番号,住所,電話番号,地区,担当者等を抽出したものである。「得意先特殊単価リスト」(甲20)は,得意先別に,そこに卸している商品の詳細な商品名,入数,最新の単価,単価を現在の単価に更新した時期等を表にしたものである。


 「得意先ABC分析表」(甲18の1ないし3)は,得意先の売上金額,粗利額,最終取引日などを月毎,担当者毎に一覧表にしたものである。この得意先ABC分析表を見ると,利益の上がる得意先,すなわち,取引額が大きく,利益率が高い得意先がどこであるかを容易に知ることができる。


イ 原告における「見積書」は,営業担当者が,新しい取引先に商品の単価を提示するときや,既存の取引先相手に販売価格の変更を行う際などに,取引先に提示するために作成される。本件顧客データは「見積書」を基に入力される。個々の「見積書」は,市販(アピカ社製)の複写式の「見積書」(冊子)で作成されることが多く,この場合,営業担当者がその控え(本件見積書控え)を保管し,保管方法は各人に委ねられ,被告Bの場合,営業用の車の中に保管していた。


ウ 原告には,秘密管理のあり方や従業員の秘密保持義務を定めた規程はない。そして,本件顧客データへのアクセスについてパスワードは設定されておらず,事務机に設置された通常のパソコンで閲覧することも可能である。もっとも,閲覧できるのは,役員,営業担当者及び顧問のGであり,配送担当者は閲覧を認められていない。


 また,プリントアウトするには,事務所の一番奥にある社長席の脇に置かれた専用のプリンターを使う必要があり,通常のプリンター向けの用紙とは異なる用紙(ストックフォーム)が使用されている。プリントアウトは,基本的には,原告代表者,専務のI,常務のJ,被告A及び顧問のGにしか認められておらず,営業担当者がプリントアウトする必要がある場合には,これらの者の許可を得て行っていた。そして,プリントアウトしたもので用済みとなったものの処置は各人に委ねられ,印刷物を回収する措置が講じられることはなかった。


(2) 不正競争防止法における営業秘密は,不正競争防止法2条6項所定の要件を充たす必要があり,「秘密として管理されている」ことを要する。事業者の事業経営上の秘密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らせば,「秘密として管理されている」というには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。


 まず,本件見積書控えは,営業秘密であることが当該冊子に何ら表示されていない上,その管理方法について特段の指示はなく,各営業担当者の管理に委ねられていた。したがって,秘密管理性が認められないことは明らかである。


 次に,本件顧客データは,秘密管理性の認められない「見積書」を基にオフィスコンピュータにデータが入力されるものである。そして,前記認定事実によれば,コンピュータに保存された顧客データにアクセスするためのパスワードは存在せず,アクセスできる者についても明確な定めは設けられていない。そして,営業秘密の保護について就業規則等に何らの定めもなく,従業員に対し秘密管理について指導監督が行われていたという事情も認められない。


 原告は,本件顧客データを閲覧できるのは,役員や営業担当者に限られると主張するものの,営業を行わない配送担当者は,各取引先への販売価格等を参照する職務上の必要がないのであるから,閲覧を認められないというのは当然のことであって,営業を行わない配送担当者に閲覧が認められていないからといって,当該情報が営業秘密として表示され,アクセスできる者が制限されているということはできない。


 そして,プリントアウトについては,閲覧することができる者よりもその範囲が限定されているとはいえ,用済みとなった後に印刷物を回収する措置が講じられることはなく,その管理方法について指導がされていたということもない。したがって,本件顧客データについても,秘密管理性を認めることができない。


 以上のとおり,原告が「営業秘密」であると主張する本件顧客データ及び本件見積書控えには,そもそも秘密管理性が認められないのであるから,原告の不正競争防止法上の営業秘密に係る請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。』


 と判示されました。


 なお、不正競争防止法2条6項には、

 「 6  この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 」


 と不正競争防止法における営業秘密がが定義されています。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(行ケ)10533 審決取消請求事件 特許権 行政訴を「スロットマシン」平成19年09月12日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070912155342.pdf
●『平成19(行ケ)10026 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「軟水管理装置」平成19年09月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070912121047.pdf
●『平成19(行ケ)10009 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「移動体」平成19年09月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070912120716.pdf
●『平成18(行ケ)10456 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「通信システムのチャネル符号/復号装置及び方法」 平成19年09月11日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070912111852.pdf


追伸2;<気になった記事>

●『NTP、米大手携帯キャリアを特許侵害で提訴』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0709/12/news066.html
●『NTPが、AT&T、スプリント、ベライゾンなどを特許侵害で提訴』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20356273,00.htm
●『ソニーJR東日本,非接触ICカード技術の特許侵害で20億円の賠償を請求される』http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070912/139072/
●『第96回「非接触ICカードは誰が発明したのか(上)――『スイカ』の特許侵害で、ソニーJR東日本を訴えた松下昭 神奈川大学名誉教授」』http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm?i=20070912c8000c8&p=1